「1カ月で260体以上の遺体。9割がコロナ感染者」葬儀場経営者が語る、パンデミックの惨状

    カリフォルニアで葬儀社を営むケン・マッケンジーさんは、「(新型コロナ感染で亡くなる人が)急増するとは思いましたが、ここまでとは思いませんでした」と語る。

    ケン・マッケンジーさん(54)は、1994年からカリフォルニア州ロングビーチでマッケンジー葬儀社を営んでいる。

    昨年の春に新型コロナウイルスが大流行し始めたとき、自分の葬儀社の設備で安置しきれない遺体用にと、約12メートルの冷蔵トレーラーを1台借りた。最悪の事態には備えた、とマッケンジーさんは思っていた。

    だがそれ以降、冷蔵コンテナはひとつでは足りず、ふたつ必要になった。

    新型コロナウイルスが流行する前は、1日に2~4体の遺体を受け入れるのが通常だった。今では毎日14~16体が運び込まれ、最近では遺体を安置する場所がなくなり、受け入れを断らなければならなくなった。

    「こんなことになるとは考えたこともありませんでした」「急増するとは思いましたが、ここまでとは思いませんでした」と、マッケンジーさんは語った。

    A man stands with a mask on surrounded by bodies in body bags

    2021年1月、カリフォルニア州における新型コロナでの死者数は約1万5千人にのぼり、昨年の感染拡大以降、同州の単月死者数は最高を記録した。

    死者数があまりにも多いため、同州の大気汚染管理当局はロサンゼルスと近隣の2郡で、1日当たりの火葬件数の上限を解除した。

    感染者数と入院者数は減少傾向にあるものの、死亡証明書の遅延、火葬や葬儀の順番待ち、墓石用の花崗岩や棺収納箱の不足などにより、いまだにたくさんの遺体が埋葬待ちになっている。

    1月は260体以上の遺体を受け入れ、そのうちの約90%が新型コロナによる死者だった。マッケンジーさんにとって、死者数の急増は「雪崩のような」衝撃だったという。

    「雪崩が起きたあとは、身動きが取れません」

    「完全に閉鎖された高速道路で、にっちもさっちもいかなくなった経験はありますか? 前にも進めないし、後ろにも下がれないし、動けない。まさに今、そんな気持ちです」

    A man pushes a body covered by a cloth on a gurney with a woman next to him
    Many bodies are seen on gurneys in a hallway

    マッケンジーさんは先日、自身の葬儀社で引き受けた新型コロナによる死亡者を記録するため、写真家のロバート・ルブランさんを招いた。

    同社では、防腐処理を施された何体もの遺体が繊維板の箱に安置されてシートに覆われており、ほとんどすべての部屋を埋めている。埋葬時に故人に着せる服を収納するスペースは、なくなった。葬儀の予定を書き込むホワイトボードは、つねに埋まっている。

    新型コロナの流行前は、一日に1〜2つの葬儀が行われるくらいだった。今では、1日に6~7の葬儀を手配している。

    現在、葬儀の待ち時間は約3週間だ。埋葬のために国外へ遺体の移送を計画している遺族の場合は、必要な書類手続きが混雑しているため、さらに時間がかかる。

    「国外へ遺体を移送する場合、死亡証明書の写しをもらいます。その書類を郡の窓口に持っていき、認証を得てから、州の窓口へ行って陰性証明書をもらう必要があります」

    「その書類を、今度は自分の国の領事館へ郵送もしくは持参します。この一連の流れは、通常時であれば1週間でできますが、今は2カ月以上かかります」と、マッケンジーさんは説明する。

    葬儀も今はかなり変わっている。

    新型コロナによる規制のため、葬儀場へ入れるのは肉親のみ。葬儀は、親族や友人が自宅で参加できるよう生配信される。会場に入る際には全員の体温をスタッフが確認し、参列者はマスクの着用を求められる。

