イギリスのトップモデルとして活躍するレオミー・アンダーソンさん(28)は、ランウェイショーのメイク・衣装チームが、彼女の肌の色合いや髪質に合った準備をしてくれなかったことを自身のSNSで明かした。
舞台裏を告白し、その様子を皮肉った動画が、TikTokとTwitterでは300万回近く再生されている。
アンダーソンさんが指摘しているのは、本来チームはモデルを最高の状態にすべきはずなのに、有色人種の肌や髪に対応できる人員がいないことだ。
その一方で、黒人の美容アーティストたちは仕事をもらえないという問題が、ショーの舞台裏で起こっているという。
黒人の美容専門家たちは、アンダーソンさんがその事実を動画で指摘したことで、世界から大きな注目が集まっているとBuzzFeed Newsの取材に答えた。
「肌の色に合わせた化粧をしてくれなかった」
アンダーソンさんは、9月に開催されたニューヨーク・ファッション・ウィークで、海外ブランドのクリスチャン・コーワンの衣装でランウェイに登場。
その当時の体験を、10月24日に投稿したTikTokでこう話した。
「まず、メイクさんが、私の肌色に合っていないファンデーションを塗った。そして、次のメイクさんもそれを修正しなかった」
そのため、アンダーソンさんはランウェイに出る直前10分で、自ら化粧をやり直したという。
動画では、髪の毛を乱暴に扱われる様子も収められ、最終的にはスタイリスト3人がかりで乾かして整えていた。
この体験で「家に帰りたくなった」というアンダーソンさん。
しかし、他のモデルが自分と同じように悲惨な扱いを受けないよう、黒人のヘアスタイリストとメイクアップアーティストをもっと雇ってほしいとブランド側に主張したと話す。
黒人モデルの被害は以前からも
アンダーソンさんの体験は、決して異例ではない。
黒人モデルのロンドン・マイヤーズさんは、2017年に開催されたパリ・ファッション・ウィークで同様の体験を明かしている。
一方、活動家としても活躍するモデルのアシュリー・チュウさんが発案したハッシュタグ #BlackModelsMatter(ブラック・モデルズ・マター、「ブラックモデルも大事」という意味)は、この業界で黒人モデルが直面している窮状に、スポットライトを当て続ける。
ザ・ファッション・スポットによる分析では、9月に開催されたニューヨーク・ファッション・ウィークの2022年春夏コレクションは、55.5%のモデルが有色人種で、構成されている。これは過去2番目に多い割合となった。
今回のランウェイショーでも、さまざまな人種や体型のモデルを起用していたものの、アンダーソンさんがあげた動画により、舞台裏では多様性のズレが生じていたことが明らかとなった。
BuzzFeed Newsは、アンダーソンさんの体験について、クリスチャン・コーワンに回答を求めたが、返事はなかった。
「化粧は自分でどうにかするしかない」
アンダーソンさんは十数年におよぶキャリアの中で、ファッション業界の変革を求めて日々活動し、過去に遭遇した惨劇を共有している。
中には、アンダーソンさんがある製品を髪に使うのを嫌がったところ、スタイリストから「人生を台なしにしてやる」と脅されたこともあるという。
そんなアンダーソンさんは、海外セレブのメイクアップアーティストを務めるエスター・エデメさんから自分を守ることを教わったという。
2021年5月、エデメさんはアンダーソンさんにプライベートレッスンを実施。化粧の失敗を直せるようになったという。
「もしスタイリストにめちゃくちゃにされても、どうしたらいいかを教えました。何を足して、取り除けばいいかということを」
「本来は自分でやる必要はありません。スタイリストが全部準備をしてくれるはずですから」
「でも、彼女は化粧や髪のセットを自分でする必要がありました。白人のメイクアップアーティストは白人のモデルと一緒にいるからです」
エデメさんは、今回のアンダーソンさんが動画で指摘した問題について、「よくあること」だと語る。
「別に新しいことではありません。だから驚きません」
人種差別は美容アーティストにまで拡大
さらに、「この問題はモデルに限ったことではありません」とエデメさんや他の美容専門家は話している。
「多様性や共生を全面的に保障するとしている一方、業界入りの難しさ、身内びいき、敵対的な労働環境、賃金格差といった深刻な舞台裏が問題となっています」
「数々の有名人を担当していても、大きな仕事の獲得はいまだに困難です。特に黒人の場合は、チャンスが巡ってきても、1人しか雇われないことが多いです」
「敵対心むき出しの状況に遭遇することもあります」
「白人の女子ばかりのクラスに、黒人の女子が1人だけいる中学校みたいです」
加えて、白人の同僚よりも支払いが少ないことがあるとエデメさんは指摘する。
「同じ仕事で、白人のメイクアップアーティストと同じ金額を支払われていないことがありますが、それが判明するのも後になってからです」
「他のアーティストは、白人か色白のモデル用の道具しか用意していなかった」
経験豊富なヘアスタイリスト、ディオンヌ・スミスさんは、黒人の美容アーティストがファッション業界で活躍するためのハードルは、とても高いと話す。
ヴィヴィアン・ウエストウッドやアマンダ・ウェイクリーなど有名ブランドのファッションショーで、ヘアスタイリストの助手を2年務めたスミスさん。
しかし、「成長の余地がない」と感じ、ファッションショーの仕事を辞めたという。
「たいていの場合、仕事をもらってもトップレベルではなくて、いつも誰かの助手なのです。ほとんどの仕事をやるはめになってもです」
現在は、レジーナ・キング、マーベルで活躍する女優テヨナ・パリス、歌手のレイ=アン・ピノックなどの大物を顧客にかかえる。
ロンドンを拠点とするメイクアップアーティストのザキヤ・シャニさんはこう指摘する。
「メイクアップアーティストとして、定期の仕事が欲しければ、幅広い人種に対応できることを示すのは不可欠です。でも、その期待は一方通行のものだと思います」
「ある仕事で、他のメイクアップアーティストの仕事道具を見てみると、白人か色白のモデル用のものしか準備されていなかったのです」
「その日の仕事で黒人のタレントを担当するはずないと思い込むのは、おかしいです」
差別根絶に動き出したファッション業界
現在、業界のプロたちは、業界ぐるみの人種差別と戦っているという。
元モデルのセリア・シアーズさんが立ち上げた舞台裏の後方支援を行う制作会社Show Divisionは、2つの明確な目標を定め、ワークショップを運営している。舞台裏の行動様式をお互いに尊重しあうようにするためだ。
1つ目は、全てのヘアスタイリストは、黒人特有の髪質に熟練であることを証明しなければならない。
2つ目は、全てのメイクアップアーティストは、あらゆる肌の色でも対応できるような仕事道具一式を持って、楽屋入りしなければならない。
同組織は、スタイリスト、メイクアップアーティスト、ネイルテクニシャンなど、250人もの美容アーティストを有し、世界中のファッション関連団体がこのトレンドに追随することを願っているという。
いまだ黒人と白人の埋まらない溝
しかしシャニさんが話すように、黒人のメイクアップアーティストには、大きなチャンスがほとんど訪れない。公に募集を出さなかったり、白人の親しい間柄で紹介しあう慣習があるからだ。
そのため、ランウェイショーや雑誌の表紙が多様化し、黒人モデルの活躍の場は増えているのにもかかわらず、黒人の美容アーティストは蚊帳の外だという。
現在、黒人の美容アーティストたちは、独自のネットワークをつくり始めている。黒人の受け入れを必要としている有名な黒人俳優やモデルに大きく依存している現状だ。
最後に、最近スミスさんが受けた映画の仕事は、主演女優から依頼されたものだったと明かした。
「黒人で、黒人特有の髪の毛のことをよく分かっている人がいるといって、私を紹介してくれたのです」
「彼女が私のことを強く推薦してくれたからこそ、このような仕事に参加する貴重な機会を得られたのです」