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インドやパキスタンで「第3の性」がパスポートに でも同性愛は違法

インドやパキスタンなど南アジア各国で「第3の性」を認める動きが広がっている。一方で同性愛は違法という状況が続く。

インドやパキスタン、ネパールなど南アジアの国々で、男女の枠を超えた「第3の性」の存在を、政府が法的に認める動きが広がっている。

パスポートなどの性別欄に「M(男性)」「F(女性)」に加えて「T(トランスジェンダー)」「O(その他)」という表記が可能になっているのだ。

日本にもない制度が導入されている南アジアは、果たして「先進的」なのか。

南アジアで「第3の性」を最初に認めたのは、ネパールだ。2007年に最高裁が、男女の枠にとどまらない性自認を認めるよう、政府に求める判決を下した。その後、パスポートなどの性別欄を「男女」の2択から「O(その他)」を含む3択に切り替えてきた。

ネパールの入国カード。性別欄に「Male(男性)」「Female(女性)」「Other(その他)」が並ぶ。


日本のパスポート申請書。性別欄には「男」「女」しかない。

インドでも2014年、最高裁が「第3の性」の存在を認め、政府に差別を禁じ、就業対策などを求める判決を出した。これを受け、パスポートでは「T(トランスジェンダー)」、選挙で投票する時に用いられる有権者カードには「O(その他)」の性別欄が設けられることになった。

さらにイスラム圏のパキスタンでも2017年、パスポートの性別欄に「X」の項目が設けられ、トランスジェンダーの権利保護を求める活動家が初の発給を受けた。バングラデシュ政府も2013年に第3の性を認知し、2018年1月には有権者登録の際に「ヒジュラ」の項目を設けた。これにより、投票する時も立候補する時も「ヒジュラ」を選ぶことができるようになった。

「ヒジュラ」とは南アジアで、主にトランスジェンダーの人々、中でも女装を選ぶ人々に対して使われることが多い呼び方だ。

結婚式の祭礼や、列車の中や街頭などで歌や踊りを披露したりしてお金を受け取り、生計を立てている人が多い。デリーやムンバイなどでは今も、車が交差点で止まると、ヒジュラの人が両手を少しずらして大きな音を鳴らす独特のやり方で手をたたきながら近づき、物乞いをすることが珍しくない。

ヒジュラは伝統的に「グル(師)」を中心とする、家族のような集団をつくってきた。

自らの性自認に悩み、家庭で居場所を失って家出をした若い人が、路上で出会った年上のヒジュラに声を掛けられ、その人をグルとして「名字」をもらって「子」となる。こうしてグルや「子」の仲間と生活をともにして集めたお金の一部を上納し、互いを守ったり、支え合ったりしてきた。その構造の中で、搾取が起きることもあった。

偏見や差別などが原因で、高等教育を受けたり企業や官公庁などに就職したりする機会が限られていたから、こうして生活を維持してきたともいえる。その面でも、就業対策などを求める2014年の最高裁判決は画期的なものと受け止められた。

トランスジェンダーの市長も誕生

インドでは2015年1月、チャティスガル州ライガル市の市長選で、トランスジェンダーのマドゥ・キンナルさんが当選した。

キンナルさんは幼い頃から性自認に疑問を覚え、中学2年生で家を出た。その後はヒジュラとしてサリーを着て、駅や列車の車内などで歌や踊りを披露して生計を立ててきたが、2014年の最高裁判決に勇気づけられて立候補した。インド人民党(BJP)と国民会議派の既成二大政党を嫌う有権者の支持を集め、当選を果たした。

インドでトランスジェンダーの人が選挙で首長に選ばれるのはキンナルさんで3人目だが、以前の2人は、性別やカーストなどで当選枠を割り振るインド独特の複雑な選挙制度の影響で当選が無効となっており、実際に公職の座を占めるのは、これが初めてとなる。

マドゥ・キンナルさんの当選を伝える地元報道

Eunuch Madhu Kinnar wins Raigarh mayoral election in Chhattisgarh | India Today http://t.co/5prBh4oMWi

India Today / Via Twitter

首都の名門、デリー大学も2015年から、入学願書に「第3の性」の欄を設けた。

それなのに同性愛は今も「犯罪」の矛盾

一方、こうした制度が導入されたからといって、南アジア各国でLGBTに対する偏見や差別がほかの地域と比べて減ったという訳ではない。それ以前に、法律上は今も、同性愛が「犯罪」とされている国がいくつもある。

司法の決定により「第3の性」の存在を認めても、政府がそれ以上の多様な性と生のあり方を認める動きは進まない。それが、南アジアで続く矛盾であり、この地のLGBTの人々が置かれた現実だ。

インドは刑法377条で「自然な秩序に逆らった性交」を行った場合は懲役刑に処すると規定している。この条文が存在する限り、LGBTの人々が愛する人と生活をともにしただけで「犯罪」となる可能性がある。パキスタンやバングラデシュにも同様の規定がある。

インドでこの法律がつくられたのは英国による植民統治下だった1860年代で、LGBTQの当事者だけでなく幅広い人権活動家らが「当時のキリスト教的価値観を、英国人がインドに無理矢理持ち込んだものにすぎない」として、撤廃を求めてきた。

デリー高等裁判所は2009年、条文を違憲とする判決を出したが、これを不服とする宗教保守派が上告。最高裁は2013年、この高裁判決を棄却した。

だが2018年に入り、最高裁が判決を見直す姿勢を示したことから、近く条文が撤廃される可能性が出ている。とはいえ、宗教保守派を支持基盤とする与党・インド人民党(BJP)の有力政治家が「条文の維持は必要」と発言するなど、まだ予断を許さない状況だ。

LGBTの人々に対する攻撃も後を絶たない。

バングラデシュでは2015年以降、イスラム過激派がLGBT雑誌の編集者ら活動家を殺害する事件が相次いだ。

2017年5月には、LGBTIの交流イベントにバングラデシュ警察の特殊部隊が踏み込み、同性愛行為などの容疑で参加者を拘束。国際人権団体アムテスティ・インターナショナルなどが警察を強く批判する声明を出した。

司法当局が出す人権重視のメッセージと、それが社会で適用されない現実との解離をどう埋めるか。それが、南アジア各国の共通の課題といえる。各国でさまざまな当事者団体や人権団体が、状況の改善に向けて根強い活動を続けている。


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