私のセルフケア? それは「パグたちのコミュニティ」をフォローすること

    世界に希望がないように見えるとき、私は輝く光に目を向ける。つまり、愛犬のインスタ・フィードだ。

    インターネットの世界にだって、安全で善良でピュアな世界はある。よくあることなのだが、この世界が最悪で意地の悪い場所に思える時、私はそこを訪れる。

    そこは、私の愛犬、ビジー(Bizzy)のインスタフィードだ。ビジーがフォローしているのは、ほとんどが他のパグ犬だが、パグではない犬仲間のアカウントもいくつかある。人間のアカウントはフォローしていない。ビジーはいろんなことに脚を突っ込むタイプではないのだ。移動も苦手だし、怖がりで、あまりにもゼーゼーいうので、どこのドッグランの常連にもなれない。

    でも彼女は、お腹を撫でてもらうことが得意だし、インスタの写真に「いいね」することも得意だ(少々、私の助けを借りながらだが)。そして、かなりの盛り上がりを見せるオンラインコミュニティ、通称「パグスタグラム(Pugstagram)」を楽しんでいる。相当な数のフォロワーを持つ、中心的な存在のパグたちの写真を通じて、彼らの生活を追体験しているのだ。

    Instagramでもっとも有名なパグ「ダグ・ザ・パグ(Doug the Pug)」について、聞いたことのある人もいるのかもしれない。彼はしょっちゅうセレブと写真を撮り映画の予告編に登場し、他にもムズカしそうなことをいろいろやっている。

    素晴らしいとは思うが、私とビジーがInstagramが好きなのは、ダグが理由というわけではない。彼は私たちには手の届かない存在で、常にオンの状態にある謎めいたパグであり、350万(!)ものフォロワーのためにいつも自分を演じている。彼はパグ界のトム・クルーズだ。その生活はあまりに演出されすぎていて、リアルには思えない。

    いや、パグスタグラムの中心といえば、パグのハミルトンだろう。シェルター・ペット・プロジェクトの広報的存在のパグで、弟のルーファスと、セサミストリートのキャラクターであるグローバーのフワフワしたぬいぐるみが大好き。そして月曜日が大嫌いな犬だ。

    オハイオ州のシェルターから助け出されたハミルトンは、5年ほど前からニューヨーク市に住んでいる。私は、夫と出会った後に、夫婦で犬を家族に迎え入れたのだが、その前から、ハミルトンのことが大好きだった。

    2015年に大ヒットしたミュージカルの『ハミルトン』で、脚本・作曲作詞・主演を務めたリン=マニュエル・ミランダは、ハミルトンという名前のイメージを永遠に変えたが、私はそのずっと前から、パグのハミルトンが大好きだったのだ。

    インターネットが私を落ち込ませると(それはほぼ常になのだが)、私は、ハミルトンとルーファスをチェックしにいく。ハミルトンのインスタ写真はどれも、まるで可愛さのカプセル詰めだ。もしこのカプセルを体内に摂取できたら、メンタルヘルスに驚くべき効果を発揮するだろう。

    今は私もパグと暮らしていて、彼女もとてもフォトジェニックなのだが、だからといって、ハミルトンの堂々とした身のこなしを私がそれほど楽しめなくなったということにはならない。

    ハミルトンは、私がパグのコミュニティという世界に足を踏み入れるきっかけとなった存在だ。

    このコミュニティにいるパグたちは、そのほとんどが、そこそこ有名で、フォロワーの数は10万人以下といったところ。しかし彼らは、それぞれの世界で重要な役割を果たしているパグたちだ。ほとんどのパグが、ペット用品を扱うネットショップ「Chewy」のVIPたち。また、ドッググッズのサブスクリプションモデルを提供する「BarkBox」からお金を得てインフルエンサーを務めている。そして彼らの多くは、独自のグッズも販売している。

    ただし飼い主たちは、どう見てもそれで大金を稼いでいるわけではない。もちろん、そういったパグたちはコンテンツだし、ネットの商品なのだが、それでも飼い主たちは、やはりパグのことを、まずは大事なペットだと思っている。本物の家に住み、本物のご飯を食べ、いつもご褒美を要求する、おかしな「バンキー」なのだ(パグは時おり、バンキーと呼ばれる。ウサギ “bunny” とサル “monkey” を組み合わせた言葉だ)。

    そして、彼らが行うファンド・レイジングは素晴らしい。ハミルトンとルーファスは、彼らのお気に入りの動物チャリティーに寄付をしてくれた人たちに、よく個人的なメッセージを投稿している。私のことも、夫にバレンタインのメッセージを送るという形で支援してくれた。

    ビジーと私は、パグスタグラムの皆さんのグラマラスなライフスタイルを、遠くから愛でるのが大好きだ。週末をハンプトンで過ごす飼い主とパグたち。凝りに凝ったおやつが出される、誕生日の「バークデイパーティー」(註:バークは犬の鳴き声)を開くパグたちもいる。彼らは「サメ週間」やロイヤルウェディングのほか、ありあらゆるホリデーを祝うのが大好きだ。彼らがチームを組めば、アベンジャーズもびっくりの超大作ができるだろう。だが、一匹一匹だけでも、みんながスーパーヒーローでもある。

