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セクシュアリティは変化することだってある。「性の多様性とは」歴史と共に振り返る

「性的指向は、動き、変化するものです。性行為をしたり、恋愛したり、他の人に惹きつけられたり、あらゆるものと関連して変化していくものだと思います」

1940年代、アメリカの性科学者、アルフレッド・キンゼイ博士は、「男性の性」に関する論文の発表間近だった。彼は、トーマス・ペインターという写真家に「ゲイのサブカルチャー」の調査協力を求めた。ペインターは当時、ゲイコミュニティーの溜まり場だったニューヨークのコニーアイランドへと向かった。

ペインターは同性愛者であることをオープンにしていた。彼は特に、「自分たちのことを異性愛者だ」と考えている勇ましい白人男性に惹かれた。よく男娼に「写真を撮ってもよいか」と尋ねては誘った。

ときおり、暴力を受けることも遭ったが、多くの男性が、ペインターと寝ることに同意した。お金のためのときもあれば、そうではないときもあった。

「異性愛者の男娼たちにとって、ペインターや他の男性との性行為は何も『変わったこと』ではなかったのです」と2019年3月に刊行された著書『When Brooklyn Was Queer(ブルックリンがクイアだったころ)』でペインターを取り上げた、歴史家であり作家のヒュー・ライアン氏は話している。

キンゼイ博士への手紙の中でペインターは、異性愛者だと自認する男性が「彼と寝た理由」を説明した会話の内容を記している。

「害はないし、不快ではないし、別にいいじゃないか」

異性愛と同性愛の境界線が明確に引かれた1950年代。

かつては自由にクイアなスペースを行き来できていた異性愛者を自認する男娼が、クイアな男性との関係の有無で定義されるようになった。「同性愛者」だと見なされると女性は彼らと寝なくなった。

ペインターが通っていたクイアとそれ以外の顧客を相手にしていたバーは閉まり始め、「両性愛」を軽視する文化が根づいた。流動的な異性愛の感覚を持っていた男たちは、欲望を抑えなくてはならなくなった。

キンゼイ博士の研究によると、同性間のセックスは決して珍しい現象ではない。

キンゼイ報告の『人間男性の性行動』と『人間女性の性行動』の中で、同性間のセックスが決して珍しい現象ではないことを、キンゼイ博士は記している。

男性の37%、女性の13%が、オーガズムに達した「明白な同性愛経験」を少なくとも1度はある、と博士は報告している。

キンゼイ博士の調査ほど、男女ともに「同性セックス」の経験が高い報告は、今までほとんどなかった。そのため、キンゼイ博士の方法論は批判の的となった。

また、博士の調査結果で「性行動と性的アイデンティティには、常に大きなギャップがある」ということが明らかになった。

例えば、1994年に発表されたシカゴ大学の報告では、同性同士のセックスを経験した人のうち、ゲイまたはバイセクシュアルを自認したのは、25%以下だったことが分かっている(男性の25%、女性の16%)。

正確な率は若干異なるが、このギャップはどの性別、人種にも当てはまるように見える。

2010年に発表された研究では、同性とセックスをした女性のうち52.6%は、自身を「異性愛者」だと自認していることが分かった。

2003年の別の調査では、自認の性的アイデンティティと性行動の合致(例:同性愛の女性が、女性とセックスをする)は、アジア人の男性と女性の間で一番高く、白人男性と黒人女性では低いことが明らかになった。

だが、性行動と性的アイデンティティが合致していないからと言って、人々が「自身の性を偽っている」とは限らない。むしろ、「セクシュアリティ」というものがただ一概に括れないとても複雑であることを示唆している。

何十年ものあいだ、同性愛、異性愛、(そして認められる場合は)両性愛の分別化を強化するために、キンゼイ博士の研究結果は無視されてきた。

ゲイ解放運動の先駆けとなったストーンウォールの反乱から50年が経ち、「クィア」のようなもっと流動的な性ラベルや、ラベル自体をまったく使わない人が増加した。

人々が経験する欲望には、ばらつきがかなりあることを示す調査結果が増え、バイセクシャル(両性愛)、アセクシャル(無性愛)、パンセクシュアル(全性愛)を自認する活動家たちは、セクシュアリティーの「二者択一の在り方」を疑問視している。

