「学校にあったはずの居場所がなくなった」。山梨県に暮らす高校2年生の望月はるきさん(17、仮名)には、苦い思い出がある。
望月さんは好きになる対象が、男性も女性も含むバイセクシュアル。2016年11月には、LGBT当事者の交流会や勉強会を開催する「YOUTH」という団体を地元で立ち上げた。
だが、活動を始めた当初、学校の反応は冷ややかだったとBuzzFeed Newsの取材に話す。
「最初、先生には学校ではカミングアウトしないでほしいと言われました。他の生徒をYOUTHの活動に誘わないでくれとか、外で活動するときはうちの制服は着ないでほしいと言われたこともあります」
「学校に活動のチラシを掲示してほしいとお願いしたときは、『うちの学校はまだその段階に達していない』『学校は、LGBTに対して否定的な意見を持つ人も守らなくてはいけない』という言葉が返ってきて、自分の存在を否定されたようで、悔しかったです」
自分のセクシュアリティやジェンダーに戸惑い、周囲の偏見に悩み、生きづらさを感じることの多い10代のLGBT当事者。
彼らが安心して過ごすことのできる居場所は、誰がどのように守るべきなのか。
「手のひらを返す」ような学校の対応で、居場所を失った
望月さんが女性にも恋愛感情を抱くことに気付いたのは小学校低学年の頃。
中学2年生のとき、自分の心の性を説明する言葉は1つの性に固定されない「ジェンダーフルイド」だと気付いた。
2年後、高校1年生のときに好きになった人は年上の女性だった。
それまで付き合ったことのある人は全員男性ということもあり、周囲と違うことに戸惑い、友達との気軽な恋愛トークも楽しめなくなってしまったという。
周囲との違いに悩み、情緒不安定になっていたとき、相談したのは担任の教員だった。その流れで自分がバイセクシュアルであることを打ち明けた。
「担任の先生は、(LGBTに関して)あまりよく知らないとは言っていましたが、親身になって話を聞いてくれたので話しやすい状況でした。スクールカウンセラーの先生も紹介してくれて、月に1回ほど相談するようになりました」
しかし、ある日、担任にしかカミングアウトしていないはずが、自分がバイセクシュアルであることが他の教員にも知れ渡っていることに気付いた。
本人の合意なしにセクシュアリティを暴露する行為は「アウティング」と呼ばれ、当事者のプライバシーを侵害し、傷つける行為として問題視されている。東京都国立市では4月からこのアウティングを禁止する条例が施行されたほどだ。
「学校の中では情報を共有することが当たり前なのかもしれません。でも、正直驚きました」
一部の教員らが活動を問題視したことで状況は一変。応援してくれていた担任も望月さんの活動に冷たい対応を取るようになった。
「手のひらを返すよう」な学校の対応の結果、望月さんは学校での居場所を失っていった。
LGBT当事者の交流会でも居場所を見つけることはできなかった
学校の外に居場所を求めて、何度か都内でのイベントにも参加したが、当時はまだ15、16歳。
定期的に通うほどの金銭的な余裕はなく、親にもカミングアウトしていなかったため、どこへ行くか説明できない心苦しさを常に感じていた。
山梨県で活動しているLGBT当事者主催の交流会へも参加したが、集まった人の多くは30代〜50代。悩みを相談することはできたが、交流会へ足を運ぶ目的などに少しズレを感じたという。
「参加者の中にはパートナーを探しに来ている方もいるようでしたが、私はパートナーが欲しいわけではありませんでした。世代の違いもあり、話が合わないと感じることもありました」
「大人なら居場所がなくなったとしても、次へ行けばいいかもしれません。でも、特に地方に住む子どもたちはとても狭い世界で生きているんです。そこで自分らしさを出すことはリスキーです」
居場所がなく、抱く孤独感....当事者が感じる生きづらさ
学校でこうした生きづらさを抱えているLGBT当事者は望月さんだけではない。
宝塚大学看護学部・日高庸晴教授は2017年、三重県男女共同参画センターと共に、三重県の県立高校(全日制)に通う高校2年生約1万人を対象にしたアンケート調査を実施した。
結果はLGBT 2.8%、男性・女性どちらにも当てはまらないXジェンダー 5.0%、好きになる人の性別がわからないと答えたクエスチョニング 2.1%というもの。体の性や心の性に違和感を感じている人の割合は全体の10%だ。
これは単純計算で30人学級であれば3人、40人学級であれば4人が当事者であるという計算になる。
一方、そのうち、「学校には安心できる居場所がある」と答えた当事者は36.9%、「いざという時に力になってくれる友人や先生がいる」と答えた当事者は46.8%にとどまった。
