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日本人と外国人は「対等以上な待遇」になるのか 「一緒に最低賃金」なのか

外国人労働者の受け入れを巡り、発言を続ける望月優大さんに聞いた。

2019年4月から、外国人労働者の受け入れに舵を切った日本。これから何が起きるのか。移民問題を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長で、移民問題を巡る新著『ふたつの日本ー『移民国家』の建前と現実』(講談社現代新書)を出版した望月優大さんに聞くインタビューの2回目です。

テーマは人権を巡る日本社会のあり方にも拡がっていきました。

日本は基本的人権を尊重する国のはずだ

ーードイツなど欧州各国は第2次大戦後、外国人労働者を受け入れました。

ヨーロッパは戦場になり、たくさんの若者が亡くなりました。そこからの復興と経済成長で、旧植民地や中東などの若い単身の労働者をたくさん受け入れました。

しかし、1970年代にそれでオイルショックが起き、新規の受け入れを停止しました。とはいえ、すでにその国で暮らし、働いている人たちを強制的に帰国させられるかといえば、それはできないんです。

というのも、欧州各国は人権や民主主義を重視しています。

人権を完全に無視すれば「強制帰国」も可能でしょうが、自由や民主主義、人権を自分たちの価値観の中核に置いている国々が、経済的な都合だけで人の生きる場所だったり働く場所を縦横無尽にコントロールできるかといえば、やはり無理だったんですよ。

その結果、既存の人には残ることを許し、家族の呼び寄せを認めたという経験を、ヨーロッパ諸国はしています。そこから、彼らとともにどう暮らしていくかという問題に直面して、いわゆる「社会統合」に向けた様々な政策を、試行錯誤しながらつくっています。

日本も欧州と同じように、自由民主主義と基本的人権の尊重を信じる国です。それが憲法にも書き込まれています。憲法で人権と自由が保障されていることにより、日本国民の生活も守られている部分があります。

欧州とは異なる基盤に立つ湾岸諸国

ーー一方、欧州と並ぶ外国人労働者受け入れ先であるペルシャ湾岸の産油国は、外国人労働者を厳しく管理し、送還も行っています。

欧州の経験をみると、いま日本で暮らす300万人近い外国人を、景気の悪化等で帰せるというふうに考えるのは、歴史を見ればそれが正しくないことは明らかです。

しかし、今の日本で、人権感覚がどこまで共有できているのか不安になる時があります。

例えば、技能実習生の女性が日本で妊娠し、雇い主から帰国か中絶を迫られるというケースがありました。

思わぬ時に妊娠することは、人生ではあり得ます。だから、こういうことが起きることを前提に、制度を作らなければいけない。日本人ならば産休が取れるわけです。外国人であれ、日本人であれ、その人権を保障する必要があります。

しかし、識者から例えば「シンガポールでは外国人労働者の権利は広く認められていないから、日本もそうしたほうがいいんじゃないか」という意見が出てくることがあります。

(シンガポールでは、外国人労働者は富裕層や専門職とそれ以外に大別され、非熟練労働者には定住を防ぐさまざまな規制があり、国際人権団体は批判している。例えばメイドの女性は年に2回、性感染症と妊娠の検査を受け、妊娠が分かれば帰国を命じられる。)

シンガポールや湾岸諸国と日本では、憲法で保障され、実践されてきた人権意識というものが根本的に違うはずだと、僕は信じています。

しかし、「外国人は、自国民なら享受できる権利を制限されても仕方ない」「自己責任で来ているのだから、こちらの都合が悪くなった時に一定程度制限をかけるような制度にすべきだ」という感覚が、日本国内に拡がっているのではないかと感じることがあります。

合理性だけを考え、人間を鉄とか小麦のような「素材」として見ていいのでしょうか。人権を尊重し、人間をモノとして扱わないということが、日本という国が戦後、選んできた道だと思います。そして、日本人はそこを誇ってきたと思うのです。

日本人と外国人は「同等の給与」か「最底辺に合わせる」のか

ーー政府は1990年代、いわゆる単純労働者を受け入れない理由として、日本人の雇用を奪うことや、労働市場の二階層化が起きることを挙げていました。

すでに、そうなっている部分が、一定の程度で存在すると思います。

例えば労働市場の階層化。「上」と「下」に分かれてしまうという問題です。

特に技能実習制度というのは、その職場に基本的に張り付き、ずっと極めて低い賃金で最長5年間働くといういう制度です。キャリアを積んで工場長になるとか、別の会社に転職するといったことが全く想定されてないわけです。

一方、普通の労働者は違います。

例えば自分を例にとると、大学生の時にアルバイトで時給900円とかで働き、その時は低賃金の労働者でした。しかし、大学を卒業すれば、正規雇用で採用され、賃金が安定していきます。正規雇用の場合、一般的には年功序列で少しずつ賃金が上かることになります。

このルートから、特定の日本人を制度的に排除することは絶対にできなません。「人生は常にやり直せる」「すべての人は同じ権利を持っている」というのが、日本社会の建前ですから。

しかし外国人は、制度的にそこから排除されています。「その前提であなたたちは入国してるんだから、排除されても仕方ないですね」ということになっているわけです。特に技能実習生に対しては。

ーー安倍首相は「外国人労働者は日本人と同等以上の給与で」と言ってます。

「同等」の待遇をどうつくるのかは、極めて難しい課題だと思います。

「同等の賃金」ということと「最低賃金」を混同するケースも、おそらく生まれてくるでしょう。「だれであれ、最低賃金さえ払っておけばいいんだ」ということになるかもしれません。

財界が外国人労働者の導入を求めてきた背景には、人口バランスの問題があります。総人口よりも早いペースで現役世代の人口が減り、働ける人口の割合が少なくなっています。それが短期的には様々な職場で、いわゆる人手不足の状況を生み出しています。

一方、外国人であることによって、学校や病院など、さまざまな社会的なリソースから断絶してしまいがちな現状が日本にはあります。

彼らを受け入れるならば、しっかりと社会と結び付けていくための手段も、合わせて準備していかないといけないわけです。

例えば受け入れる外国人の数にあわせて必要な日本語教師は何人になるのかといった点も、一緒に考えなければなりません。

どれだけの外国人をどういうスピードで受け入れ、どんな社会統合政策を取るのかという議論を、政府や官僚に任せきるのではなく、社会全体で参加していかないといけないと思います。

外国人を社会で受け入れる準備は?

ーー日本語教育の公的な位置づけを求める「日本語教育推進法」の早期成立を求める署名活動が行われました。

子どもと大人と両方に対する教育は重要です。一方で労働者として入ってくる大人や、その家族への公的な支援が極めて乏しいという現状があります。

子どもは一応、義務教育の年齢であれば受け入れてもらえます。とはいえ、それで日本語をしっかり教えてもらえるかといえば、地域や学校によって違いがあります。

大人については自助努力を求める部分が強くあるので、そこはもうちょっと政策的にしっかり対応するということを態度で示したほうがいい。 政策として示し、かつ予算を投入する必要があります。

特に重要なのは、日本語の先生や教育施設といった、人的なリソースとインフラです。オンライン教育のようなものを含め、整えることに政府がコミットしないと、日本語教師になる側も、安心できないでしょう。

日本語教師の多くは非正規雇用です。外国人支援に関することの多くは、非正規雇用やNPOでまかなわれている現実があります。

(続く)