大人になって沁みる「ポケモン」の歌詞の深い意味――小林幸子&中川翔子が語る

    1998年公開され、子供たちに衝撃を与えたポケモン映画シリーズ第1作『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 』が、21年の時を超え『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』としてフル3DCGで帰ってくる。テーマソング『風といっしょに』を歌うのは、小林幸子と中川翔子だ。

    1998年公開され、子供たちに衝撃を与えたポケモン映画シリーズ第1作『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 』が、21年の時を超え『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』としてフル3DCGで帰ってくる。

    その主題歌『風といっしょに』を小林幸子と中川翔子が歌う。もともと1998年公開の際にも同曲は主題歌に採用され、演歌歌手の小林が歌い上げたことが話題になった。

    その後、小林はニコニコ動画、コミケ参戦などテレビの枠を出て活動の場を広げた。中川は当時、小学6年生。「『ポケットモンスター 赤・緑』、どっちを買おうか悩んだ」思い出を持つ、いわゆるポケモン第一世代だ。

    時代も価値観も変わった21年の歳月。2人はどんな風に年齢を重ねたのだろうか? それも競争の激しい芸能界という世界で――。

    芸能生活55年、精神を落ち着かせる言葉

    ――小林さんは、演歌歌手のイメージが強かったのですが、ニコニコ動画に降臨してからボブサップとプロレスしたり……幅が広いなと。

    小林:あはは(笑)。そうね。今やプロレスまでやってますし。でも、同じ話で言うと、21年前にポケモンと関わらせていただいたのもすごく驚きましたから。「え? 私でいいの?」みたいな。

    ――演歌歌手ですもんね。紅白のイメージが強いっていうか。

    小林:そうそう。どうやら、お茶の間でおじいちゃま、おばあちゃま世代から子供まで3世代で「小林幸子」の名前が浸透していたっていうのが、きっかけらしいんです。演歌を歌っているだけでは、通り過ぎていってしまう子供たちが私の歌を聴いてくれるのが嬉しかった。歌詞もすごくいいの。

    でも、『風といっしょに』は、オーケストラがバックにいる、それまで歌ったことないメロディでした。だから声楽を習いに行って、それまでとは違う歌い方を勉強しました。「声は目から出すんです!」って言われて驚いちゃった。

    ――抵抗はなかったんですか? 演歌歌手としてのキャリアが長いだけに。

    小林:それはなかった。声楽はこうだって言われたら、やっぱりそうなので。『風といっしょに』は自分がやってきた演歌とは違う世界のもの。ひきだしが増えた感じ。それを自分なりに融合して歌う。

    中川:柔軟性!

    小林:確かにそうかもしれない。私は、基本的に否定はしないスタンスかも。

    ――歳を重ねていった時、新しいことを示された瞬間に「最近の若いやつは」といじけそうで怖いです……。

    中川:わかる……。幸子様はすごい。ニコニコ動画で「ラスボス」って言われても、笑顔で受け止めて楽しんでいて、すごすぎると思ってましたもん。どうしてそんなに柔軟性があるんだろう?って。

    小林:演歌歌手という思い込みを捨てること……かな。私も仕事はこれでも選んでるんですけど(笑)、面白いなって思うことをやらせてもらってますね。

    そもそも演歌歌手だと思いこんでいたら『風といっしょに』も歌ってないでしょうし。ラスボスって言葉も知らなかったのよ。ニコニコ動画っていう存在も。まぁでも面白そうだしやってみようか〜と現場に入ったら、私が知っているスタジオの4分の1くらいの広さで……。どうしよう、撮れるのかしらって思ったの。

    小林:実際、配信すると画面がコメントで埋まって自分の姿が全然見えない。意味がわかりませんでしたよ(笑)。「ラスボスって呼んでいいですか?」と突然聞かれて、よくわからないけど快諾して。後でスタッフから「ラスボスはゲームの最後に出てくる最強の悪いボスのことです」って教えてもらって「なんで!?」と叫んじゃったわよ。でも、みんなが楽しいなら、まぁいいかって。

