インドの禁じられた島・北センチネルに上陸した米国人、文明を拒む先住民に殺害される

    ベンガル湾に浮かぶ島で、石器時代の暮らしを続ける人々に近づいた米国人が殺害された。

    インド東部アンダマン・ニコバル諸島で、外部からの接触を拒絶する先住民族が暮らす北センチネル島に上陸した米国人の男性(27)が、殺害された。先住民族に殺されたと見られる。インドの地元紙などが伝えた。

    先住民族を保護するため、北センチネル島は上陸が禁じられている。

    地元紙アンダマン・シーカなどによると、男性は11月中旬、別の島の漁師を雇って、北センチネル島に近づいたという。

    北センチネル島には狩猟採集の生活様式を続ける先住民族センチネル人が暮らしている。だが、その人口や暮らしぶりは、はっきりと分かっていない。

    世界で最も孤立した民族

    センチネル人は外部からの接触を強く拒絶しており、世界でほとんど最後とみられる、現代文明と接触しない民族だ。

    近づくと弓矢などで攻撃してくるため、かつて一帯を植民地として支配した英国や現在のインド政府も、島に上陸できない。2011年の国勢調査で、センチネル人の人口は「15人」とされているが、これも推測に過ぎない。

    インド紙インディアン・エクスプレスによると、2004年のインド洋津波で一帯が大きな被害を受けた際、インド政府は実態調査と救援のためヘリコプターを飛ばしたが、弓矢が飛んできたため、それ以上の接近を断念したという。

    2006年には、島の近くに停泊した漁船で寝ていた漁師2人が殺害された。

    周辺の島とは言語が異なるため、センチネル人とコミュニケーションを取る方法もないという。

    政府は上陸を禁止

    地元行政当局は2015年、島の先住民とこれ以上接触せず、文化や生活に干渉しないことを表明。刑法などインドの国内法を先住民に適用することも断念した。

    インド海軍は島の周囲3海里(約5.5キロ)を航行禁止とし、観光客らが島に近づかないようにしている。

    一方、インターネットなどを通じて情報が広まっているため、不用意に上陸する人が出る事態も懸念されていた。

    アンダマン・シーカによると、米国人の男性は11月14日、漁師5人を雇って島に上陸した。贈り物としてはさみや安全ピン、サッカーボールなどを持っていったという。

    同紙は男性が「キリスト教の布教を目的としていた」としているが、地元警察幹部は別のインドメディアに「冒険に向かった」としており、上陸の理由ははっきりしない。


    11月16日夜、沖合で待機していた漁船に泳いで戻り、「島に残る」と伝え、13ページの日誌を残して再び島に向かったという。日誌には「何人かは親切で、何人かは非常に攻撃的だった」「私は丁寧に接しているのに、なぜ彼らはこうも怒っていて攻撃的なのか理解できない」と記されていたという。

    遺体の回収も困難

    17日朝、先住民らが男性の遺体を浜に埋めているのを漁師らが目撃し、殺害されたことが分かった。警察も近づけないため、遺体の回収が難しい状況が続いているという。

    人口12億人を超え、ヒマラヤ山脈から熱帯の島まで広大な国土を持つインドには言語や信仰が異なる数多くの先住民族が暮らしている。

    インド政府は先住民族を保護することを憲法でうたっており、公務員採用や大学入試などでの優先政策を採っている。705の民族・部族の計約1億人(2011年国勢調査)が、優先の対象となっている。