自閉症がある子の親たちが直面する、コロナ禍の育児のリアル「自分たちは忘れ去られた存在」

    新型コロナウイルスで変わった日常。自閉症がある子の親は、特有の課題に多く直面している。育児が限界だという声も多い。

    アメリカ・ミシガン州の郊外で暮らすジャック君(8)は、自閉症(ASD)だ。母親のステファニー・デイリーさん(35)は、育児の困難さを感じているという。

    ジャック君は早起きだ。日が昇るかなり前から、デイリーさんにはジャック君の笑い声や喋り声が聞こえる。

    彼はまだ数時間しか寝ていない。懸命に寝かしつけようとするが、寝そうにない。これから18時間ほど、デイリーさんはジャック君を注意深く見守る。

    オムツの交換や食事の用意もする。揺り椅子で息子が自分の気持ちを落ち着かせられないときは、リラックスできるように手伝う。

    自閉症がある子の親たちが直面する、コロナ禍での育児のリアル

    新型コロナウイルスが世界的に流行し始めてから半年以上が経った今、自閉症がある子の育児は親にとってさらなる重荷となり、ときには手に負えないと感じることもあるという。

    新型コロナ禍での育児は、どの家庭にとっても困難だ。育児のために仕事を辞めたり、就業時間を減らしたりする親も多い。

    しかし、コロナ禍における育児で、自閉症がある子を持つ親たちは特有の課題に頻繁に直面する。

    ほとんど話さない子の場合、親は注意深く見守り、一貫した1日のルーティーンを用意する。常に刺激を与え、かんしゃくを起こすときは感情面で支援する必要がある。

    感覚過敏がある場合は、マスク着用などの新型コロナ禍で求められる予防措置が不可能なことがある。

    そのため、自閉症がある子のいる家庭の多くは自宅で時間を過ごすことが多くなる。子どもを守り、公共の保健指導にも配慮するためだ。

    デイリーさんは新型コロナ禍での育児について、BuzzFeed Newsに対しこのように話した。

    「多くの場合、(私たちのような自閉症がある子の親は、社会の認識も低く)忘れ去られた存在です。この6カ月は特にそうでした」

    「出かけることもなければ、オムツも交換できないので、私は6カ月間ずっと家に閉じ込められていました。その間の気持ちが分かりますか?これ以上、悪くなりようがありません」