    中川:「まぁいいっか」ってすごい。

    小林:使うと楽になるのよ。おすすめ。私も人間だから苛立ちを覚えることもあるんですけど、誰かを攻撃するのって、生産性がないし時間の無駄なの。だから、「まぁいいっか」って笑って受け入れる。

    中川:「まぁいいっか」っていう柔らかさは今の時代本当に大事。しかも結局「ラスボス」がいつの間にか「敬意を表する」という意味に転じるという謎の変化が起きましたよね。すごい。

    小林:全部ひっくるめて、ネットの人が私のこと面白がってるんだからいいじゃん。楽しいってなりましたね。

    ――プライドが傷ついたりしないんですか?

    小林:うーん……すぐに揺らぐプライドなんていらない。「自分はこういう人間」とか「こう見られたい」という気持ちって、プライドではなく見栄なんですよ。見栄で自分を縛っていることってすごく多い。

    仕事に矜持を持つことと、見栄をはっていることは違う。自分に対する思い込みを捨てると……ボブサップとも戦える(笑)。

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    中川:いろんなことを否定しないで、面白そうって見てくれる。コミケにも参戦してくださって。

    小林:コミケは面白かったねぇ……。びっくりしたけど。人がいっぱいくるの! 熱い熱い! 私もテンションが上っちゃって「最高だね〜」って笑ってたら、女の子たちが「コスプレの女王!」って歓声送ってくれてね。たしかにステージで派手な格好してるからね。慧眼でしたよ。

    中川:まさかテレビの中でキラッキラな幸子様がこっちに降りてくるなんてみんな思ってなかった。

    私は、それこそ中学時代は、1人で絵を描いていると「キモい」って笑われたり、陰口を言われたりしたから。

    ――00年代前半までは、中学生になったら「ゲームもマンガも卒業しなさい」という風潮ありましたよね。

    中川:そう。だから、幸子様みたいな人がこっちの方にやってきてくださるのは、本当に尊かった。

    私、それこそ『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』を当時リアルタイムで観ていて、初めて感動の涙を流したんです。悔しいとか悲しい涙じゃなくて、感動の涙。その体験って本当に幸福そのものだったんですね。

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    このMVは中川が描いた自伝マンガをベースに構成されている。おもちゃ屋さんの店員が……。 / Via youtube.com

    中川:ポケモンのゲームを買ってもらったのは、その後他界してしまった父と一緒に行った街のおもちゃ屋さん。そういう思い出もあるからゲームとかアニメを「好きではなくなる」のが無理だった。

    ポケモンとの出会い、ポケモンとの思い出。きらめく夏の、思い出はずっと残り輝いてる 初めて緑を買ってゼニガメを選んだ思い出、 ミュウツーの逆襲を大好きなおじいちゃんと観に行った思い出、 あなたにとってポケモンとの初めての出会い、どんな時代でどんな思い出ですか? https://t.co/sZLZbbh6Z9

    20代後半、仕事をやめようと思った

    ――そんな思い出があるなら、今回『風といっしょに』の抜擢は……。

    中川:もう、信じられないっていう言葉しかないです。立ち止まった時期もあったけど、諦めなくてよかった。こんな未来が来るなんて……。

    今は、大人になってもアニメやゲームはもちろん、ポケモンも好きだって言えるいい時代。私はポケモンの情報番組(現『ポケモンの家あつまる?』、通称:ポケんち)に10年以上出させていただいて、そこで友だちにも恵まれて、人生が変わりました。

    番組で一緒になったメンバーとホームパーティーしたり、サバゲーしたり、一緒に『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』鑑賞会したり、すごく楽しい。青春はなかったって諦めてたんですけど。

    小林:今が青春じゃん!

