自分で描いたのに…「AIを使った」と責められた作者「人間のアーティストである権利を守りたい」

    ベン・モランさんは、100時間以上かけて制作した作品のプロモーションのため、人気掲示板Redditに作品を投稿した。しかしスレッドの管理人から「AIを使った疑いがある」として、スレッドを追放された。

    ミン・アン・ヌエン・ホンさん(30)は、ベトナムにある創業3年目のイラスト制作スタジオ「カート・スタジオ」で、リードアーティストを務めている。

    ホンさんは大学で経済学の学位を取得した後、2019年から本格的に絵を学んだ。現在はベン・モランという名前で活動している。

    「小さいころ、絵を描くのはただの趣味でした。まだ上手くなれるかもしれないと気づいてからは、より真剣に取り組むようになりました」

    ルアン・ジアファン・ガンジャンピョートル・ヤブロンスキーなど、ファンタジーアーティストに感銘を受けました」

    モランさんの作品

    しかし、モランさんは今、アメリカ最大級の掲示板Reddtで議論の的となっている。

    アメリカ・ネブラスカ州を拠点に活動するファンタジー小説家、セルキー・ミスさん(31)が、表紙の制作をモランさんに依頼したことが原因だ。

    「モランには、これまでにも多くの作品の制作依頼をしてきました。本当にすばらしい仕事をするからです」と、ミスさんは語る。

    7月下旬、ミスさんはモランさんにメールで、表紙の制作を依頼した。モランさんは4つの候補を作り、その中から選ばれた1つを9月7日までに制作し、ミスさんの要望に合わせて修正した。

    表紙が完成したのは10月半ばだった。「修正して仕上げるのに1カ月はかかります」と、モランさんは言う。

    12月下旬、モランさんは表紙のプロモーションをしたいと考えた。そこで、掲示板Redditの、2200万人が参加しているアートに関するスレッド「r/Art」に、「A muse in Warzone」と名付けた完成間近の表紙を投稿した。

    A muse in Warzone

    しかし、モランさんはすぐに同スレッドから追放された。

    スレッドの管理人から、AIを使った作品だと疑いをかけられたのだ。AIアートの投稿は同スレッドのルールに違反していた。

    モハンさんは管理者に連絡し、制作にAIを使っていないことを伝え、ポートフォリオのリンクを送った。しかし、管理人からは相手にされなかった

    「信じないよ。色は自分で『塗った』としても、どう見たってAIが作ったデザインでしょう」

    「あなたが本気でアーティストだというなら、違うスタイルを見つけなきゃ。なぜなら、A)『これはAIが作った作品じゃない』と言っても、誰も信じないから。B)あなたが何時間もかけて作る作品も、AIなら数秒で、もっとうまくできるから」

    「すまないが、これが世界のあり方だ」

    モランさんがスレッドを追放されたこと、AIアートではないと証明する機会を与えられなかったことに対し、BuzzFeed Newsは管理人にコメントを求めた。しかし連絡はなかった。

    ミスさんは、モランさんを追放した管理人を「嫌な奴だ」と感じている一方、管理人も難しい環境に置かれていると理解しているという。

    AIアートが世間にも押し寄せ、人間が作った作品に干渉しようとしているからだ。

    モランさんが制作した、4つの表紙候補

    管理人とのやりとりを通して複雑な気持ちになったが、AIアートと比べられるのは嬉しいことでもあると、モランさんは語る。

    「正直、嬉しい気持ちもありました。 AIはとても強力で、AIアートは本当に素晴らしいです」

    「私と同様、AIも一流のアーティストから学びますが、AIの方がより良く、早く学びます。AIアートと比べられたのは、私の作品も十分良いということです」

    一方、モランさんは傷ついたとも語る。ミスさんと共に取り組んだ表紙は、制作に100時間以上かかっていた。

    「私が苦労して作った作品を、コミュニティに見せたいのです」

    「AIアートだと非難されるのは、私が適当な人間で、1〜2時間で絵を描くようタイピングするだけの仕事だと言われているようです」

    モランさんに関する議論は、多くのスレッドでも取り上げられた。

    「管理人のいじわる具合といったら…本当に驚きだよ。アーティストがただ不当に追放されただけじゃない。管理人にアピールしたのに、嘘つき呼ばわりされて、作品を侮辱されたんだ」。あるユーザーはそのように呟いた。

    モランさんは現在もスレッドから追放されており、議論は続いている。

    「解決方法は簡単です。モランの追放を解除して、(管理人は)『自分がやったことは間違いだった』と言えばいいんです」。ミスさんはそう語る。

    「多くの人が怒っているのは、管理人の頑固さと、そのせいでバカバカしいことがずっと続いているこの状況です」

    モランさんは、特別なことは望んでいないと話す。

    「ただ他の人と同じように、自分の作品を投稿する許可を得たいだけです」

    「謝罪は必要ありません。ただ、私が人間のアーティストである権利を守りたい。それだけです」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:吉谷麟