Netflixが驚いた予想外の「日本発」のヒット作

    アニメはもちろん恋愛モノまで!?

    「服屋で何も買わずに帰るのは悪い気がしてとりあえず3足1000円の靴下買っちゃうタイプ」


    「相手に期待されると身を削ってクソ真面目に応えちゃうタイプ」

    「会社ではその性格が災いして上司に仕事を押し付けられて自滅するタイプ」「過労死を待つ列に自分から並ぶ従順なロボット」

    こんな「日本のOLあるある」を描いた『アグレッシブ烈子』は、YouTubeで火がつきNetflixでアニメが配信された作品だ。

    言葉の壁、文化の壁を超え、世界各国で人気を博している。

    Netflixは190カ国、1億3900万人のユーザーに配信される巨大プラットフォーム。日本には2015年に上陸し、麻薬組織との攻防を描いた『ナルコス』やいじめによって主人公が自殺する『13の理由』など刺激的な海外ドラマで人気だ。

    日本にもNetflixがやってきて、もうすぐ4年。日本発のコンテンツも世界に向けて発信されている。その中で、どんなものが「海外でウケている」のだろうか?

    徳が高いと話題? 日本の恋愛

    「海外から特に多く見られているのはリアリティショーとアニメ」。Netflixのコンテンツアクイジション部門ディレクターを務めるジョン・ダーデリアン氏はそう話す。

    「『テラスハウス』は、現在配信中の最新シーズン『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』が、米TIME.comの記者による『2018年のベストテレビ番組10』で6位に選出されました。英BBC NEWSやELLEにも取り上げられ、世界トップクラスの注目を集めていると実感しています」

    海外からの反応で多いのは、番組内の静かさ。それが新鮮に映るようだ。

    英BBCでは「劇的な出来事がほとんど全く起こらない」「出演者はお互いに行儀正しく、けんかをしたら謝り、かたつむりのような速さで恋に落ちる」と評す。

    確かに、共同生活の中で生まれた諍いは家族会議によって解決しようとするし、声を荒げるシーンはほとんどない。しかも、美男美女が閉鎖的な場所に集められているのに、「テラスハウス外」の恋人を作ったり、海外遠征でメンバーが不在だったりする。

    静かで、気ままで、ゆっくり。

    TIME誌もメンバーの恋愛模様を高く評価している。モデル・岡本至恩とアイスホッケー選手の佐藤つば冴のカップルについて「心を痛めるようなニュースが多い今、彼らの恋愛は希望に見えた」と綴る。

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    岡本至恩と佐藤つば冴 / Via youtube.com

    佐藤にとっては6年ぶりの恋愛。いきなり超がつくイケメンと付き合うこととなり戸惑いを覚えるが、不器用ながらも可愛らしく応えていく様が共感を誘ったようだ。

    お屋敷で富豪を取りあうバチェラーとは正反対の世界観なのかもしれない。

    キティちゃんと正反対の世界観。サンリオキャラの急先鋒

    日本上陸当初から「世界に向けてアニメファンを増やしたい」と掲げていたNetflix。2017年には「南米やアメリカ、フランス、イタリア、台湾、フィリピンでも人気がある。全世界のアニメの消費量を見てみると、日本以外が90%以上を占めている」としていた。

    特に可能性があるのが、深夜枠で放送されるような「オトナアニメ」だ。

    アニメ産業レポート2018では「海外ではテレビ放送枠がなく、ビデオ市場も崩壊していた状況にあって、日本のオトナアニメは海賊版サイトを賑わすだけの存在であったのが、3~4 年前からはそのネットによってマネタイズできるビジネスとなった」と分析される。

    オトナアニメとは、深夜帯に放送されるような作品を指す。夕方放送用に作られたキッズアニメとは異なり、シリアスな展開などが好まれる。

    Netflixの制作陣からも「アメリカのアニメは子供向けのものしかなかったので、シリアスなものを作りたかった」との声があがっていた。大人も思わず見入ってしまう複雑なアニメは「アニメ=子供のもの」とするイメージを覆しつつある。日本では定着している「オトナアニメ」は、世界に配信されることで更なるファンを獲得しているのだ。

    Netflixでこれまで制作されてきたオリジナルアニメも、殺傷シーンや性描写などが描かれる「DEVILMAN crybaby」やサスペンス作品の「B: The Beginning」などが多く見られたとダーデリアン氏は言う。

    また、逆輸入のような形で人気を博しているのが、冒頭の「アグレッシブ烈子」だ。

    「海外での人気が非常に高くなりました。2018年のサンリオキャラクター大賞では、イギリスやブラジルで1位を獲得し、アメリカやイタリア、ドイツ、フランスでもトップ3に入る人気ぶりです。かわいらしいルックスとは裏腹に、デスボイスで日ごろのストレスを発散するというキャラクターのギャップに加え、女性が仕事で抱く不満を描いているということが、大きな共感を得たようです」

    「海外の店でも烈子の専用コーナーができ、日本でもテレビCMに出演するなどさらに広がっています」

    これまでサンリオといえば「女の子の憧れ」的な存在としてのキティちゃん(彼氏持ち、イギリス出身)が爆発的な支持を得ていた。

    一方、烈子が表現するのは大人の女性のリアル(彼氏なし、会社の理不尽と戦うOL)だ。カラオケ、社畜、お局といった日本独自のカルチャーが色濃く出ているが、「生々しい」と共感を呼ぶ形になった。

    米KOTAKUでは「The Five Best Anime Of 2018」に選ばれ「毎話、烈子は私だわ……と思う瞬間がある」と紹介される。反響を受け、2019年にはシーズン2も配信される予定だ。

    「この3人」の布陣

    また、実写ドラマにも力をいれる予定だ。

    園子温、武正晴、蜷川実花らがメガホンをとる。この3者はそれぞれ、『冷たい熱帯魚』、『百円の恋』、『ヘルタースケルター』を代表作に持つ。どれも痛々しく毒気があり、狂気じみた魅力がある。R-指定。こんな単語が頭に浮かぶ。

    武正晴監督がメガホンをとるのは、山田孝之が伝説のAV監督を演じる『全裸監督』。蜷川実花は『Followers』でSNSに翻弄される東京の生活を描く。

    そして園子温は『愛なき森で叫べ』で猟奇殺人をドラマに仕立てる。『冷たい熱帯魚』や『恋の罪』でも実際に起きた殺人事件をモチーフにしてきた園監督が、世界に向けてどんな映像作品を作るのか期待の声が沸く。

    ダーデリアン氏によると『全裸監督』ではバブル時代(昭和)を、『愛なき森で叫べ』では混沌の平成を、『Followers』では東京のリアルを描く棲み分けがなされている。

    昭和、平成、東京。このキーワードを3人の鬼才に描かせるというのだ。

    アニメ、リアリティショーというジャンルで「日本らしさ」を海外に発信してきたNetflix。海外にも多くのファンを持つ監督たちを迎え、日本ドラマにも新たな展開をもたらそうとしている。