    ブラック・パグとして知られるチャーリーは、人間の妹を「パピー(子犬)」と呼んでいる。チャーリーが彼女の小さな足を舐めると、彼女は喜んでキャッキャと声をあげる。彼女は、運動スキルをふるい起こしてチャーリーを撫で、チャーリーはそれを受け入れる。これは、適切に拡散できれば、ウェルネス業界全体を廃業に追い込む可能性もあるコンテンツだ。

    カーダシアンズならぬパグダシアンズは、パグスタグラムにおけるメヌード(註:メンバーチェンジを繰り返しながらも存続し続けた人気アイドルグループ)だ。メンバーは時々変わるが、そのパフォーマンスの一体感やカリスマ性は変わらない。パグダシアンズは気取ったビッチ(雌犬)たちだが(もちろんこれは愛をこめて言っている)、そのニックネームほどには商売に重点を置いておらず、本家よりもはるかにボディ・ポジティブやお昼寝についての投稿が多い。

    サーフ・ギジェットは白いパグで(これは非常に珍しい)、サーフィンの才能がある(これまた非常に珍しい)。ミニーとマックスは、#brachpack (「brachycephalic(短頭種)」とかけている)というグループに所属している。

    他にもあるまだまだある。そして彼らの飼い主たちは、大都市での集まりを組織的に計画している。こうした集まりには、パグのプロムを開催している「ボストン・パグ旋風(Pugs Take Boston)」のほか、「ベガス・パグ旋風」や「ワシントンDC・パグ旋風」もある。もうすぐ、フィラデルフィアでもパグが集まり、パグ旋風を巻き起こす予定だ。

    こうした会合は、言ってみれば、パグスタグラムにおけるゴールデン・グローブ賞授賞式だ。お気に入りのパグたちが、さまざまに異なる組み合わせで、みんなその場に集まっている。「マジで! ウェリントンとハミルトンが抱き合ってる」とか「ミニーとマックスって、サティのこと知ってるんだ~」といった具合だ。

    こうした会合の舞台裏の写真を見ると、インスタのフィードがいかに上手くキュレーションされているのか、そして、1枚の写真を撮るのに何人の人間が関わっているのかということを痛感させられる。怒って吠えている姿や、ウンチをしているところ、毛が抜け落ちる様子などはそうそう見かけない。それは、パグの飼い主ならば誰もが身に覚えのある悩みだ。

    だからこそ、舞台裏のシーンを見ると元気が出る。そうした写真は、パグが常に完璧な生き物というわけではないことを、私たちに思い出させてくれるからだ。パグスタグラムのパグたちは、どれだけ沢山かわいい服を持っていたとしても、生身の犬なのだ。

    パグスタグラムは必ずしも、純粋な現実逃避だけができる楽しいところではない。愛犬のインスタフィードをスクロールして、素早く自分を元気づけようと思っているのに、お気に入りの一匹が「虹の橋を渡った」(飼い主たちは、遠回しな表現を好むのだ)と知ってしまうことほど悲惨なことはなかなかない。認めよう。私は街の通りや、電車の中や、あるいは一度など、仕事のミーティングの途中でも、泣いたことがある。それは彼らの喪失を、わがことのように感じるからだ。

    パグダシアンズで一番のディーバ、カッピーが亡くなった時、私はパニックになって夫に電話をした。昨年の夏にも、愛らしく美しいチャブスと、かわいくてゴージャスなバイオレットとの別れがあった。あまりの悲しみに耐えきれないほどだった。

    しかしパグスタグラムは、癒しと再生の場所だ。どんな可愛いパグでもカッピーの代わりにはならないが、シシーやティリー、そして一番最近パグダシアンズに加わったナッティーは、素晴らしいチームになっている。チャブスの飼い主も、彼女の名前をインスタのアカウントに残してはいるけれども、写真には新しく小さな黒いパグが登場するようになった。サティだ。昨年は、ハミルトンがバイオレットを悼んで彼女のバッジを身につけたが、今年はバイオレットの弟のティミーが、彼女を偲んでバニラアイスクリームを食べた

    パグスタグラムでは、パグたちの生は、祝福されるためにある。その精神で、ここに純粋なる喜びの瞬間を紹介しよう。1年ほど前に、ビジーがついに、ハミルトンとルーファスとの出会いを果たした瞬間だ。

    悲しい日々も、また訪れるだろう。辛いことも起こるだろう。それでも私は、パグスタグラムが教えてくれた教訓から学ぶために最善を尽くす。パグスタグラムがあるからこそ笑顔になり、ビジーのお腹を撫で、そしてアイスクリームを食べるのだ


    マリス・クライツマンは、ニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズ、ヴァニティ・フェア(VANITY FAIR)、Vulture、エスクァイア(Esquire)、GQ、OUT Magazineなどに執筆しているライター兼エディターです。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:半井明里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan