横には、亡くなった家族とキリスト。故人を描くアーティストが、アンチに屈せず絵を描く理由

    イラストレーターのアシュリー・ハーモンさんは、故人と現在の家族を結ぶイラストを描いています。自身の絵を「メモリアル肖像画」と呼び、「自分なりのお悔やみの気持ち」だと語ります。

    米テキサス州在住のブリタニー・ボーレン・リーチさんは、無名のユーチューバーでした。

    昨年のクリスマス翌日。生後3カ月の息子、クリューくんを起こしに行ったリーチさんは、彼が息をしていないことに気づきました。

    その翌週から、リーチさんは「病気と懸命に戦う息子の姿」をインスタグラムに投稿し始めます。

    リーチさんのインスタグラムには、祈りやクリューくんへのお悔やみの気持ちを投稿する人たちが増えていきました。その結果、彼女のフォロワー数はわずか数週間で90万人以上に膨らみました。

    ユーチューバーのシェアがきっかけで注目を集めた「故人のイラスト」

    一方、テキサスから3000キロ以上離れたシアトルに住む、イラストレーターのアシュリー・ハーモンさん(41)は、リーチさんの投稿を目にしました。

    リーチさんと同じく、母親のハーモンさん。しかし、リーチさんの悲劇を見た彼女の反応は、他の人とは少し違っていました。

    ハーモンさんは、インスタグラムに投稿された写真を使い、リーチさん一家の肖像画を描いたのです。

    そこには、彼女なりに解釈したイエス・キリストの姿が描かれています。クリューくんを抱き、リーチさんと手をつないでいる姿です。

    すると、リーチさん本人がこのイラストをシェア。50万件近くのいいねが付きました。

    故人を描くことに対する非難の声もあるが、自分なりの「お悔やみの念」

    ハーモンさんは、亡くなった子どもや怪我をした子どもたちの絵を描いて自身のインスタグラムに投稿しています。

    彼女の作品は、手作りの雑貨などを個人が売買できるサイト「Etsy」で販売されているのですが、売名行為だと非難されたり、絵を販売していること自体を批判されることもあるそうです。

    しかしハーモンさんは、自分なりの方法で、イラストを通じて手助けしたいだけだと話します。

    「インスタグラムでは、まるでこの人たちと知り合いで、つながっていて、話しているかのように感じます」

    「要は、私なりの手助け。私ができることはこれだって感じるのです」

    自分に向けられたネガティブなコメントに対しハーモンさんは、愛する家族を亡くした人たちに対しての「お悔やみの念」を表現したいだけだと主張します。

    「人って、自分のコミュニティをものすごく求めているのだと思います。人とつながりたいんだろうなって」

    「SNSが必ずもベストな方法かは分からないけど、世界は今、そこ(SNS)にあると思う」とハーモンさんは話しています。

    「だからこそ、人はSNSを利用するんだと思う」

    故人も含めて家族を描く、「メモリアル肖像画」

    ハーモンさんは、亡くなった人とその家族の構成の絵を描いています。大抵は、横にキリストの姿もあります。

    彼女は自身の絵を「メモリアル(追悼)肖像画」と呼んでいます。

    キリスト教を深く信仰するハーモンさんにとって、キリストを描くことは「自分の信仰心を芸術に落とし込む自分なりの方法」だと説明しています。

    「イエス様が天国でこの子たちを抱いている──この絵は、それを単に視覚的したものです」とハーモンさん。手をつないでいる姿は、天国と地上のつながりを表現しているそうです。

    「私はある意味『慰め』と『希望』を提供しているだけです」

    ハーモンさんが初めてメモリアル肖像画を描いたのは、義理の姉妹のためでした。他にも、突然死した友達の母親を追悼するために絵を描いたこともあるそうです。

    「自分に何ができるだろう?って考えました。私は話をするのがあまり上手ではないので、いい言葉が見つからなくて。でも誰かを無くした人のために絵を描くことならできる」

    ハーモンさんの作品はすぐに売れ出したわけではなく、販売点数がようやく1000点に達したのは昨年の夏でした。

    初投稿は自身の流産経験が題材

    2018年10月、自分のインスタグラムに「メモリアル肖像画」を初めて投稿すると、売り上げは急成長しました。

    初めてインスタグラムに載せたメモリアル肖像画は、2012年に自分自身が経験した流産を題材にした、自分の家族の絵でした。

    ハーモンさんは現在、インスタグラムに5万2000人のフォロワーがいて、投稿にはいくつものいいねが付けられています。

    自分で描いた絵を投稿し始めて以来、絵の売り上げは少しづつ伸びてきました。

    ハーモンさんによると、昨年の夏以降、総売上点数は2500点に倍増。

    需要に応えきれないため、一時的に新規の受注を停止しなければならないほどだったそうです。

    注文が増える中、キリスト教色の有無によらず、あらゆる種類の家族の肖像画を描いてきました。また、家族の人種に合わせて、キリストの肌の色味も変えていると言います。ただこれには、時に賛否両論が寄せられるようです。

    単に亡くなった家族を加えて一家の肖像画を描いて欲しい、とリクエストをするお客さんもいれば、亡くなった家族を他の表現で描いてほしい(亡くなった家族に天使の羽を描く、流産した赤ちゃんを星や虹として描くなど)といった注文もありました。

    墜落死した元NBA選手のメモリアル肖像画も

    元プロバスケットボール選手のコービー・ブライアントさんと娘のギアナさんが今年1月にヘリコプターの墜落事故で亡くなった時には、ブライアント一家のメモリアル肖像画を描いて欲しいというリクエストがフォロワーから寄せられました。

    注目が集まれば集まるほど、ヘイトも増えるものです。

    ネガティブなメッセージよりも嬉しいメッセージの方が多いとハーモンさんは言いますが、それでも、コービーさんとギアナさんのメモリアル肖像画を投稿した後には、「吐き気がする」「いくらなんでも早過ぎ」「売名行為」といった批判コメントが寄せられました。

    ハーモンさんは、自分がこうしたものを投稿するようになる前にも、インスタグラムにはファンアート(他人が描いたものの二次創作)が投稿されていたし、自分が何か間違ったことをしているとは思わないと言います。

    ただし、「被害者あさり」をしていると思われないように注意しているとも話しています。

    「人って文句を言いたがるものだということを、常に忘れないようにしています。全員に気に入ってもらうなんて無理ですから」

    「私の目標と願いは、家族を亡くした人々が悲しんでいるときに、慰めとなるものを提供することです」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan