11月20日から開幕中のFIFAワールドカップ・カタール大会。11月21日、スタジアムにいたイランのサッカー選手とサポーターたちは、反政府デモへの連帯、そして自国のイスラム主義体制に抗議の意思を示すため、大胆な行動に出た。
グループ初戦、対イングランド戦の開始前、国歌が流れる中でイラン代表チームは沈黙を貫いた。SNSに投稿された動画には、観客席にいるイランのファンたちが大声で国家にブーイングを浴びせる様子が映っている。
危険とも言える抗議活動には、きっかけがある。
22歳のクルド人女性マフサ・アミニさんは、ヒジャブの着け方が不適切だとして道徳警察に逮捕され、その後拘束下で死亡した。この事件を受け、イランにおける女性の抑圧に反対する全国的なデモが発生し、体制へ不満や怒りを表明する声が大きくなっている。
9月にデモが始まって以来、未成年58人を含む400人以上が治安部隊によって殺害されたと推定されている。
イラン代表チームは、ドーハに向けて出発する前にライシ大統領と面会し、国内で批判を受けていた。しかし、21日の初戦に先立ち、キャプテンのエフサン・ハジサフィ選手は遺族に哀悼の意を表明し、デモを支持すると公言した。
「国の状況が良くなく、国民が幸せではない事実を受け入れなければならない」と、ハジサフィ選手は試合前の記者会見で述べた。
観客席にも、イラン政府への抗議を示す人々がいた。試合はイングランドが6対2でイランに圧勝したが、試合での抗議活動は、イランのファン、特に国内でサッカー観戦を禁じられている女性たちにとって重要な意味を持った。
「イランに自由を」
「女性、命、自由」
「これはイラン代表チームではない。『イスラム共和制国家』代表チームだ」
「マフサ・アミニ、22番(22歳没)」
ワールドカップ史上最も小さな開催国であるカタールは、この大規模な国際スポーツイベントを支えるインフラを、12年かけて建設してきた。
今カタール政府は、人口の約90%を占める移民労働者の扱いや厳格な反LGBTQの姿勢をめぐって激しい批判にさらされている。
昨年のガーディアン紙による推計では、2010年以降少なくとも6500人の移民労働者が死亡しており、その大半はワールドカップのインフラプロジェクトに従事していたという。
人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のロスナ・ベグム氏は、次のように声明を発表している。
「ワールドカップ2022の開催実現のため、移民労働者は不可欠な存在だった。しかし、それには多くの移民労働者と家族に多大な代償が伴った。彼らは個人的な犠牲を払っただけでなく、賃金未払いや作業中の怪我にも苦しみ、何千人もの人々が原因不明の死を遂げた」
批判の集中砲火を浴びながらも、FIFAはもワールドカップをやり通そうとしている。
開幕戦前夜、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は、自分も幼少期に赤毛とそばかすのせいでいじめられたことがあるから、疎外された集団に対する差別を理解できる、と主張して反撃を試みた。
「私は、カタール人の気持ちが分かる。アラブ人の気持ちも、アフリカ人の気持ちも、同性愛者の気持ちも、障がい者の気持ちも、移民労働者の気持ちも分かる」
「もちろん私はカタール人でも、アラブ人でも、アフリカ人でも、同性愛者でも、障がい者でもない。それでも私にはその気持ちが分かる。差別やいじめを受けたことがあるからだ」
イラン代表は25日のウエールズ戦で、2−0で勝利を収め、勝ち点3を得た。次は30日午前4時(日本時間)、外交面では長い間対立してきたアメリカと戦う。
この記事は英語から翻訳・編集しました。
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