    自閉症(ASD)と支援

    自閉症(ASD)は幼児期に発症する様々な症状や行動の総称で、社会面、行動面、意思の疎通での障害に困ることがある。

    発症の原因は完全には解明されていないが、遺伝的な要因だとする多くのエビデンスが示されている。

    自閉症を持つ人の中には、社会生活に困難を抱える人もいれば、会話や意思の疎通が難しい人もいる。

    特定の言葉や語句を繰り返したり、トイレを流し続けたりするなどの強迫性障害を伴うことも多い。

    仕事と家族を持てるほど完全に自立した大人になる人もいれば、生涯にわたり24時間体制で世話が必要になる人もいる。

    自閉症がある子を育てるのに、言語療法、作業療法、精神医学的療法を組み合わせることが多い。

    知的障害がある場合は特に、学習面で特別な教育環境が必要な子どもが多い。

    社会的能力やコミュニケーション能力、手先の器用さや学力の向上を手助けするこれらの療法は、自閉症がある子にとっては重要だ。

    フルタイムでの教育や世話を迫られる親たち

    新型コロナの感染拡大に伴い遠隔での学習や支援が導入されたことで、個別支援・診断が難しくなった。

    自閉症がある子を持つデイリーさんのような親は、フルタイムで子どもの教育や世話を迫られた。

    デイリーさんは今年の春先、ジャック君の世話をするために小売店の仕事から休暇をとった。パートナーのジョーさんも小売業で働いている。

    1日の大半を、デイリーさんはひとりでジャック君の面倒を見ている。

    ジャック君は小児麻痺も患っているため、意思疎通には絵や文字が書かれたカードを使う。

    デイリーさんは日頃の育児について、このように語っていた。

    「午後6時を回るころには、疲れ切っています。絶え間なく音を聞いているような状態です」

    それでも、デイリーさんは息子のジャック君が大好きだ。ジャック君はどこへ行っても笑顔を絶やさない。

    「おそらく、(ジャックは)今まで会った人の中で最も幸せそうな人物のひとりだと思います」と彼女は言う。

    デイリーさんはジャック君のためであれば何でもするだろう。だが、コロナ禍で求められた隔離生活と24時間の世話で気力が低下し、譲歩を強いられる場面もあった。

    花火の動画を見るのが大好きなジャック君に、長時間にわたるYouTubeの視聴を許可したのもその一例だ。

    「こんなに長い時間YouTubeを見せたことはありませんでした。でももうお手上げです。ジャックを楽しませながら自分も正気を保てるよう、なんとかやっています」

    世話のために仕事を辞めざるを得ないケースも

    自閉症がある子の育児は多くの場合、仕事と子どものニーズをやりくりすることになる。コロナ禍においては、仕事を辞めざるを得ないこともある。

    米オレゴン州在住のメリッサ・ブラウンさん(45)はシングルマザーで、自閉症のあるジェームズ君(11)と、定型発達のキャサリンちゃん(8)を育てている。

    2人の面倒をみるため、ブラウンさんはカスタマーサービスの仕事から2カ月の休暇を取った。

    ジェームズ君は、恐竜、『スター・ウォーズ』、地質学、海洋科学が好きだ。学力面では同級生に劣らないが、友達作りには苦戦している。

    一方、キャサリンちゃんは図工や読み書きが好きだ。

    全く異なる2人だが、強い絆で結ばれているという。2人ともレゴブロックが好きだが、遊ぶときは互いに譲り合う。

    ジェームズ君はハグをされるのが好きではないが、妹のハグは受け入れる。それが妹の愛情表現だと分かっているからだ。

    子ども2人の学業面でのニーズはまったく異なる。学校が遠隔授業になり、2人のニーズを満たすようにするのは難しかった、とブラウンさんは語る。

    キャサリンちゃんは(主に絵ではなく散文形式の)チャプターブック、ジェームズ君には実践的な学習と、一貫した毎日の時間割が必要だった。

    ブラウンさんは、オンラインでの学習についてこのように話していた。

    「先生がジェームズと過ごすのは1時間だけで、リーディングと数学の授業をオンラインで行っていました」

    「科学や歴史、ライティングの授業はありません。先生ではない私が代わりにそれらの教科を教えようと思っても、働きながらでは無理でした」

    ブラウンさんは、子どもたちに歴史と科学の問題集を買い、本を読んでレポートを書くように言った。

    美術の授業がないため、一緒にレゴブロックで遊ばせた。祝日用の手作りカードを作らせたりもした。

    体育の授業の代わりにダンス・パーティを開いた。ビースティ・ボーイズの歌は、家族みんなのお気に入りだ。

