コロナ最前線、患者と医療従事者のリアルをカメラに収め続ける写真家の思い

    「目を覆いたくなるときもあります。でも写真を撮らなくてはいけないんです。他の人たち──患者は当然ながら医療従事者も──がいかに苦しんでいるかを、みんなに知ってもらいたいから」

    テキサス州ヒューストンを拠点に活動する写真家ゴー・ナカムラさんは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を、医療最前線で取材し続けている写真家の1人だ。

    ナカムラさんは、1年ほど前にテキサスに拠点を移したばかりだ。

    今年5月以来、ユナイテッド・メモリアル医療センターに20回以上足を運び、コロナ集中治療室での看護の様子を、ゲッティ・イメージ向けに撮り続けている。

    3月にパンデミックが始まって以来、アメリカでの累計死者数は14日、30万人を超えた。

    そんな中、パンダミックを象徴する写真となった1枚を含め、医療最前線を撮影してきたことについて、BuzzFeed Newsはナカムラさんに話を聞いた。

    まず、写真を始めたきっかけは何でしたか?

    28歳のとき、ブライダルカメラマンとしてスタートしました。

    その前は、写真について何も知りませんでした。会社員として、まるでロボットのように働いていたんです。

    ある日、腕のいいブライダルカメラマンだった友達に、一緒に働いてみないかと言われました。楽しいし、毎日違うクライアントで変化があるよって。

    数年後、ウェディング写真に自分はそこまで興味がないと踏ん切りをつけ、このスキルで何か他のことをしたいと思いました。

    チャンスを求めてニューヨークに移り、ロバート・フランクの写真集『The Americans』の展示会に行きました。

    そこにいたとき、まるで雷か何かに打たれたかのように感じました。

    これこそ自分がやりたいことだ、これこそ進みたい道だと思ったんです。

    当時、エディターに知り合いなんていなかったし、報道の世界にも知っている人はいなかったので、ただ街に出て写真を撮り始めました。

    4年経っても相変わらず、報道の世界に知り合いはいなかったけど、友達の1人がジョン・ロカという写真家を紹介してくれました。

    タブロイド新聞の写真家で、『ニューヨーク・デイリー・ニュース』と40年以上、仕事をしている人でした。

    10カ月くらい、彼の仕事に付いたところで、ある日こう言われたんです。

    「もう準備できたと思うから、これからはエディターに紹介するよ」

    報道写真の世界で仕事を始めたのはそんな経緯でした。今から5年前です。

    病院での撮影について少し聞かせてくれますか?

    実は、新型コロナ以外の世界についてはまったく知らないんです。というのも、病院で他のことは何もしていないので。

    コロナ専門の治療室には通常、ベッドが20床あります。初めて病院を訪れたとき、ほとんど埋まっていました。

    夏にまた病院に戻ったときは、集中治療室を拡大していたので、今は30床ほどになっています。

    コロナ集中治療室では、守らなければならないルールがいくつかあります。私も全身を個人用防護具(PPE)で覆わなければなりません。

    患者の名前が見える物は撮影できません。医者と一緒にコロナ集中治療室に行くと、医者は患者に、私が一緒に入っていいか尋ねます。

    患者の多くは意識不明なのですが、意識のある患者は可否を言ってくれます。

    ダメと言われたら、私は外で待っています。いいと言ってくれた場合、患者の顔は撮らないよう厳しく指示されているので、写真を撮るときは必ず、患者の顔を機器や輸液ポンプ、心電計で隠すようにしています。

    患者の顔を写すことができたら、もっと強烈な写真になると思うし、構図を取りやすくなると思うので、難しいところです。

    コロナ集中治療室にいるとアドレナリンが出てきて、撮影に意識を集中できます。強烈な衝撃を受けるのは、病院を出てパソコン画面で写真を見るときです。

    ゲッティではトラウマ対策を用意してくれているし、病院の医師や看護師たちも協力的です。

    病院のナース・ステーションに初めて行ったとき、ジョセフ・バロン医師が扉のところにきて中へ招き入れてくれ、他の人に紹介してくれました。

    医療スタッフが互いに談笑していて、すごくいい環境で楽しい職場だなと思いました。その5分後、バロン医師がこちらに振り返り、真剣な面持ちで私の目を真っ直ぐ見て言ったんです。

    「あらゆることを笑い飛ばすようにしている、さもないとおかしくなるからね」と。

    バロン医師が患者を抱いているところを写したあなたの作品が感謝祭の後に拡散されましたが、あの写真について話を聞かせてくれますか?

    あの患者は、心の底から家に帰って家族に会いたがっていました。

    彼は、全身PPEに包まれていた私を、医療スタッフだと勘違いしました。弱っているようで、明らかに寂しそうでした。

    私は彼に手を貸すべく他の医療スタッフを呼び、その後にバロン医師が入ってきました。

    ほとんどの患者はベッドから離れることができませんが、この患者は体調を回復しつつあり、立ち上がって病室内を自力で歩くことができました。

    それでも、帰宅は許されませんでした。この撮影から1週間ほどで、この患者は幸運にも帰宅したと思います。

    「患者にできることなら何でもしたい」

    写真の中のバロン医師の目を見たとき、彼はそう考えているだろう、と私は思いました。バロン医師は常に、患者を元気付ける言葉をかけようとしています。

    ハグしているこの写真を自分のインスタグラムでシェアしたとき、たくさんのコメントが付きました。

    この写真が拡散されてとても嬉しかった。というのも、この状況についてみんなが話し合い、自分に何ができるだろうかと意見が交わされていたからです。

    写真を見てくれる人には、あなたの作品の何を見てもらいたいですか?

    私は報道写真家で、この作品を撮っている理由は、「病院内で実際に何が起きているのか」を人に知ってもらいたいからです。

    病院内はとても荒れています。私は医療専門家ではないので、こうした厳しい状況を目にするのに慣れていないんです。

    目を覆いたくなるときもあります。でも写真を撮らなくてはいけないんです。他の人たち──患者は当然ながら医療従事者も──がいかに苦しんでいるかを、みんなに知ってもらいたいから。

    彼らは疲労困憊しています。ボロボロなんです。

    バロン医師は、休みなしで260日以上働き続けていると思うし、看護師は初夏以来まったく休んでいないと思います。激務を続けているんです。

    こうした写真を外の世界に伝えられたら…。

    そして、こうした写真が多くの人に見てもらえるというのはありがたいことだと思います。

    病院内で起きていることや、状況を改善するために何ができるかを伝えたい。写真を見てくれる人たちに、考えてもらいたいんです。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan