妊娠中の女性が殺害される事件が、全米各地で相次いでいる。多くはパートナーが容疑者として逮捕された。
テキサス州・ヒューストンでは、エコー検査の写真をパートナーに見せた女性が、ジョージア州では、6人目の子を妊娠中だった女性が殺害された。ニューヨーク州のマンハッタンでは、ベビーシャワー(安産祈願のパーティー)に参加した女性が殺害された。いずれもパートナーが容疑者として逮捕された。
殺害された妊娠中の女性のうち、7割がパートナーによる銃殺
近年、アメリカでは周産期の女性と殺人の関係性を解明したデータが発表されている。
アメリカ産婦人科学分野の医学雑誌が行った全国的な死亡証明書の調査によると、周産期の女性は、妊娠期間中と出産直後に他殺で死亡するケースが、他の死因の2倍も多いという。
出血多量、妊娠高血圧症候群、感染症など、産科的原因による死亡よりも、他殺の事例数がはるかに上回る。
調査結果は、妊娠中の女性は妊娠していない女性と比べて、殺害されるリスクが16%も増加すると結論づけている。(この調査は、死亡証明書に基づき、生物学的に女性とされる人を研究対象としている)
一方、連邦捜査局(FBI)の統計によると、2020年には全米でおよそ1万件の殺人事件が発生した。そのうち、5人に1人が女性の被害者だった。
さらに、2018〜19年にかけて亡くなった10〜44歳の女性のうち、273人が妊娠中であり、殺害された女性全体の6%を占めていたという。
事件現場は「自宅」が最も多く、7割が銃殺されていた。この数字は、10年前よりも増加している。
これらのデータ解析により、2017年からすべての州の死亡証明書に「妊娠中か否か」をチェックする項目が設けられた。
妊娠女性が受けるパートナーからの暴力、認知度は依然低く
「(調査結果は)多くの人にとって衝撃でしょう」
ルイジアナ州で周産期ケアを行う団体の医長を務めるベロニカ・ギリスピー・ベル氏はこう話す。
以前の調査では、ベル氏が在住する州でも、妊娠中の女性の死因第1位は他殺だった。妊娠中の自動車事故や薬の過剰摂取による死亡よりも多いという。
「妊娠中の女性にどんなリスクが存在するのか、これからの診療を見つめ直す必要があると思います」
単に家庭内暴力(DV)を防ぐ目的で監視するだけでは、妊娠中の女性が金銭的に困窮しているのか、それとも危険な男女関係に悩まされているのかを発見することはできないという。
DV被害者への理解は進んでいるが、妊娠した女性が受けるパートナーからの暴力に関しては、公にはまだ理解されていないのが現状だ。
貧困とパートナーの暴力の関係性が明らかに
ジョンズ・ホプキンス看護学校で近親者間暴力について研究する、ジャックリン・キャンベル氏はこう話す。
「ここ数年声を上げる活動をしていますが、誰も気にかけてはくれません」
「妊娠中の女性を死に至らせるリスクを、真剣に調査しなければなりません」
キャンベル氏の調査によれば、殺人事件の発生率は、24歳以下の妊娠中の女性を対象に特に高く、黒人の妊娠中の女性においては、白人の3倍も殺害されるリスクが高まるという。
産科的原因による死亡も含めると、黒人の妊娠中の女性の死亡リスクはおよそ2.5倍高いということも判明。パートナーからの暴力の監視が不足しているだけでなく、医療へのアクセスが全体的に不足していたのだ。
つまり、全米における人種間格差は、貧困状況とパートナーからの暴力の相関関係から、妊娠中の女性にも大いに関係しているということが分かった。
妊娠中の女性への暴行致死傷の実態、いまだ全容は把握できず
しかし、これらの殺人は過去20年分の死因を洗い出したに過ぎないとキャンベル氏は語る。
死亡証明書は不完全な状態で提出されることがよくあるため、もしかしたら実はパートナーの暴力が死因だった、という可能性があるという。
また、米国で妊産婦が死亡した際の報告方法も、暴力があったかどうかの実態の判別を難しくしているという。
出血多量などの産科的原因による死亡は、妊娠と「直接関連した」死亡事例だとみなされる。
一方、他殺や薬物の過剰摂取、自殺などの死因の場合、連邦政府の統計では妊娠と強く結びつけられないことが多く、「関連している可能性もある」という扱いになる。
妊娠が死因に直結しているケースとそうでないケースは、別々のケースとして報告される。医療委員会は、医療従事者が医学的対処法を検討しうる前者の対策を重視する傾向がある、とキャンベル氏は語る。
全米の殺人事件発生率は2020年、前年に比べ30%増加した。コロナ禍に相次いで発生した妊娠中の女性への暴行致死傷に対し、ベル氏は懸念の声をあげる。
「パンデミックにより人々が家に閉じ込められた状態で、家庭内暴力は悪化の一途をたどりました。今後さらに悪化するのではと懸念しています」
この記事は英語から翻訳・編集しました。 翻訳:髙島海人