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日本人女性が見た、ロヒンギャの女性に対する組織的な性暴力

ミャンマーを追われ難民となったロヒンギャの女性の多くが、性暴力の被害にあい、望まぬ妊娠や流産などに苦しんでいる。命を落とす人も出ている。医療支援のため現地に入った日本人の助産師が、その実態をBuzzFeed Newsに語った。

「ロヒンギャ」とは、仏教徒が大多数を占めるミャンマー西部のバングラデシュ国境に近い地域に暮らしてきた、イスラム教徒を中心とする人々だ。

ミャンマー政府はこれまで、ロヒンギャの人々に対して差別的な政策をとり、多くは国籍すら与えられない状態が続いていた。長くくすぶってきたこの問題で事態が大きく動いたのは、2017年8月25日のことだった。ミャンマー軍が、ロヒンギャの武装勢力に対する掃討作戦を名目に各地で村々を破壊したのだ。

事態は軍事的な「掃討作戦」の枠を大きく超え、ロヒンギャの人々に対する組織的な迫害と追放の様相を呈した。膨大な人々が暴力を振るわれ、家を放火され、難民となった。国連のゼイド人権高等弁務官は、ミャンマーで起きていることを「民族浄化」と批判。国連機関や各国の支援団体が、難民キャンプなどでの支援を本格化させた。国際的な医療援助NGO「国境なき医師団(MSF)」も、その一つだ。

東京都出身の助産師小島毬奈さんは2017年11月から2018年1月まで、MSFのスタッフとして、バングラデシュのミャンマー国境に近い地域にある難民キャンプの医療施設に日本から派遣された。

そこで出会ったのは、家や財産を失ったり家族を殺されたりといった被害を受けた人々、過酷な環境で病気にかかった人々に加え、レイプの被害に遭った数多くの女性たちだった。

MSFがバングラデシュで運営する医療施設だけで、2017年8月25日から12月末までの間に治療した性暴力の被害者は120人にのぼる。多くは若い女性。3割は18歳未満で、小島さんが実際に会った被害者には、わずか9歳の少女もいたという。

「制服を着た男たちに...」高い組織性

ある20歳ほどの女性は、小島さんにこんな体験を語った。

「家族の前で何度もレイプされた。銃を持った人が来て兄と父がいきなり撃たれた。その遺体は地面に掘られた穴にほかの多くの遺体とともに投げ入れられた。幼い弟は無理矢理連れて行かれて火の中に入れられ殺された。空き家に入れられ、気を失うまでレイプされた。目が覚めたら周りが燃えていて、裸のまま国境近くまで走って逃げた」

この女性が逃げる途中、一緒にいた妹が撃たれた。だが、立ち止まったら自分も殺されると思い、そのまま走って逃げるしかなかった。女性はやがて国境を越え、バングラデシュ側の難民キャンプにたどり着き、MSFの診療所で治療を受けた。

小島さんは「これは典型的なケースと言えます。多くの人が、家族の前でレイプされたり、閉じ込められて繰り返しレイプされたりしたと語りました。そして、家や遺体に火をつけられたと語る人が多い」と振り返る。

さらに被害を受けた女性らが声をそろえたのは「制服を着た男たちに襲われた」という点だ。小島さんはこれらの証言から「女性に対する性暴力が、組織的に行われたことは明らかだと感じます」と語る。

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Medecins Sans Frontieres / Via youtube

息子を殺され、辱めを受けたロヒンギャの女性は、遺体に囲まれ息を潜めていた

小島さんは2014年3月にパキスタン・ペシャワルに派遣されたことを皮切りに、今回のバングラデシュを含め計8回の派遣ミッションを積み重ねてきた。危険度の高い南スーダンやイラクなどでも支援活動をした。その経験を持ってしても「ここまでひどい性暴力の蔓延は、これまでに聞いたことがない」という。

女性の多くは、生理が止まったことで望まない妊娠をしていることに気づき、MSFのクリニックを訪れて治療を受ける。性感染症やけがの治療やカウンセリングと心理ケア、そして中絶措置がその中心だ。

だが、小島さんにとっての悩みは、被害にあっていても治療に来ようとしない女性が多いことだった。「治療を受ける女性は、被害を受けた人の一握りに過ぎない。掘り起こせば、さらに多い人々が被害を受けていることは確実」と小島さんはいう。

「一族の恥」意識が阻む治療

なぜ治療を受けようとしないのか。その理由の一つは、ロヒンギャ社会で女性の置かれた地位の低さにあるようだ。

ロヒンギャ社会では、未婚の女性が妊娠することは「一族の恥」とみなされる。また、レイプであっても、妊娠したことは女性の責任だという考え方も根強いという。

妊娠している場合、歩いて診療所に向かえば人目につく。性感染症や外傷も、人には相談しづらい。このため、被害を受けた女性が一人で悩みを抱え込むことが多いという。女性が妊娠を隠すため、キャンプ内の自宅に閉じこもることもある。医師や助産師が立ち会わないまま自宅で出産して出血多量となり、病院に担ぎ込まれた時は危篤状態になっていた例もある。

また「流産した」といって診察に訪れる例が、日本では考えられないほど多かったという。レイプの被害者が自己判断で中絶し、自然流産を装って通院していたとみられる。

伝統的な産婆に頼って木の棒や薬草などを体内に挿入して中絶したことで敗血症となった人もいた。こうした状況が重なり、小島さんが主に活動したクトゥパロン難民キャンプでは、小島さんがいた11月からの2ヶ月半だけで6人の女性が死亡した。「異常に高い母体死亡率」と小島さんは指摘する。

狭い土地に人々がひしめき合って暮らすキャンプは立て込み、地形のアップダウンも激しく、斜面にへばりつくように建てられた小屋も多い。

車が通れるような道はほとんどない。だからキャンプ内で急患が出ても、救急車は来ない。木の棒に椅子や長い布を引っかけて二人がかりで診療所まで担いで運ぶ。雨が降れば地面はぬかるむ。診療所に行くのに1時間はかかることは珍しくない。

小島さんは現地のボランティアスタッフとともにキャンプ内を回り、戸別訪問や啓発活動を行った。

まず女性たちに伝えたのは「性暴力の被害にあえば、治療が必要。そして、被害にあったとしても、それはあなたの責任ではない」ということだ。

そのうえで無料で秘密厳守で治療をする、と呼びかけた。それでも、スタッフがクリニックに連れてこない限り、治療やカウンセリングを受けないことも珍しくなかったという。

バングラデシュの国境地帯では、ミャンマーを逃れてくる人々が相次ぎ、これまでに70万人近くが到着した。2018年2月現在もなお連日数百人単位で新たに逃れてきている。

小島さんが主に働いたクトゥパロン難民キャンプも、2017年8月以前は数万人規模のキャンプだったが、2018年1月現在では周囲地域を含め50万人を超えるまでになった。周辺ではMSFだけで15の診療所と3つの基礎医療施設、5つの入院施設を運営しているが、増え続ける需要に全く追いついていないのが実情だという。

家族や財産を失ったつらさと厳しい難民キャンプでの生活は、多くの人に強いストレスを与える。少女を含む女性の多くが、小島さんに無月経を訴えた。調べてみると妊娠ではなく、ストレス性の無月経だったという。また、国連児童基金(UNICEF)などによると、難民の6割は子どもたちだ。しかし、子どもたちのための教育施設はほとんどない状態で、本来は毎日、勉強しているはずの子どもたちは学校に通うことができない。多くの子どもたちが、水くみや木材、食料運び、家事の手伝いなどをしながら日々を過ごしている。

「少女が少女で、女性が女性で、子どもが子どもでいることが許されない過酷な状況に置かれている。このまま事態が長期化すれば、教育を受けられないまま育ってしまう世代が出てくることになる。教育を奪われたまま育つことが、子どもたちの人生にどれだけ重い影響を与えることになるのか。そして将来、ロヒンギャ社会を立て直すだけの見識と能力を持った若者がいないという未来すらもあり得ると危惧しています」

小島さんは、こう警鐘を鳴らし、「現場はあらゆる施設と装備が足りない。さらなる支援が必要です」と呼びかけた。

日本国内では、MSFをはじめとする各種の援助団体や国連関連機関が、ロヒンギャ救援の寄付を募っている。主要な団体への寄付をまとめたものとしては、Yahoo! JAPANのロヒンギャ難民緊急支援募金がある。

BuzzFeed Newsではこれまでもロヒンギャ問題を報じている。

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