「性別は固定された生まれつきのもの」という考えを見直す機は熟している。

米国の「性」への理解「時間とともに変化するセクシャリティ」

アメリカでは、一般的に「セクシュアリティ(性)は、若いときから発達しはじめ、歳を取るにつれて固定していく」と理解されることが多い。

ゲイやストレートは、「セクシュアリティの分類」として一般的に認知されているが、バイセクシャルやアセクシャルとなると理解は乏しく、無視されることもある。

セクシュアリティと性行動を「イコール」で考える人も多い。例えば、ゲイを自認する人は、同性としかセックスをせず、生涯を通じてそれは変わることがない、とされている。

近年では、年をとってから自分はゲイ、バイ、クイアと自認する人もいるが、通常これは、「発見」として定義される。

この定義は、自身のセクシュアリティを1つのものに「固定しなければならない」という考え方を促進しかねない。多くのLGBTコミュニティーの人たちが経験することかもしれないが、普遍的というにはほど遠い。

2009年に発行された著書『Sexual Fluidity(性の流動性)』の中で、心理学者のリサ・ダイアモンド博士は、同性とある程度の性的な経験をしたことがある100人の女性を調査し、時とともに性的欲求の変化を経験する人が多いことを発見した。

1995年~2005年の期間において、調査した女性の約半数に性的指向の変化が見られた。キンゼイ博士が考案したキンゼイ・スケールは、変化を数字化し、0~6までの指標で表す。0は異性愛のみ、6は同性愛のみだ。

調査の結果、調査した女性の約半数に「異性愛から同性愛に6点中1点の変化」があり、25%の女性に「6点中2点」の変化があった。性の流動性は、女性が歳を取るにつれ増加した、とダイアモンド博士は結論づけている。

ダイアモンド博士の調査で、「特定の場合を除き、殆どの場合は異性愛者」と答えた女性が何名かいた。

博士が著書のためにインタビューしたひとりの女性ジェニファーは、「主に男性に惹かれる」と考えていたが、学生時代に別の女性と親密で感情的な関係を発展させた秘話を打ち明けた。

友人がジェニファーに対する性的な気持ちを認めた際、ジェニファーは自分自身も同じ感情を抱いたことに気づいた。

「男性との性的な関係よりも満足できる」とジェニファーが分類する関係が1年続いたあと、その関係は終わった。それ以来、ジェニファーは主に男性に惹かれたままになった。

ダイアモンド博士は、「ダイナミカルシステム・アプローチ」と呼ばれる研究結果を提唱している。

時間とともに変化するセクシュアリティを観察し、性行動と性的アイデンティティの間で発生する不一致を説明している。

性に関する従来の考え方を再構築するのは過激に見えるかもしれないが、これまでにも何度も行われてきた。

現在の「性」の起源

現在の性の考え方の起源は、性科学者が性行動に基づき、異性愛と同性愛の二者択一で人々を分類した19世紀後半にまで遡る。

誰と寝たいかは、不変のもので、幼少期に由来するか(ジークムント・フロイトの研究が示唆するように)、生物学的に決められたものか、という考え方だ。

1999年、歴史科学者のレイラ・ルップ博士は、『A Desired Past』という著書を発行し、性の変化について説明した。

「歴史的に見て、人々のセクシャリティは変化する場合もあるという『セクシュアル・フルイディティ(性的流動性)』の概念は、そういう用語では語られてきませんでしたが、認識されてきたと私は考えています」

「複数の妻を持つ男性と結婚した女性が、他の妻と恋人になる可能性があるという事実があります。また、えり抜きの男たちは、挿入できるのであれば誰とでも性交できるという考え方があります」

「ヴィクトリア朝の人々は、性行動が彼らの人格には何も影響を及ぼさないと考えていたのです」

ヴィクトリア朝には、同性関係を築いたバイセクシャルも多くいた。

だが、性科学者が同性愛と異性愛の分類を推し進めるにつれ、このような両性的な余地はなくなった。

トーマス・ペインターがコニーアイランドで追った男娼たちのように、多様性に富んだ恋愛的、性的な欲求を経験してきた人たちは、突如として二者択一モデルに従わなければならなくなった。

「同性愛者の人権運動によって推し進められた『性の定義』が結果として『性の多様性』を追いやる形になった」

ヴィクトリア朝以来、この二者択一の分類がほとんど疑問視されてこなかった理由には、1970年代後半までに、ゲイの法律活動家が「私たちは『生まれ持って』ゲイだった、セクシャリティは変えられるものではない」という考え方を支持したという点があるだろう。

「同性愛者の人権運動は、同性愛を生まれ持ったもの、自然なことだと述べるのが、一番効果的だと(活動家たちは)気づいたのです」とジョージタウン大学で法学を専門としているナオミ・メゼイ教授は語る。

アメリカの法制度は、確立したアイデンティティを持つグループに重きを置く傾向がある。

「現代の同性愛者の人権運動が何らかの形で非難に値すると言いたいのではありません」とメゼイ教授は話す。

「現代の運動は、同性を好きになる、同性同士での性行為をしただけで『犯罪者扱い』されていた人々が声を上げ、努力した結果、成し遂げられたことです」

だが、法の領域でこの運動によって推し進められた性の定義は、人々の日々の性生活における多様性を説明していない、と教授は付け加えた。

一方で、「セクシュアリティの固定」の概念が、クイア・コミュニティーにおいて主要な概念ではないときもあった。

1970年代初頭、様々な活動家たちが「性を誕生時に固定しない考え」を推進した。

例えば、異性愛者として生まれたと自認する女性政治家が、父権社会を拒否する手段として、他の女性と性的に恋愛的に親密になることもあった。

ラトガーズ大学のシャーロット・バンチ教授は、1972年に発表した自身のエッセイの中で、「男性支配を終わらせたいのであれば、フェミニストはレズビアンにならないといけない」と唱えている

1970年に発表した「ゲイ・マニフェスト」の中で、ゲイ活動家のカール・ウィットマンは、「(性は)遺伝子で決められてはいない」し、自身がゲイであることは主として、異性愛の家父長制を政治的に拒否することだと記している

「(セクシュアリティのラベリングや分布が)問題にならなくなるまで、私たちはゲイで居続けるだろう」とウィットマンは書いている。

「(問題が一切解決したら)私たちは、(異性愛者の)男たちと競い始めるだろう」

確かに、「性は不変のもの」だという仮定は、間違いない理由から発している。自身の性のラベルを意図して選ぶ人もいれば、積極的にそのような決断をしていない人も多い。

だが、「性を不変ととらえる見方」は、人生の要所要所でさまざまな性別に強く惹かれる人の経験や、他の性別を自認するようになる人びとを覆い隠してしまう。

またこの見方は、男性と女性のどちらも恋愛対象になるバイセクシュアルと、恋愛対象の基準として「性別」を用いない(恋愛対象の区別に性別という概念を重視しない)パンセクシュアルコミュニティーに、不均衡な影響を及ぼす。

男性中心主義のおかげで、バイの男性は、密かにゲイであることが多いとされ、バイの女性は異性愛者として片づけられるか、単に「試しているだけ」とされる。

例えば、2013年に行われた調査では、アメリカ人の15%が、両性愛を「正当な性的指向」と認めることを拒否している

流動的であればあるほど「性的指向など存在しない」

性を不変だとする概念によって影響が出るのは、両性愛者だけではない。

他のセクシュアリティほどではないにしても、異性愛もまた同様に流動的である。

トーマス・ペインターの後を追って、社会学者のジェーン・ワード博士とトニー・シルバ博士は、2013年と2016年にそれぞれが発表した調査で、異性愛者と自認しながら、勇ましい白人男性ふたりが性交をする現象を追った。

シルバ博士はこれを、バド・セックス(bud-sex)と呼んでいる

シルバ博士によると、エロティックなものというよりも、「バディ(仲間)を助けるもの」「衝動」を満たすものとして、男性らはこの行為を定義している。

だが、これらは一度限りのものではなく、性交が「ロマンチックなものではない」にしても、感情がないわけではなく、セックス・フレンドのような「性交の相手」として考える男性も多い、とシルバ博士は報告している。

シルバ博士がインタビューをしたひとりの男性は、笑いながら次のように話している。

「私みたいな人はたくさんいると思います。男らしい人で、男らしいことをして、たまに男性とオーラルセックスをするだけです」

事実、シルバ博士がインタビューした男性60名すべてが、選択肢として両性愛の認識を示した。

60名中16名が、ストレートでもあり、バイセクシュアルでもあると認めたが(これは従来の性ラベルの興味深いねじれだが)、残りの人は純粋な異性愛者と自認した。

これは、主に「ほとんどの参加者が、恋愛として女性だけに惹かれる」からだとシルバ博士は話している。

加えて、男性に惹かれることは、「まれであるか、皆無」と報告している。

「女性にだけ性的に惹かれる」と答えたのは7名だけで、バド・セックス(bud-sex)をしていることは認めている。

むしろ、これらの男性の多くは、他の男性とのセックスを主に社会的な承認と見なしていた。これらの男性は、女性的なゲイの男性に対し侮蔑を表し、自分と同じような男性とのセックスを好んだりした。