    A man puts makeup on a body (unseen) in a casket
    A funeral service is seen on a laptop and a bouquet of roses

    あまりに多くの死と日々向き合い、心身ともに消耗する、とマッケンジーさんは語る。

    気の利いた言葉をかけて悲しみに暮れる遺族に楽になってもらうのが、マッケンジーさんの特技だった。同時にそれは、彼が父から譲り受けたものだった。

    子どものころに父親を亡くしたマッケンジーさんは、葬儀業界に興味を持つようになったという。だが最近は、1日12時間ほど働く日々が何カ月も続いている。

    棺桶の出し入れや、Zoomでの葬儀の取り仕切りが、1日に何件もある。新型コロナで複数の身内を亡くした遺族も慰めてきたが、マッケンジーさんの機転の利いたお悔やみの言葉も枯渇してきた。

    「葬儀の企画は、結婚式を1週間で企画するようなものです」

    「やらなければならないことが本当にたくさんあり、それが取り仕切る葬儀の数だけあります。家に帰るころには、頭がくらくらします」

    19歳から葬祭業界で働き始めたマッケンジーさんは最近、この仕事について以来初めて、ある顧客の前で泣いた。新型コロナで家族を亡くした遺族へのサービスを通して知り合った人だった。

    しかし、その客は数週間のうちに再び家族を亡くし、マッケンジーさんは葬儀の手伝いをすることになった。

    「私はそこに座って、遺族と一緒に泣きました。自分はプロであるべきなので少し恥ずかしかったのですが、感情を抑えきれませんでした」と、マッケンジーさんは語った。

    A man on a stairmaster in a garage while a dog watches, a pile of chairs is behind him
    A body wrapped in plastic with the word "COVID" written on it

    ここ数カ月における悲痛は、マッケンジー葬儀社でマネージャーを務めるエイドリアナ・ロドリゲスさんの家族も直撃した。新型コロナ感染ではないが、ホスピスにいた彼女の祖父が、健康上の理由で亡くなったのだ。

    彼が亡くなる前から、家族は葬儀の手配を始めていた。しかし、祖父の自宅近郊のサンタアナで空いている葬儀社を見つけるのは難しかった。

    マッケンジー葬儀社では、余裕ができるまで新規依頼の受け付けは止めていたが、事前に葬儀手配をした家族の手伝いは可能だったため、ロドリゲスさんの家族は手配を頼むことができた。

    葬儀が数日後に迫る中、ロドリゲスさんはBuzzFeedにこう語った。

    「ある意味ストレスではありますが、それと同時に祖父がここにいると思うと、安心でもあります」

    「郡の死体安置所に持って行かれて、ずっと置き去りにされるのは絶対にいやだったんです」

    A man seen from behind at a desk covered with papers and a full calendar

    ロドリゲスさんは、遺体の海外移送の書類手続きを担当している。「いつになったら家族を祖国へ連れて帰れるのか」と、遺族から繰り返しかかってくる問い合わせの電話対応がつらいと、彼女は語る。

    新型コロナが流行する前は、遺族に海外移送の予定を知らせることができた。

    「今は遺族に正確な予定を伝えることができません」

    「すべてがあまりにも遅れていて、『この書類をいつまでにやるから、遺体の移送はいつまでに可能』と断言するのはとても難しく、伝えることができないのです」

    新型コロナの大流行で、何週間も何カ月もお見舞いに行けず、新型コロナで大切な人を失う家族がたくさんいる。それが葬儀の予定を立てる人が多い理由のひとつだと、ロドリゲスさんとマッケンジーさんは考えている。

    「顧客のみなさんは明らかに葬儀を希望し、生配信ものぞんでいます。何週間も故人に会っていなかったからです」

    「(葬儀を行うことが)ひとつのお別れの仕方であり、悲しみ方です。最後に一目会って、区切りをつける方法なのです」と、ロドリゲスさんは語った。

    A casket next to lots of bodies wrapped in plastic on gurneys

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan