ウクライナに留学中のアフリカ系学生が直面する人種差別。「国境へのバスに乗れない」

    「列車に乗っていたウクライナ人の女性に、『サルはアフリカに帰れ』と言われ…」、「警官の中には、明らかに人種差別主義者がいた」。ウクライナ政府は差別を否定しているが、SNSには列車内で警官と黒人がもめる動画などが投稿されている。

    ロシア軍の攻撃から逃れるため、多くの人々がウクライナから近隣国に避難しようとしている。

    国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のグランディ難民高等弁務官によると、その数は150万人にのぼる。

    避難しているのは住民だけではない。ウクライナに留学している外国人学生も同じだ。

    しかし、アフリカ人学生の多くが、避難途中で人種差別に直面し、出国に苦労しているという。

    列車やバスに乗れないアフリカ人学生たち「こんな状況で人種差別を…」

    BuzzFeed Newsは、ウクライナに留学している学生から話を聞いた。

    彼らは列車内で人種差別的な中傷を受け、銃を持ったウクライナの警察官によって乱暴に放り出されたという。

    シエラレオネからの留学生は、乗車券を持っていたにもかかわらず、国境への列車に乗れなかった。

    リベリア人留学生は、ウクライナの国境で、ポーランドに向かうバスへの乗車を警備員から拒否された。彼女だけでなく、一緒にいた他のアフリカ人らもバスに乗れなかったという。食べ物も避難場所もなく、寒空の下で2日過ごさざるをえなかったと語った。

    ウクライナ政府は、外国人学生に対する人種差別の疑惑を「ロシアの偽情報 」として否定した。しかし、ソーシャルメディア報道機関から、ロシアの攻撃から逃れようとする留学生が、地元当局から非人道的な扱いを受けているという報告が複数ある。

    ナイジェリア出身の医学留学生、ジェニーヴァ・イグワマさん(25)は、「今はウクライナに失望している 。こんな状況で人種差別をするなんて」とBuzzFeed Newsに語った。

    「サル」「アフリカに帰れ」

    イグワマさんは、ウクライナの首都キエフから列車に乗り、リヴィウで乗り換えてポーランドへ向かう予定だった。

    キエフ駅は人々でごった返しており、係員は女性と子どもしか入れないと言ったという。しかし、イグワマさんによると、それにはすべての女性を含むわけではなかったようで、「黒人は、女性でも入れてもらえなかった」そうだ。

    何人かの男性がこっそり列車に乗り込んでいるのを見て、イグワマさんや他の医学生たちも列車に乗り込んだ。途中、ウクライナ人の女性たちがイグワマさんたちを「サル」と呼び、「アフリカに帰れ」と怒鳴ってきたという。

    リヴィウに到着し、イグワマさんたちが次の列車に乗ったとき、ウクライナの警官が乗り込んできて、彼らを列車から追い出そうした。

    イグワマさんの提供動画からは、列車から追い出される人々が警官に抵抗する声、訴える声が聞こえる。

    Courtesy Geneva Igwama

    警官に殴られ、頭をドアに叩きつけられたとイグワマさんは話した。動画では、「私があなたに何をしたのですか」とイグワマさんが警官に尋ねている。

    警官らはイグワマさんたちが電車から降りるまで押しつけ続けた。一人はイグワマさんの顔に銃を向けたという。

    しかし、兵士や他の警官が介入し、暴行を止めさせたそうだ。イグワマさんは、声を上げた人々に感謝を述べた。

    列車には乗れなかったものの、イグワマさんたちは、車で国外に人々を運んでいるボランティアの女性の助けを得て、現在はスロバキアの難民シェルターにいる。

    車で約9時間、徒歩で約6時間の道のりだった。イグワマさんはスロバキアに残って勉強を続けたいと願っているが、今回負った身体的ダメージだけでなく精神的なトラウマに対処するのは困難だと考えている。

    「とても、とても、とても悲しいです。なぜならウクライナにはもう帰れません。私にとってウクライナは安全ではない。命が危険にさらされるから」とイグワマさんは語る。

    「私たちを導き、保護するはずの警察が、今や私たちを殺そうとしているのです。もし、列車が動いているときに、私たちが列車から落ちたらどうなったでしょう?」

    「警官の中には明らかに人種差別主義者がいました」

    イグワマさんと一緒にいたデイビッド・オグボンダさん(20)も、列車で警官らに襲われたと証言している。

    「警官は私たちを殴り、列車から突き落としました」

    「列車に乗っていたウクライナ人の女性に、『サルはアフリカに帰れ』と言われました。警官は、『(オグボンダさんが)混乱しているようだから押さえつける』と説明しました」

    この出来事を経験し、オグボンダさんは「悔しくて、失望した」という。

    「人種差別的な経験をしたことはありませんでした。私はウクライナに差別はないと思っていました。しかし今や、それを目の当たりにしたのです」

    BuzzFeed Newsはリヴィウ州の警察当局に問い合わせたが、返答はない。

    ポーランド行きの列車に乗ろうとしたハイチ人男性と他の黒人らも、リヴィウの警官に銃を突きつけられたと英テレグラフ紙に語っている。

    「警官は叫び、私たちを押して無理やり後ろに下がらせました」

    「ウクライナ人の女性や子どもを先に乗せようとしたのだと思います。それは理解できますが、警官の中には明らかに人種差別主義者がいました」

    「1人の警官が私たちに銃を突きつけて叫んでいましたが、他の2人の警官が私たちに同情して、『行け、行け』と言いながら列車に乗せてくれました」

    インスタグラムに投稿された動画では、リヴィウの警官がアフリカ人女性の列車への乗車を拒否しているようにみえる。

    シエラレオネから留学に来ている医学生、ラビアトゥ・バーさん(23)と同じくアフリカ出身のクラスメイトたちは、乗車券を持っていたが列車に乗れなかった。その時の様子をBuzzFeed Newsに語った。

    バーさんは、なぜ乗車を許されなかったのか、結論に飛躍したくはないと言いつつ、同じ係員が乗車券を持っていないウクライナ人女性を乗車させていたと明かした。

    バーさんたちは最終的に、別の係員が対応する車両に乗ることができたという。

    「私たちを見ていた他のウクライナ人に感謝しています。家族連れの人たちが片側に寄ってくれて、私たちのためにスペースを作ってくれました」とバーさんは語る。

    「だから問題だったのはウクライナの人々ではなく、係員です」

    リヴィウに到着後、バーさんはポーランドに向かうバスの席を確保しようとした。列の先頭に並んでいたにもかかわらず、後ろの乗客らが先に乗せてもらえたとバーさんは話した。

    後ろの乗客らの中にはウクライナ人だけでなく、ヨーロッパのさまざまな国から来た人々がいた。

    2台のバスは満員になり、3台目のバスは、10人のグループが後ろの2列に座ると、バーさんたちが席を確保する前に出発してしまったという。

    「これが、黒人であることの潜在的な意味です」とバーさん。「いつも、最後尾に追いやられてしまうんです」

    バスの座席を確保した後も、トラブルは尽きなかったとバーさんは語る。バスは、警察の検問所に到着した。

    「警官がバスに乗り込んできました。一直線に後ろにやって来て、私たちにパスポートの提出を求め、住所を尋ねました」

    警察から質問された乗客は、アフリカの学生たちだけだったという。この苦難は30分ほど続いた。その間バーさんは、運転手や他の乗客が待たされていることにイライラして、彼女たちをバスから追い出すのではないかと心配だったと話す。

    「時間が無駄になったし、とても恥ずかしい思いをしました」

    「私たちは全員書類を持っていたので、最終的には解放されました」

    「バスに有色人種を乗せない」国境まで13時間歩いた学生も

    リベリアから5カ月ウクライナに留学していたある医学生(27歳、匿名希望)は、ポーランドに向かうバスに乗れなかった。彼女同様、一緒にいた仲間たちも国境警備隊から乗車を拒否された。

    シェルターも食料もない状態、寒い地で2泊した。その後、バスに乗るのを諦め、約13時間歩いて国境まで向かったという。

    到着後、ポーランドに渡るための別のバスに乗る列に並ぶように言われたが、彼女たちはずっと列の後ろに追いやられ続けたそうだ。

    国境警備隊は、バスに「有色人種を乗せない」と彼女は言う。

    「バスに乗れるのは女性と子どもだけだと彼らは言っていました。しかし、彼らは黒人を乗せる代わりに、白人だけを乗せるのです」

    「バスに乗るのは、私たちの権利です。私たちは乗ろうとしましたが、警備のひとりが『下がれ、もし誰かが渡ろうとしたら撃つぞ』と言って、実弾で空中を撃ちました」

    彼女は、学業を終えるためにウクライナに戻ることはないと話す。

    「黒人であるというだけで評価されないのだから、他の国に行きます。経済的なことを言うならば、私たちはウクライナにお金を持って来ているのです。こんな扱いを受ける理由はありません」

    キエフから約640キロメートル離れた国境の町、シェヒニに取り残されたナイジェリア人の留学生は、次のようにCNNに話している。

    「バスは10台ありました。ウクライナ人を全員連れていったあと、私たちも連れていってもらえると思ったのですが、もうバスはないから歩けと言われました。

    寒さで体がしびれ、4日間寝ていないという。

    「アフリカ人よりもウクライナ人が優先されています。男も女も、あらゆる所で。なぜか、と問う必要はありません。理由は分かっています」

    「私はただ家に帰りたいのです」

    ウクライナ政府「差別はない」

    留学生が人種差別に直面しているという報告を受け、ウクライナ外務省は2月28日、「外国人による国境の横断に関しても、人種や国籍に基づく差別はない」と声明で述べている。

    国外への避難は「先着順で、すべての国籍の人に対応」しており、女性や子どもには例外が認められているとした。

    また外国人学生の国境通過が 「円滑に進むように最善を尽くしている」とした上で、「ロシアの偽情報に惑わされないよう」念を押した。

    「戦闘が続いているため、現時点では留学生がウクライナの居住地にとどまることがより安全だと考えられる」と声明は続いている。

    ウクライナのドミトロ・クレバ外相は3月3日、ウクライナから避難する「アフリカ、アジア、その他の学生」のために緊急ホットラインを設置したと述べた

    「私たちは留学生たちの安全を確保し、彼らの避難を早めるため集中的に取り組んでいる」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。