シリーズ6作目となる『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、8月3日公開! ここから、少々ネタバレになる可能性もあるので、要注意!
トム・クルーズにできないことはない。
主演をつとめるトム・クルーズ。演技派でファン思いの彼は、スタントマンを使わないことで知られている。本作でも「本当にやったの?」と言いたくなるほど、過激なスタントの数々をこなしている。
上空7.6キロの飛行機からのダイブも、ノーヘルでパリの街をバイクで疾走も、ロンドンのビル街での屋上から屋上へのジャンプも、ヘリで山峡に突っ込むのも、ぜーんぶクルーズ自らがやった。
『フォールアウト』を見ていると、「トム・クルーズにできないことはあるのか?」という疑問が浮かぶが、本作の監督と脚本をつとめたクリストファー・マッカリーいわく「ない」とのこと。
クルーズと仕事を共にするのは、今回で9作目となるマッカリーは、クルーズについてこう語る。
「(ハリウッドで)1番の努力家で、献身的に作品に打ち込み、経験豊富で、プロフェッショナル」
とくに、スタントに関しては、彼の右にでるものはいない。
『ミッション:インポッシブル』シリーズにとって、スタントアクションは人気の目玉。本シリーズでクルーズと仕事をするということは、世界で最も有名な俳優が、最高のシーンを撮るために命の危険をおかすのを目の当たりにするということ。
「トムじゃない役者がスタントやりますって言うなら、スタジオ側もダメって言いやすいんですけどね」。マッカリーは、これはクルーズならではの仕事であり、クルーズ以外にこなせる人はいないとすら感じている。
身の安全が確保できないスタントはしない。しかし、クルーズの「安全」のレベルはかなり上にある。
イーサン・ハントのどんな活躍を見たいか。マッカリーは脚本執筆に当たって、クルーズといろいろ相談したという。
「見たいシーン=クルーズがスタントをやることになるシーン」である。自分でスタントするというと命知らずな印象を受けるが、マッカリーいわく「バカな真似は絶対にやらない」というクルーズ。自身の能力を熟知し、無理はしない。安全を第一に考えてスタントに臨むのがクルーズの姿勢である。
とはいえ、スタントをやるクルーズの考える「安全」は、一般人のそれとは、かけ離れてはいる。『フォールアウト』のスタントシーンは、とても安全には見えないから…
『フォールアウト』で最も危険なスタントは、ヘリコプターのシーン。物理的にも精神的にも危険。ただ、ハラハラドキドキするからこそやりがいがあると、マッカリーは考える。
「不安にならないようなシーンは、映画として撮る価値がないと思います。だから、トムに尋ねますよ『これ、できそうかな?』って。そしたら、トムは言うんです、『もちろん』って」
もちろん、「できるよ!」って言ったらすぐ撮影するわけではない。クルーズは、数ヶ月かけて、スタントをこなす技術を身につけるために撮影で使用するエアバス社のヘリの操縦を学ばなければならなかったし、エアバス社からの許可をとる必要もあった。
エアバス社の説得には苦労したというマッカリー。「エアバス社側としては、自分の会社のヘリでトム・クルーズ死亡なんて絶対嫌でしょうから」
スクリーンでクルーズが見えるかどうか。
クルーズがスタントをやるか決める上で、安全よりも大事なことがある。それは、スクリーンの中でクルーズの顔が見えるかということ。
『ミッション:インポッシブル』シリーズで案がでるたび却下されているのが、クルーズにベースジャンパーが着用するウィングスーツを着せてはどうかという案。
却下される理由は、ウィングスーツでスタントしても、クルーズの顔が見えないから。
同じ理由で、『フォールアウト』のあるシーンではスタントが使われている。CIAエージェントをハントが追って、窓ガラスから電車の屋根に飛び降りるというシーンだ。
クルーズ自身はスタントを快諾したものの、顔をうまく見せるカットがない、準備に時間がかかりすぎるなどの理由から、監督であるマッカリー自身がスタントの使用を決めたという。
冷静なアイディアマン。
「トムはアイディアが豊富」だというマッカリー。ただ、自分のアイディアだからと言って、無理強いはしない。
最初に公開された『フォールアウト』の予告編にあったヘリコプターとトラックのシーンでのクルーズのカットは、本編では削除されている。
ヘリとトラックの場面が長すぎると感じ、音楽を変えたり再編集をしたりを繰り返したマッカリーに対して、クルーズは「そこカットしちゃえばいいよ」と冷静。
自分の目玉スタントシーンでも、けっこう気楽に削れてしまうのもクルーズならではらしい。
骨折してもやりきる。
ロンドンの街で、ビルの屋上を渡り走っていくスタントシーンにて、実は、クルーズは足を骨折していた。
ただ、これくらいじゃクルーズはとまらない。怪我をおっても、最後までシーンを演じきったのは、2テイク目はないとわかっていたから。
カットがかかってすぐマッカリーが様子を見に行くと、クルーズはすでに足をアイシングしていた。「撮れた?」と聞いたクルーズ。撮影にかける情熱がすごい。
怪我してもただでは起きない映画人。
クルーズの骨折(全治2ヶ月)のため、撮影スケジュールの変更が必要となった。
これにともない、マッカリーは映画のストーリーや予定していたシーンを書き直し、編集しなおした。もともと予定されていたストーリーラインは明かされていないものの、ハントにとっては少々ダークなシーンがあったという。
ハントに影がかかるような内容にもかかわらず、クルーズは快諾したどころか、さらにダークなアイディアをぶつけてきた。
クルーズにとっては分身ともいえるハントというキャラをいじることに対してもオープンな彼の姿勢に、マッカリーは驚いた。本作ではなくなってしまったものの、この少々ダークなハント、いつか日の目を見ることを願う、見てみたい!
『ミッション:インポッシブル』を超えるミッション:インポッシブル。
シリーズの次回作も監督したいかという質問に、「話はでています」と答えたマッカリー。
ただ、迷いもあるという。
2015年の『ローグ・ネイション』にて、クルーズが飛行機からぶら下がるというシーンを撮った時、マッカリーは「次の監督がかわいそうだね。もうやること残ってないでしょ」とジョークを飛ばしていた。まさか、その次の監督も自分になるとは思っていなかったのだろう。
『ローグ・ネイション』の時と同じく、今回『フォールアウト』を撮影し、マッカリーには再び、これ以上できるのか?という不安がある。
次回作は、今までのシリーズを超えているはず、超えねばならないという期待に応えるのは、まさに『ミッション:インポッシブル』。ただ、クルーズとはまた一緒に仕事したいという。
「トム・クルーズ作品を作りにきたのではない、あなたの映画を撮るために僕がきたのだという男」。クルーズのことを、そう評するマッカリー。
「彼のさまざまなアイディアに僕が耳を傾けるように、彼も僕に協力してくれます」
「確かなことは、僕たちはずっと映画について語りつづけているということ。たまに、その会話が制作によって中断されているんでしょうね」