コロナ禍を前にした新人医療従事者たちの、複雑な心境「戦力になりたい、でも怖い」

    アメリカでは、多くの医学生・看護学生が研修に入る時期、新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた。その多くは自宅待機を余儀なくされているが、「戦力になりたい」気持ちと「混乱の現場に投げ出される」ことへの恐怖が入り混じっている。

    医療専門家が新型コロナウイルスの対応で多忙を極めるなか、アメリカの2020年卒の新人医療従事者たちは、まだ現場に出られない。ベテラン医師や看護師の手助けができないまま、見守るだけという状況だ。

    何万もの医学生が医師に、10万人以上もの看護学生が看護師になろうとしているこの時期、新型コロナ禍に襲われた。教育期間をすでに終えるか、もしくは今まさに終えようとしていた段階だ。

    彼らができるだけ早く現場に出られるよう、政治家たちは対応を約束している。

    だが実際、学生は対人距離を確保するため、病院に行くことができない。

    3月中旬以来、新型コロナウイルスのさらなる感染拡大を防ぐため、米国医科大学協会(AAMC)は、学生に患者を直接処置させないよう強く求めている。(学生の)臨床業務がゆっくりと止まることになる。

    赴任日が前倒しになった学生はほとんどいない。そのかわり、自宅で隔離生活を送り、待っている。一般の人々と同じだ。

    彼らが分かっていることはただひとつ、2ヶ月ものあいだ悶々と待たされた挙げ句、新型コロナウイルス対応の最前線に放り込まれるのだ。

    戦力になりたい。でも怖い。

    BuzzFeed Newsの取材に答えた医学生・看護学生の圧倒的大多数が、ふたつの矛盾する感情を訴えている。助けたいという気持ちと、それが意味することへの恐れだ。

    「家にいて何もしないと、無力感にさいなまれます。何が必要なのかわかっていて、助けられるのに、許可が出ない。個人的にはとても気分が落ち込んでいます」

    カリフォルニア州サクラメント在住の看護学生、ダニエルさんはこう話す。匿名希望のため、ここでは名字は公表しない。

    だが、物資不足の混沌とした病院環境に放り込まれることについて、学生たちは今もなおとても心配している。マスクや防護服などの不足厳しい労働環境つらい選択など、重々承知している。

    「みんな怖がっています」とダニエルさんは話す。

    「怖くないと言うのであれば、自分自身に嘘をついているか、このウイルスの影響を完全には理解していないかです」

    卒業に必要な臨床時間を終えようとしていたときに、多くの看護学生が家に帰された。3月9日、ダニエルさんは病院の仕事から外され、120時間の院内研修を受けられなかった。

    この基準が取り払われるのか、研修生への通達は何もないそうだ。

    こんなに近いのに、まだこんなに遠い。学生たちは卒業まで1ヶ月というところで待たされ、このことが自分たちのキャリアにどのような影響を及ぼすのかも分からずにいる。

    「心の中では、私たちはすでに本質的には看護師です」とダニエルさんは話す。

    「事態が明らかになり、看護師が体験している状況を考えたら、私たちの助けが必要です」

    新卒の医療従事者は即戦力になるのか?2つの障壁

    卒業する学生をすぐに現場に送リ出すことについて、かなり議論は行われてきた。しかし多くの学生にとって、それは物理的に難しく、非現実的でもある。

    障壁のひとつは、単純に地理的なものだ。通常、現場に立つまでには数ヶ月間のフローがあり、その間に病院を決める。人によっては遠方の病院まで移動するが、今は時間や研修にあたる人手が不足している上、その移動自体が困難だ。

    典型的な2020年卒の医学生は今、授業が終わっているか、終わろうとしており、5月中旬に卒業予定で、6月中旬~下旬に働き始める。だが、インターンの手続きは、医師の卵を全国の病院と引き合わせるくじ引きのようなものだ。

    移動に加えて、医者の卵たちは、開業する前に国家試験に受からなければならない。健康保険、医療業務用の賠償責任保険に入り、それ以外にも新人を病院で雇うのに必要な手続きがある。