    「全く気が休まらない」と話す親たち

    本来はファンタジー小説を読んだり、ビデオゲームをしたり、ぼんやりとテレビを見たりするのが好きだと、ブラウンさんは語る。

    しかし今は、自分のための時間を作るのは難しいと話す。

    「これまでも、自分自身の世話は得意ではありませんでした。今は子どもの世話を優先したいと考えているので、なおさら難しくなりました」

    これまでは15分休憩や昼休み、通勤などで一息つけていた。しかしこうした時間も、家で働くことで育児に取られてしまう。

    「常に気が張っていて、ストレスが溜まります。(家にいるときは、自分の時間はなく)母親としての時間か、仕事の時間です。全く気が休まりません」

    自身の学業と育児のやりくりが必要だった人もいる。サラ・グエンさん(24)は5月に大学を卒業した。彼女の息子ケンジ君(3)は、1月に自閉症と診断された。

    グエンさんは現在、夫のクリスさんと彼女の両親や姉妹と一緒に、ミネソタ州に住んでいる。

    同じ屋根の下でそれぞれが仕事をしたり、学校の授業に参加したりする中で、ケンジ君の世話をするのは大忙しだった。

    ケンジ君は週に3回、Zoomで言語療法と作業療法に参加し、週5日デイケアに通う。

    言語療法からは学ぶことが多くあるものの、器用さを伸ばす作業療法をオンラインで行うのは難しい、とグエンさんは話す。

    オンラインでの作業療法では、ケンジ君が遊ぶのを作業療法士が見てアドバイスをしたり、質問をしたりする。

    動き回るケンジ君を見て、グエンさんが電話を片手にケンジ君を追いかけ回すこともあった。

    こうした支援を受けられて嬉しい反面、新型コロナ流行前の年初に受けていた対面のセッションとは大きく異なり、効果も劣るという。

    ケンジ君は多動傾向がある。水が大好きで、繰り返しトイレを流して楽しむ。物事の習得が早く、玩具を使ってグエンさんの料理をまねるのが好きだ。

    グエンさんはよく、ケンジ君を散歩に誘ったり、自転車で外に連れだしたりする。夕食やお風呂、読み聞かせ、就寝の前に1日のエネルギーを使い切ってもらうためだ。

    「毎日散歩やサイクリングで外に出ていました。外出することで、ケンジのエネルギー発散にもなっていました。家族全員にとってのセルフケアのようなものでしたね」

    自閉症を持つ親は、自分のための時間をあまり取れないことが多い。

    ジャック君の母親のデイリーさんは、パートナーのジョーさんに気がかりなことを相談できるが、胸の内を打ち明けられる友だちは近所にいないと話す。

    「今のところ、唯一の逃げ場はスーパーマーケットです。当てもなく、一息つくために行くこともあります」

    「息子は朝起きた瞬間から寝る瞬間まで、ずっと賑やかです。1日の終わりには耳鳴りがする時もあります。家から出て静けさを得るためだけに、スーパーへ行くこともあります」

    学校生活への不安

    このところ、デイリーさんはずっとイライラしているという。

    理由は、感覚過敏のある特別学級の子どもたちは学校でマスクをつける必要がない事に対して、学校のFacebookグループで不満を言っている親がいるからだ。

    特別学級の子どもたちが、休憩や体育の時間もなく別の部屋に隔離されていても「学校へ戻ってきて欲しくない」と言う親もいる。

    「うちの子がマスクをしなきゃいけないのに、どうしてあの子たちはマスクをしなくていいの?」これが不満の理由だとデイリーさんは考える。

    ジャック君の学校は始まったが、デイリーさんは新しい仕事につくのを先送りにしている。

    マスク着用の件が物議を醸し、学校は10月か11月までに再びリモートへ戻ると確信しているからだ。

    「自分の子どもたちはマスクをしなければならないのに、特別学級の子どもたちはマスクをしなくてもいいことに激怒する人もいます」

    一方ブラウンさんは、ジェームズ君が必要な社会適応能力を身につけられるかを心配している。

    ジェームズ君は4年次まで、クラスメイトから精神的・肉体的ないじめを受けていた。

    だが5年次は違った。ジェームズ君は学校を楽しみ、クラスメイトも仲間に入れてくれた。ようやく友だちを作れると期待していた。

    「結局1、2年で、ジェームズは他の子から『変わっている』と思われていることに気づき始めました。彼は『友だちがいたらいいのに、友だちが欲しいだけなのに』と言うようになりました」

    「学校の先生によれば、彼はみんなにあいさつをしたり、髪を切った人がいれば声をかけるなど頑張っていたようです。でも11、12歳の子たちにそれをするのは難しいことだと思います」

    アメリカの小学校では最終学年にあたる5年次には、物事がいい方向に進んでいたそうだ。しかし、新型コロナウイルスによって予期せぬ方向転換を強いられた。

    ジェームズ君が楽しみにしていた学校のキャンプ旅行も中止になってしまった。キャンプは、ジェームズ君にとって節目のイベントになる予定だった。

    「父親や祖父母もいない中で、彼にとって初めての、私から離れての生活の予定でした」

    「卒業式も楽しみにしていました。しかし、全てが中止になってしまいました」

    秋には他の問題が彼を襲った。ジェームズ君は中学校で多くの人々に会い、自分と共通点を持つ人に会えることを心待ちにしていた。

    しかし中学の授業はオンラインになり、友だちを作るのは難しかった。

    その時の状況を、ブラウンさんはこのように話す。

    「(中学校に入る前には)みんなから『自分と似た人がもっと見つかりやすくなる』と言われていました」

    「ジェームズはその出会いを待ち望み、学校へ行って新しい人に会うのを楽しみにしていました。今はそれもなくなり、『友だちなんか一生できないんだ』と言っています」

    いつまでこの状況が続くのか。不安と戦う日々

    新型コロナウイルスの流行から半年が経ち、ひとつだけはっきりしていることがある。将来の計画を立てるのが、不可能に近いということだ。

    学校はどうなるのか。経済はまた低迷するのか。感染の第2波はくるのか。ワクチンはどうなるのか。

    不安の種はだれにでもあるが、自閉症がある子の親にとっては存続的な問題だ。この状態でどれほど育児を続けられるか、分からないからだ。

    新型コロナが広がる前、デイリーさんはパートナーのジョーさんとの引っ越しを計画していた。

    現在住んでいる小さい町の人たちは、ジャック君をあまりよく受け入れていないことが理由だ。

    ここから車で数時間ほど先にある小さな街であれば、ジャック君への教育制度ももっと整っている。

    「ジャックをウォルマートに連れて行くと、『自分の子どもだったら溺れさせる』と人々が言うのが聞こえます」とデイリーさんは言う。

    「他にも、ジャックが座っているのを見て『あんなに太って。歩かせるべきだ』と言ってくる人もいます」

    しかし現在、デイリーさんもジョーさんも引っ越しの費用は捻出できない。

    「本当に今のところ、将来の計画がまったくありません。まさに必死でしがみついている状態です」

    「金銭面では、やり繰りをするのにすべてを使い切ってしまいました。ずっと家にいるので電気代も水道代も上がりました。それに加えて、ジョーは年間で7〜8万ドル(約730万~835万円)ほど稼いでいた仕事から、時給10ドル(約1,000円)の仕事に移ってしまいました」

    グエンさんと夫のクリスさんは、新型コロナが流行する前に、家を買う最終段階にいた。

    ケンジ君の世話の面では、同じ屋根の下に家族がいるのは助かったが、自分たちだけのスペースがあることが理想だった。

    だがクリスさんが失業し、家を買うのは諦めた。

    クリスさんの収入でケンジ君の支援費の多くを負担していたのと、グエンさんの保険を使っても、ケンジ君の支援は1回につき4万円以上かかる。

    どこかの時点で頭金を貯められたらいいと考えているが、今は自分が失業する場合に備えて、非常用の資金を貯めることに追われている。

    「家を探す気になり始めるのは、恐らく早くても2021年になってからだと思います」とグエンさんは話す。

    「新型コロナの影響もあり、個人的には金銭面での心配が増えました。何もかもが不確かなことばかりだからです。何か本当に悪いことが起きて路頭に迷うのではないかと恐れるあまりに、備蓄や貯金をしないと、と思ってしまいます」

    怖すぎるから将来のことはあまり考えないようにしている、とブラウンさんは言う。失業したら家族を養うことができない。

    また、ジェームズ君やキャサリンちゃんにもっと手がかかるようになり、時間が足りなくなったらどうなるだろうかと心配している。

    「一度に数週間程度のことしか考えないようにしています。あまりに先のことを考えると、パニックに陥ってしまうからです」とブラウンさんは話す。

    「今ごろまでには、日常生活が戻っていると期待していました。『あともう少しの辛抱だから』と自分自身に言い聞かせてきました」

    「年末までこの状況が続いて、今と同じようにマスクの着用を迫られ、何もできないしどこにも行けない、なんて状態が続いたら…たぶん私はお手上げだと思います」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan