ロシア軍の侵攻が続くウクライナ。首都キエフ周辺は包囲され、近郊で市街戦や白兵戦が起きている。
現地で取材を続けるBuzzFeed News記者がキエフ西隣の激戦地イルピンで、その実態を市民に聞いた。
カテリーナさん(74)はロシア軍の侵攻が始まると、空爆や砲撃から身を守るため、自宅の地下室にこもった。
暖房も水も電気もなく、野菜の缶詰を食べ、古いパンをかじってしのいだ。テレビでニュースを見ることはできない。状況が分からないまま、地上で起きる爆発の衝撃が、体にずしんと響くのを感じた。
10日ぶりに外に出た。
目に見えるものすべてが破壊され、遺体が路上に転がっていた。
カテリーナさんは恐怖と混乱に震え、口ごもりながら、悲惨な状況を理解しようとした。ロシアの攻撃と、それがもたらした死を間近に見て、彼女は両手で十字架を切りながら、BuzzFeed Newsの取材に答えた。
「戦闘は、そこらじゅうで起きているのですか?」
カテリーナさんは涙ぐみながら、記者に聞いた。
続けて何か言おうとしたとき、数十人の市民が集まっていた避難地点の近くで何発も爆発が続いた。
カテリーナさんは爆発でバランスを崩した。杖をつきながらレンガ壁の後ろにいき、そこで一息ついてから、嗚咽した。
静かなベッドタウンだったイルピンと周辺ではロシア軍の侵攻以降、戦闘が絶え間なく続いている。この地域が、キエフ中心部に向かう重要な通りに面しているからだ。
現地時間3月6日未明、その通りの真ん中に砲撃が放たれた。近くに住んでいた一家が逃げ出そうとしていた時だった。ニューヨーク・タイムズによると、母親と子ども2人、友人の男性が死亡した。
イルピンのオレクサンドル・マルクシン市長によると、この日だけでロシアの砲撃により8人が死亡した。視聴は「2人の子どもが目の前で死んだ」と、動画を投稿した。
ロシアのプーチン大統領は、この「特別軍事作戦」は民間人を標的にしていないと述べており、包囲された民間人が脱出できる「人道回廊」を設置するとした。
しかし、ロシア軍による民間人への砲撃が報じられており、安全の信憑性は低い。
また、ロシアが一方的に設定したロシア軍の占領下地域への避難ルートを、ウクライナの人々が自ら選択するとは考えがたい。
包囲された都市の市民たちが必死に脱出を試みる中、多くの人々が近隣国のポーランドやハンガリー、ルーマニア、スロバキアなどに避難している。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のツイートによると、ウクライナからの難民は10日間で150万人にのぼる。これは「第二次世界大戦以降、最も急速に拡大している難民危機」だという。
UNHCRはさらに、ウクライナでの民間人の死者が364人、負傷者が759人になったと記録している。しかし、実際の犠牲者数はより多い可能性が高い。
BuzzFeed Newsがイルピンで話を聞いた人々のほとんどが、「どこへ行けばいいのか分からない」と話した。
皆、ただ安全な場所に行きたいだけだ。背中に担げるもの、両手で持てるものしか携帯していない。1週間以上にわたり激しい砲撃にさらされ、疲れとストレスが蓄積しているのは明らかだった。
キエフ中央駅に向かう黄色いバスが20台以上停まっていた地点では、混乱下で離れ離れになった家族や友人たちが、誰かが取り残されているのではと気を揉みながら、必死に互いを探していた。
連絡が取れなくなった親族を探して、他の街からイルピンに来た人もいた。
ウクライナ軍は、ロシア軍の侵攻を防ぐためイルピンの橋を破壊した。その橋を越えた地点にある避難場所に、ヴァジムさん一家はいた。
ヴァジムさん一家は行くあてがなく、リュックサックとビニール袋をいくつか持って通りに立っていたという。1台の車が停まり、2人なら無料で駅まで送ると提案された。しかしヴァジムさん一家は6人で、離れ離れになるのを避けるため、その申し出を断ったという。
ヴァジムさん一家の近くにいたタチアナさんにも話を聞いた。タチアナさんは、6歳の息子の首に目立つように白いシーズを巻き付けていた。避難の最中に撃たれないよう、民間人であると伝えるためだ。
「寝たきりの親戚がいて、その人の世話をしてくれる人を見つけるまで避難できませんでした。歩けない人々はみんなその場所に、閉じ込められています」とタチアナさんは語った。
「持っていた食べ物をすべて残して、私たちは去りました」
タチアナさんは、イルピンの中心街を進むロシア軍の戦車を目にしたという。
「家が真っ平らになるような戦闘でした」
タチアナさんは、23歳と27歳の子どもを待っていた。その後の進路は決めかねている。
「どこに行けばいいかわかりません。どこにでも行きます。とにかく怖かった」と、頭を振り乱しながら話した。
「ただただ、理由がわからないんです。あなたは知ってる? 戦争が始まると言われた時、『頼むよ!』と呆れて笑ってしまいました」
「理解できないんです。家族の半分はロシアにいます。みんなが『心配しないで。明日にはロシアの一部になるから』と電話をかけてきます」
「私たちはショックを受けています。ウクライナで平和に暮らせるのに、なぜロシアの一部になるのを私たちが求める(と思う)のでしょうか?」
イルピン市民のスヴィータさん(60)は、破壊された街からまだ脱出できていない人々の生活を「地獄」と例えた。
「食料の供給は、じきに途絶えます。ガスも電気もインターネットもない。戦車が住宅を砲撃しています」
スヴィータさんによると、ロシア軍はイルピンの西側から侵攻し、街の一部を支配しているという。
「ロシア軍の戦車が通りを走っていました。ウクライナ軍の戦車はありませんでした。ロシア軍の射撃手が撃っていました」
ウクライナ領土防衛隊で戦うローマンさんは、ロシア軍が数日以内にイルピンからキエフを攻略すると予想している。
ローマンさんによると、彼をはじめとする防衛隊隊員、陸軍兵士、そして武装したボランティアの志願兵たちは流血の戦闘に備えているという。そして、できるだけ多くの「ロシアの侵略者」を殺したいと話した。
「数週間後には、太った野良犬を見かけるようになりますよ。理由はわかるでしょう」
この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:髙橋李佳子