男に連れ去られた少女が「助けて」のハンドサイン、気づいた人の通報で救出

    コロナ禍で増加している、身近な人からの暴力。被害者が声を出さずに助けを求められるサインがつくられ、TikTokを通じて急速に認知度を上げている。

    行方不明になっていた16歳の少女が、TikTokで広まったハンドサインを使って助けを求め、救出された。

    アメリカ・ケンタッキー州を走行中の車内で少女が「助けて」のサインを出しているところを、他のドライバーが気づいたのがきっかけだった。

    ドライバーは11月4日、ハイウェイを走行中に、年長の男が運転する車に乗った少女がハンドサインを送っているのに気づいたという。

    同州ローレル郡のジョン・ルート保安官が発表した声明は、次のように述べている。

    「通報者は当該車の後方にいて、車内の女性がハンドサインを送っているのに気がついた。このサインは、家庭内暴力により助けを必要としていることを示すものとしてTikTokで知られている」

    昨年4月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった頃に、家庭内暴力にあっている被害者がビデオ通話上で声を出さずに助けを求める手段として、カナダ女性基金(Canadian Women's Foundation)がメディア企業Juniper Parkと共同で考案した。

    現在ではその意味はより広義になっている、と同基金でパブリックエンゲージメントを担当するアンドレア・ガンラジ氏は言う。

    さまざまな状況設定でこのサインを使って助けを求める場面を紹介した動画がTikTokなどで拡散されていることが大きいという。

    「今回の件は、その意義が非常にうまく生かされた例だと思います」とガンラジ氏はBuzzFeed Newsの取材に答えた。

    家庭内暴力の被害者を取り巻く状況は、コロナでより深刻に

    少女のメッセージに気づいたドライバーは911に通報、少女を乗せていた61歳の男が不法監禁および未成年者の性的画像を所持していた疑いで逮捕された。

    ローレル郡保安官事務所のギルバート・アチアード報道官はBuzzFeed Newsに対し、少女は近くの病院に運ばれたがケガなどはなく、家族の元へ帰ったと説明した。

    同事務所の保安官らはこれまで、このハンドサインを知らなかったという。

    コロナ禍におけるロックダウンは、家庭内で虐待にあっている被害者にとっては危険な環境になり得る。

    2021年2月に発表された報告では、金銭的な不安や心理的なストレスなど、従来からあった身近な相手による虐待につながる要素が強まること、また虐待する加害者と被害者の距離が近くなるため助けを求めづらくなることが指摘されている。

    ハンドサイン普及のキャンペーンは「知られていなかった問題にスポットを当てた」とガンラジ氏は言う。

    キャンペーンはすぐに広がりを見せた。カナダ女性基金が最初に作成したYouTube動画の視聴回数は170万回を超えた。同基金の調査によると、カナダ国内では2020年7月の時点で3人に1人がこのサインを知っていると答えたという。

    基金が作成したサインの解説映像をTikTokユーザーが使い、音楽やキャプションを追加して投稿するのを目にしたときは「とても驚きました」とガンラジ氏。

    拡散している動画はいずれも女性が「助けて」のサインを出すさまざまな場面を想定し、どのように使われるかを具体的に見せている。

    あるユーザーが提供した、「Elevator」という不穏な雰囲気の音楽をつけたものが多い。

    動画は人身売買や虐待を意味する#stophumantrafficking#abusivehomeなどのタグをつけて拡散され、サインを出して助けを求めている人を見た場合、第三者がどう行動すればいいかを示している。

    ガンラジ氏は、「いろいろな立場のコミュニティの人たちが、自分たちに当てはまる形でサインの使い方をアレンジして拡散させている」ことに勇気付けられたと語る。

    サインを考案したチームは、片手でできる「目立たない」ジェスチャーをつくりたかったという。他の言語で何かを意味するサインにならないように配慮したほか、アメリカ手話(ASL)の専門家にも相談し、混乱を招くサインでないことも確認した。

    「ノーと言えないような状況に置かれたときも対処できる、経験者主導のアプローチとして(このサインを)認識してもらうことが大事です」とガンラジ氏は説明する。

    被害者はみずからの置かれた状況を自分ではどうにもできないと感じる場合が多いため、この点が非常に重要なのだという。

    「助けて」のサインが使われた例は他にもある。今年1月、600万人超のフォロワーを持つシリアのユーチューバー、オム・セイフさんは動画の中で「YouTubeの投稿をやめる」と発言し、ハンドサインを出した。

    ガンラジ氏によると、セイフさんは後日、無事が確認されている。

    また、Zoom上である若者がサインを出しているのを見た人がカナダ女性基金に連絡した事例もある。若者の家庭で暴力があったことがわかり、基金が必要なサポートを行ったという。

    ただ、家庭内における暴力は「隠れたパンデミック」であり、ハンドサインのおかげで誰かが助かった事例を正式に数えるのは難しい、とガンラジ氏は言う。

    ハンドサインは身の安全が確保できない状況にいる人を助ける最初の一歩にすぎない、とガンラジ氏は強調する。基金では、「助けて」のサインに気づいた人がどう行動すればいいかなどをまとめたキットも作成している。

    「サイン自体はアクションではありません。ジェンダーに基づく暴力行為を私たちみんなが意識し、決めつけずに行動すること、それがアクションになります。気づいたら行動できる状態でいることが必要です」


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan