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「ハリポタのタトゥーを除去したい」原作者のトランスジェンダー差別的な発言を受け、決意するトランスジェンダーたち

小説「ハリー・ポッター」の原作者である J・K・ローリング氏の、トランスジェンダー差別的発言を受け、タトゥーをカバーアップしたいと考えるトランスジェンダーが増えている。

小説「ハリー・ポッター」の原作者J・K・ローリング氏の、トランスジェンダー差別的発言に非難が集まる前、同作の小説は数え切れないほどの人に読まれ、愛されてきた。

ファンの中には、ハリー・ポッターに関連するタトゥーを入れる人も多くいた。

しかし彼らは今、タトゥーの除去を真剣に考えているという。

ブラッド・カルドウェルさん(22)の母親は、よく「ハリー・ポッター」の本をブラッドさん兄弟に読み聞かせた。

「小さい頃の私にとって、この物語は全くの別世界のように感じられました。まだ幼かったこともあるかもしれませんが、ちょうど映画も公開されていましたし」

カルドウェルさんは、BuzzFeed Newsにそう語った。

トランスジェンダー男性のカルドウェルさんが初めてタトゥーを入れたのは、18歳の時だった。

前腕にハリー・ポッターの映画にも登場する架空の集団「死喰い人」のタトゥーを入れた。

「死喰い人のシンボルを選んだのは、私が怒りっぽく感情的なティーンエイジャーだったからです」とカルドウェルさんは語る。

同作で、死喰い人は「純粋な血統」に固執する悪者として登場している。

そのため、過去に自身のタトゥーについて考え直す時期も何度かあったという。

そして今回、ローリング氏のトランスジェンダーへの差別的で、彼はタトゥーをどうにかしようと決心することになった。別のデザインのタトゥーを重ねるカバーアップをしようと考えている。

ローリング氏はこれまで、ツイッター上でトランスジェンダーへの差別的な発言を行ってきた。

6月10日には、自身のウェブサイト上に「なぜ性とジェンダーについて言及したのか」という随筆を掲載し、さらなるトランスジェンダー差別的な意見の発信を行った。

随筆の中で、ローリング氏は繰り返し「生物学的性別」の重要性における自身の信念を述べた。

彼女の信念は、カルドウェルさんのようなトランスジェンダーのアイデンティティを否定する内容になっている。

「今後もハリー・ポッターの映画は見るつもりで、ある程度楽しむこともできるでしょう」とカルドウェルさんは語る。

「しかし、ローリングがお金目当てに好き勝手発言するのをやめるまでは、作品と作者を切り離して考えるのは少し難しいです」

トランスジェンダー男性のフィン・Hさん(32)も同じような状況に陥っている。

小さい頃から同作の本を読んでいたというフィン・Hさん。

やがて、ハリー・ポッターに登場する主人公のシンボルである眼鏡と傷のタトゥーを手首に入れた。

フィン・Hさんもタトゥーを除去しようと考えている。

「正直、『ああ、またか』というぐらいで、ローリング氏の発言にはそれほど傷ついたわけではないです」とフィン・HさんはBuzzFeed Newsに話した。

Finn H.'s tattoo of Harry Potter's glasses and scar

「残念なことですが、世界には科学を否定する人がいるのにはもう慣れています」

「ここ最近のローリング氏の発言をきっかけに、タトゥーを除去しようかと考えていました。しかし、今回の発言で我慢の限界を超えてしまいました」

フィン・Hさんはこう続けた。

「ハリー・ポッターから完全に縁を切ることになっても、私には何の問題ありません」

中には、手を差し伸べようとする人もたくさんいる。

ロサンゼルス在住のモリー・ノックス・オスタータグさんは、グラフィックノベリストとして活躍している。

彼女は、性自認と身体的性が一致しているシスジェンダーだ。

現在、彼女はハリー・ポッターのタトゥーを入れたトランスジェンダーの人に向け、カバーアップのデザインをツイッター上で提供している。

その見返りとして、トランスジェンダー団体への寄付を求めている。

オスタータグさんが描く作品には、「魔法」が登場することが多い。

それだけでなく、作品にはジェンダーアイデンティティと自己受容の要素も含まれている。

I've spent today drawing coverups for Harry Potter tattoos in exchange for donations to https://t.co/YN9pW0qkqW - I have a bunch more to do and am not currently taking any more on, but here are some I liked from today!

「今日は、ハリー・ポッターのタトゥーを入れて人たちのためのカバーアップデザインを描いていた」

「トランスジェンダー団体への寄付をしてもらう代わりにね」

「やることがたくさんあるから、これ以上の依頼は引き受けられないけど、今日描いた中で気に入ったデザインを紹介するね」

オスタータグさんは、自身が長らくハリー・ポッターのファンだったこと、そしてハリー・ポッターが自分の作品のインスピレーションになった、と語る。

しかし今のオスタータグさんは、作品と作者を切り離せない状態にある。

「何日か前のローリング氏の一連の発言に、本当に腹が立ちました。なぜなら今は人種の平等における、非常に重要な激動の時代だからです」と彼女は語った。

「さらに今月はプライド月間でもあります」

「今でも黒人のトランスジェンダーの人たちへの風当たりは強いのに、ローリング氏がこんな『ヘイト』を撒き散らすことにお金を使っていることを本当に腹立たしく思います」

オスタータグさんに多くの人から、カバーアップの依頼が届くという

彼女は送られてきたハリー・ポッターのタトゥーの写真をもとに、カバーアップのデザインのアイデアを作り、送り返している。

「魔法の世界」に出てきそうなデザインを意識しているそうだが、ローリング氏の作品とは関係のないデザインになっている。

しかし、ハリー・ポッターのタトゥーを入れている人すべてが、ローリング氏の発言によって作品への愛を失ったというわけではない。

ユタ州在住のエメット・A・スピードさん(29)は、ハリー・ポッター・シリーズに文字通り命を救われた、とBuzzFeed Newsに話した。

スピードさんは、ハリー・ポッターとの初めての出会いを今でも鮮明に覚えている。

「4年生の時、私は同級生のカーリー・ホフマンの隣に座り、授業を受けていました。彼女は『秘密の部屋』の本を机の上に置いていたのです」

「その本に興味を持った私は、貸してくれるように頼んだのです。それから、どっぷり、のめり込んでいしまいました」とスピードさんは当時を振り返る。

スピードさんは性別違和に苦しみつつ、「あまり恵まれてはいない家庭環境」で育ったという。

ハリー・ポッターは、スピードさんにとって現実から逃避する手段だったのだ。

「ホグワーツからの手紙を受け取って、想像もできないような別世界に行きたいと常に思っていました」

男性的な性自認を持つトランスマスキュリンのスピードさんは高校生時代、自殺が頭をよぎるたび「賢者の石」を読み返し、読んだ回数だけ印をつけていた。

本には、175を超える印がつけられている。

自分で制御することができない「何か」のために注目を浴び、常に批判を受けるハリーに、スピードさんは親近感を感じたという。

それは、スピードさんが「自身の性別」について抱えていた思いと、まったく同じだった。

そして19歳のとき、スピードさんは2か月分の給料を支払って、本「賢者の石」の表紙のイラストを腕に彫った。

自分にとって大きな意味を持つシリーズに「愛」を示したかったからだ。

ローリング氏の一連の発言に対し、「こういうのを見ると本当に疲れる」とスピードさんは語る。

「どうしてよりによって今、このようなコメントをするのでしょうか?」

「ローリング氏は本当にひどいやり方で、Black Lives Matter運動の出鼻をくじき、注目を浴びようとしているのです」

「(彼女の発言は)自分のハリー・ポッターのタトゥーを『恥ずかしい』気持ちにさせ、カバーアップまで考えました」

しかし、スピードさんは実際にカバーアップをすることはしないという。

今回のローリングの発言を受けても、ハリー・ポッター・シリーズが自分に与えてくれたものを奪うことはできない、とスピードさんは話す。

そして、ツイッターでこう言及した。

As a closeted trans kid, the idea of polyjuice potion was, of course, particularly evocative. All I wanted to be was what I wasn't and what it seemed like I could never be. I imagined who or what I would choose to look like... if only I could be different. 3/8

「ハリー・ポッターの新作本や映画を待つことだけが、(銃の)引き金を引かずに済む唯一の方法だった」

「私は(保守的な)深南部の虐待的な家庭環境の中で、クローゼットの奥深くにいた」

「私は逃避の手段として、ハリー・ポッターの魔法に多くの希望を託していた」

「孤立して自らのことを言えないトランスジェンダーの若者として、『ポリジュース薬(同作に登場する架空の薬。自分以外の誰かに変身できる)』は刺激的だった」

「ずっと、自分が決してなれない人になりたいと思っていた。自分以外の誰かになれるのなら、誰になるか、どんな外見になるのかを想像していた」

「最近ファンたちの間で『ハリー・ポッターは、ローリング氏の物ではなく私たちのものだ、同作で得た素晴らしいもの・美しいものは本から生まれたのではなく、コミュニティから生まれたのだ』という意見が出ています」とスピードさんは語る。

スピードさん自身も、ハリー・ポッターの二次創作作品を書いたりイベントに参加したりすることで、同作のコミュニティに貢献してきた。

「本当に多くの人がハリー・ポッターを読み、また私と全く同じような体験をしていると思います」

「少なくとも私の見解では、私たちがハリー・ポッターの物語から得た美しい受容と愛の気持ちは、必ずしもローリング氏が私たちに与えたものではなく、私たち自身が、私たち自身のために作り上げたものだと思っています」と彼女は力強く語った。

ハリー・ポッターの魔法がなければ、今の自分はいなかったとスピードさんは話す。

「ハリー・ポッターシリーズは、様々な方法で多くの人たちに希望を与えました」

「このような魔法は、人の人生を変えることができると思います。そのことを否定することはできません」

この記事は英語から翻訳・編集しました。