日高教授は、10代は性的指向や性自認が他者と違うことに気付くことが多い年代で、思春期は「混沌としたしんどい時期」になりやすいと指摘する。
それにより居場所がないと感じる人や孤独感を募らせる人もいるという。
現場の先生に丸投げしない制度を
「家庭の次に長い時間を過ごす場所が学校です。そしてそこで出会う人が先生。だからこそ現場の先生には、生徒がありのままの自分で良いと感じられるようなポジティブなメッセージを発信してほしい」と日高教授は言う。
2011年〜2013年に6自治体の教員5979人を対象に日高教授が実施した意識調査では、「LGBTについて、授業で取り扱う必要があると思うか」という項目で「同性愛について教える必要があると思う」と回答した人は62.8%。「性同一性障害について教える必要がある」と回答した人は73.0%だった。
一見かなりの割合の教員がLGBTに関するトピックを授業で扱うべきと考えているように見えるが、HIVや性感染症は9割以上が教えるべきと回答している。日高教授は語る。
「教室でLGBTに対するネガティブな発言があったとき、先生がきちんと指導すれば、息を潜めている当事者の子も『自分のために言ってくれた』『自分を守ってくれた』と感じることができる」
「早い時期にこうした体験をすることで、LGBTに対する偏見を内面化せず、自分は自分でいいと思えるはずです」
さらに、現場の教員の意識を高めると同時に、各校の上層部や教育委員会が体制を整えていく必要があると強調する。
「学校長がLGBTの子どもにもしっかりと配慮しようとメッセージを出すことが重要ですし、管理職への研修などを実施し、教育委員会が主導して教育現場の意識を変えていく仕組みを作ることが重要です」
望月さんの学校を管轄する山梨県教育委員会は、教員向けのLGBT研修を実施しているかについて、BuzzFeed Newsの取材に次のように回答した。
「LGBTに特化した研修は行なっていませんが、2015年の文科省の通知以降、管理職や養護教諭、教育相談担当教諭向けの研修で、不登校やいじめと共にLGBTに関するトピックも扱っています」
「県内の公立高校であれば、各校に3、4人程度はLGBTに関する知識を持っている教員が在籍している状態です」
大人任せにせず、彼女は一歩を踏み出した。でも、子どもの居場所は本当は誰がつくるべき?
望月さんはその後、学校以外の別の居場所があれば、という思いからTwitterアカウントを開設。
最初は名前と顔を伏せて、自分と同じような状況にある学生が集まれる場所として「YOUTH」の活動を始めた。
参加者の多くは高校生。3〜10人程度が参加する交流会や勉強会を月に一度、公共施設の一角を借りて開催している。
次第に自分の顔を出し、望月はるきという仮名で発信するようになった。
彼女は「YOUTH」の活動を通じて自分の生きてきた世界が狭かっただけだと気付いたという。
なぜなら外の世界へ出て、活動を行う中で「自分のやってきたことは間違いじゃないという自信が持てた」から。
「友達や同世代の人からは好意的な反応が多いんです。応援するよ、とか。実は自分も同じことで悩んでいて、という声も届くようになりました」
「自分の住んでいる世界、例えば学校とか地域とかで考えてしまうと自分は変わっているとか、間違っていると感じてしまうかもしれない。でも、もっと広い視野で見たら、セクシュアリティやジェンダーで悩むことって間違いじゃないって気付くことができたんです。学校という狭い世界では苦しく感じても、外に一歩出れば苦しくなかった」
望月さんは自身のことを「活動家」と呼ぶ。
山梨県外にも足を運び、LGBTの当事者の声を届けるための活動を行っている。昨年度は文科省も後援する「全国高校生マイプロジェクトアワード」にも参加し、全国から集まる高校生や教育関係者たちの前で自分の思いを伝えた。
高校卒業後は活動を続けるつもりはない。
LGBTだけでなく、難民や障害者など、自分の生きたいように生きられない人は世界にたくさんいる。より広い視野で学んだ上で、社会のために何ができるのかを探すつもりだ。
望月さんは昨年、親ときょうだいに自分のセクシュアリティをカミングアウトした。いまは家族の理解と協力を得て活動することができている。
しかし、家庭環境を選べない子どもたちが居場所を失う怖さも知っている。
では、誰がLGBTの子どもが安心できる場所を守るべきなのだろう。そんな問いへの望月さんの答えはとてもシンプルなものだった。
「すべての人、すべての場所にいる大人がLGBTでも生きやすい場所をつくってほしいです」
【UPDATE】記事内の表現を一部修正しました。