「たくましい白人男性は、性的欲望の典型」という文化的な考えを強固にするからだ。

これらの男性は、「時とともに自分たちの性行動が変化した」と報告していることを、シルバ博士は明らかにしている。

リサ・ダイアモンド博士が調査した女性たちの中にも、性的指向に同じような変化が見られ、彼女たちは「性的指向が異性愛から変化した」と語った。しかし、男性の多くは、自分たちの性的指向を異性愛と認識したままだった。

「インタビューした男性たちは、自分たちのことを異性愛者で、男らしいと見ており、これは変わりません。彼らの性的興味や性的行動が変わってもです」とシルバ博士は話す。

「ですから、両方が起きます。自分たちの性的指向を変える人もいれば、自分の興味や性的な行動が意図せずして変わっても、性的指向に変化がない人もいます」

この性行動と自身の性的指向の不安定さは、異性愛の有効な特徴だ。

「性分類の起源に立ち返ると、異性愛はもろいもので、促進し、保護し、実現させることに、すべての性科学者が実に気を遣っています。そうしないと実現しないからです」と歴史家で作家のヒュー・ライアン氏は語る。

「性科学者たちは、異性愛が『創造されたもの』だということを理解しているのです」

「私は、『性的指向などは存在しない』と冗談で言います」と同氏は付けくわえる。

「これほどまでに『不確かな方法』で、世界を分けられたり、自分自身を定義づけられたりすると私は思いません」

「性的指向は、動き、変化するものです。性行為をしたり、恋愛したり、他の人に惹きつけられたり、あらゆるものと関連して変化していくものだと思います」

長年、レズビアンだと自認していた女性が、思春期を過ぎてバイセクシュアルを自認したとする。だからと言って、彼女は、長いこと埋もれていた自己を「発見した」とは必ずしも思わないかもしれない。

その一方で、レズビアンをターゲットにした雑誌「ゴー・マガジン」で、作家のアリソン・ヒンマンが書いているように、表向きは異性愛者とされる女性が突如レズビアンを自認する場合もある。

大学で男性と付き合って、「男の子のことばかり」考えているように感じていた時代を過ぎ、女性とだけデートするようになり始めた、とヒンマンは書いている。

いろいろな性別の人に惹かれた経験はあるが、「バイセクシュアル」という言葉が自分に当てはまるとは、彼女は感じなかった。だからと言って、男性とのデート中に、「私は、自分に嘘をついている」とも思わなかった。

「人生の要所要所で、違う性を自認することは可能である」とヒンマンは記している。

例えば、男性だけとデートしていた別の女性が、女性だけとデートするようになり、レズビアンではなく、バイセクシュアルと自認する可能性もある。一般に暗示されているよりも、性は不変でもなく、一貫してもいないので、どちらが他方よりも正確ということもない。

自認する性の対象に興味を持ったり、失ったりし、どう自分のセクシャリティを定義するか合致しないこともある。

バイと自認する人は、同性の人を活発に求めているかいないかに関わらず、バイである。また、「混乱している」とか「ごまかしている」という憶測にさらされることなく、いつでもどう自認するかを変えることが許される。

しかし「性と性別は、ある程度は社会的に構築されるもの」と受け入れたとしても、性的アイデンティティを無視してしまうことにはならない。

多くの人が、自分のラベルは自分の心に秘めている。むしろ、性は構築されるものと考えることで、性的指向に関しては個人的な作用の余地が生まれる。

性的に惹かれる対象は、時とともに変化する可能性がある。そう理解することにより、自身を証明する必要もなく、より多くの人が性の境を模索する扉を開くことができる。

それぞれのアイデンティティに対する多様な経験や欲求があるということを、もっと理解できるようになり、クイア・コミュニティーの中でさえ、互いに対してもっと共感できるようになる。


BuzzFeed Japanは、世界各地でLGBTQコミュニティの文化を讃え、権利向上に向けて支援するイベントなどが開催される毎年6月の「プライド月間」に合わせ、2020年6月19日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。

【配信中】オトマリカイ@ BuzzFeed News Live あなたのお悩み一緒に考えます🏳️‍🌈 LGBTQの当事者から寄せられた相談について、りゅうちぇるさん(@RYUZi33WORLD929)&ぺえさん(@peex007)と一緒に考えます。 視聴はこちらから👇 #PrideMonth #虹色のしあわせ🌈 https://t.co/H3uXcYtszu

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この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気/編集:Buzzfeed Japan