    中川:本当にそうかもしれない。30代になってからの方が明らかに楽しいんですよね。20代のときは、学生時代を引きずってたし、特に20代後半は一番つらかったんですよ。

    ――活躍していて楽しそうに見えましたが……?

    中川:これから先どうしようっていう漠然とした不安が大きくて。空回ってたのかな、やらなくてもいいポーズにトライしてライブ中に尾骨を骨折したり……。無駄に悩んでた。

    誕生日を祝うローソクが増える楽しさ

    ――周りも結婚していく時期ですしね。

    中川:そうそう。いろいろ悩んでた。先輩方が30代の方がずっと楽しいとアドバイスをくださっても、「本当かな?」って思ってたんですけど、本当でした(笑)。

    ――どうしてでしょう?

    中川:多分、「もっとこうしたい」っていう提案ができるようになったんだと思います。受け身じゃなくて。そうしていくと、子供の頃からの夢が違った形で叶い出す。

    中川:10代の頃、学校でいじめられてすごくつらかった。でも、あの時、一人で悩みながら読みふけった本やアニメ、それこそポケモンが脳みそを養ってくれて、今の仕事に繋がってる。未来への種だったって実感するんですよね。『ポケんち』で共演しているヒャダインさんは、陰キャ時代のネタで子供たちから大人気ですし。黒歴史も全部栄養。

    中川:10代の時って不器用な部分があって、自分でも制御できないことが沢山ある。無駄に悲観的に捉えてしまうこともあるし。「あ、なんだもっと簡単なことだった」と、柔らかく解釈できるようになった気がしますね。がむしゃらにしがみついていたことが花開く。それこそ、20代のあの時、芸能界を引退していたら『風といっしょに』を歌うこともなかったんだなぁって、昨日思ったんですよ。

    小林:ちょっと、ひとこと言ってもいい?

    中川:はい!

    小林:50代からも楽しいよ〜。全部が可愛く見えるようになりますからね。30代になるとそれまでとは違った大きな悩みをみんなが抱えるようになって。それを越えると「まぁいいか」って気持ちがすごく強くなる。愛おしいっていうのかしら。理不尽なことってたくさんあるんだけれど、だいたい乗り越えられますから。

    中川:これが芸能界で55年戦い続けてる幸子様……。

    幸子様ってすごいんですよ。私が免許とった時もいち早くお祝いのメッセージをくれて、愛猫のマミタスが他界した時も励ましの言葉をくださって……。プライベートも素敵だけれど、一緒に取材をしてて驚いたのが、失礼な質問をされても毅然としてるんです。私だったら、オドオドしちゃう……。

    小林:嫌な質問されたら「そうです」って堂々としているだけよ。口に出すってことは反抗ではなくて意思表示だから。ただ、言い方は上品に(笑)。

    ――口に出すって大事ですよね。

    小林:本当にそう。例えば、夢も口に出すと近づいていく。『ポケットにファンタジー』(TVアニメ『ポケットモンスター』エンディングテーマとして使用された)の歌詞なんですけれど、ポケットの中に自分の夢がある。それを外に出していくと、叶わないかもしれないけれど、確実に近づいていく。

    中川:そう! 『めざせポケモンマスター』(TVアニメ『ポケットモンスター』主題歌として使用された)の「ユメはいつかホントになるってだれかが歌っていたけど つぼみがいつか花ひらくようにユメはかなうもの」っていう歌詞が大好きなんです。

    小さい頃は、意味もわからずに歌ってたんですけど「これは本当だ!」って最近本当によく思います。夢を誰かに言ったり、書いたりすると、当初と違う形だったり、遠回りになるかもしれないけど、それが叶うまでの道も経験値。RPGのように最終的に夢がかなって、また違う夢ができる。ポケモンっていつもそのことを歌っててくれたんだなぁって。


    ヘアメイク:柏瀬みちこ(ROOSTER)

    スタイリスト:尾村綾(likkle more)