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3万人救った難民救助船が活動停止に 欧州の反移民の波が人道支援にも

近く日本人スタッフも乗り込む予定だった。欧州の反移民・難民の波が人道支援活動にも及び、国境なき医師団による地中海での海難救助が中止に追い込まれた。

国際的な医療NGO「国境なき医師団(MSF)」は12月7日、NGO「SOSメディテラネ」と共同で運航し、地中海を漂流する難民や移民を救助してきた海難救助船「アクエリアス号」が、活動停止に追い込まれた、と発表した。

欧州で強まる反移民・難民の動きが、人道支援活動にも及んだ。

地中海では、リビアのカダフィ政権の崩壊などをもたらした2011年の政治変動「アラブの春」以降、中東やサハラ以南アフリカからの難民や移民が、リビアから小さな漁船などで欧州を目指す例が急増した。

悪質な業者に騙されたり、途中で船の故障や荒天で漂流したりして、命の危険にさらされるケースがあとを絶たない。2018年だけで、推定で2000人を超える人々が死亡している。

近く日本人スタッフも活動する予定だった

このためMSFは2016年2月から、地中海での捜索救助活動を始め、イタリア、マルタ、リビアなどの沖合で、これまでに約3万人を救助してきた。

MSF日本からも近く日本人の医療スタッフを派遣し、アクエリアス号の救助活動に加わる予定だったという。

イタリアなどで強まった「反移民」

しかし、イタリアで2018年6月に発足したコンテ政権で、反移民を掲げる右派政党「同盟」のサルビーニ書記長が内相となった。地中海を渡ってくる人々を「不法移民」とみなして強硬姿勢を取り、アクエリアス号の活動を公然と批判するようになっていた。

アクエリアス号は2018年、2度に渡り船籍を剥奪され、航海できない状況に追い込まれていたという。さらにイタリアの司法当局は11月、「船の廃棄物処理が不適切だった」という容疑で、アクエリアス号を押収し、MSFの銀行口座の一部凍結要請を認める判断を下した。

MSFは「救助活動を妨害するための、根拠のない容疑」として強く反発していた。

MSFは12月7日付の声明で「イタリア政府をはじめ欧州各国政府の協調介入により、援助団体の活動は非合法とみなされ、危機に直面する人びとへの援助活動は妨げられている。移民に関するEUの対外政策、および協調介入は国際法と人道原則を揺るがしている」と欧州各国政府やEUの対応を強く批判した。

アクエリアス号の活動停止で、地中海の救助専用船はすべて活動が止まったという。

リビア沿岸警備隊が漂流者を拿捕

さらに「EU加盟国は、リビア沿岸警備隊に1万4000人を超える人を海上で拿捕させたうえ、リビアへ強制送還し、人びとはさらなる苦境に立たされている」

「これらは、明らかに国際法に違反している。2015年、国連安全保証理事会で欧州は海難救助された人をリビアへは強制送還しないと公約した」としている。

リビアはカダフィ政権の崩壊以降、内戦が続いている。日本の外務省もリビア全土に渡航延期勧告を出しており、首都トリポリの在リビア日本大使館も閉鎖が続いている。

BuzzFeed Newsは9月、アクエリアス号に同乗し、その救助活動と、各国の思惑を報じる記事を出している。