    一括承認ではなく、医学部、州の監督機関、職場を含むいくつもの段階を踏んだ手続きなのだ。学校は卒業日を前倒しにできるが、卒業生は翌日から働けるわけではない。

    ニューヨークでは成功例も。しかし消えない不安。

    これまでのところ成功例は限定的だ。ニューヨーク大学では、多くの学生が卒業の前倒しを申し出て、大学の付属病院で働き始めた。

    オレゴン健康科学大学も、何名かの学生を予定より数か月早めて採用することができた。だが、これは、同大学付属の施設で既に実習をしていて、同施設とマッチングした卒業生5名のみだった。

    生活面での喪失感も広がっている。医学生は、何年にもわたる厳しい勉強の日々を終え、週80時間勤務のレジデント研修が始まるまでの「猶予」の時期となるはずだった時間を逃している。

    4月、5月はのんびりした月で、長年計画していた休暇に出かけたり、結婚式をしたり、全国の病院へ散らばっていく前に友だちと会ったりする。しかし、今はどれも叶わない。

    「このおかげで、友だちと二度と会えない人もいます」とミシガン大学を卒業する医学生アンジェラ・ベイリーさんは話す。

    「『ついに医者になるぞ』とみんなに知らせる最後の大イベントやお祝いすべてが、なくなってしまいました」

    このような大惨事に、締めくくりがないと嘆くことに、一抹の罪悪感を抱く学生もいる。仲間たちがさいなまれている気持ちは、無力感だと、ベイリーさんは説明する。

    家にいて、働けない。でもそれと同時に、あとわずか2ヶ月後には、この大きな公衆衛生の危機に自分も立ち向かわなければならないことは分かっている。

    役割もまた変わってきている。ベイリーさんは外科のレジデントになる予定だった。しかし、急を要さない手術は当面のところ中止されているため、実質的には内科のレジデントになる準備をしている。

    新型コロナウイルスの流行が収まったら、延期されていた手術の波に今度は襲われることになる、とベイリーさんは考えている。

    待っているあいだ、留学生のグループと一緒にボランティアをして、人との接触がない方法で手助けをしている。例えば、病院の電話に応えたり、電話で妊婦の健康診断をしたりなどだ。

    「少しは手伝えていますが、奇妙な時間です。実に奇妙です」とベイリーさんは話す。

    「数ヶ月もしたら、自分も…」

    アレックス・コカリーさんは、ミシガン大学メディカルスクールの卒業を控えており、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でインターンになるため、南カリフォルニアへ引っ越す予定だ。

    修士号を取るのに1年余分に通ったため、元クラスメイトの多くは現在、仕事について1年目だ。

    「無秩序で、防護具が足りなく、どんなことに対処していて、どんなストレスや不安にさらされているのかを、みんな教えてくれます」とコカリーさんは話す。

    「話を聞いているとストレスを感じます。数ヶ月もしたら、自分も最前線でやっているのが分かるからです。心待ちにしてはいますが、6月までには物資の不足がすべて解決していることを望んでいます」

    まずは引っ越さなければならない。

    卒業生のほとんどは、学校がある場所とは別の州や都市で働くことになる。つまり、人との接触を避けるべきときに、荷物を送り、自分自身も飛行機に乗って移動しなければならない。

    助けになることを始めたい、という強い衝動を卒業生の多くは感じているが、インターンになるまでは、待つ以外にできることはあまりない。向かいに住んでいるコカリーさんの友だちは、週明けに予定していた結婚式を中止した。

    コース学習は終わったが、自分の名前の後にDr.という肩書きがつくまでには、あと6週間待たなければならない。

    家に閉じこもっているあいだは、ニンテンドースイッチの「どうぶつの森」新シリーズをプレイして時間を過ごしている。このパンデミックのさなか大人気のゲームで、無人島を探検したり、釣り、ガーデニング、家具作りなどの簡単な作業をしたりする。

    正気を保つのに役立つ、とコカリーさんは冗談まじりに言った。

    「(ゲームの世界は)自分でコントロールできる世界です」

    「今の状況で、コントロールが利くものがあるのは楽しいです」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。 翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan