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MX「ニュース女子」問題の1年 沖縄デマはどのように作られ、否定されたか

BPOは「重大な放送倫理違反」と厳しく批判した。

放送倫理・番組向上委員会(以下、BPO)放送倫理検証委員会は12月14日、東京MX(以下、MX)の番組「ニュース女子」について、「重大な放送倫理違反」と厳しく批判する意見書を出した。

BuzzFeed Newsは番組放送当初からこの問題を追っていた。問題の放送から、「重大な放送倫理違反」と判断されるまでの1年をまとめた。

「ニュース女子」はバラエティ色の強い報道番組。MXが放送しているが、制作は、化粧品大手DHCグループ傘下「DHCシアター(現・DHCテレビジョン)」。スポンサーが制作費などを負担し、制作会社が番組を作って、放送局は納品された完成品(完パケ)を放送するいわゆる“持ち込み番組”だ。

1.問題の「沖縄緊急調査」を放送(1月2日

問題の1月2日放送回は「沖縄緊急調査 マスコミが報道しない真実」「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」などと題し、沖縄・高江の米軍ヘリパッドへの反対運動を報じた。

番組内で、米軍ヘリパッド建設に反対する人たちを「テロリスト」と表現し、「日当をもらっている」「組織に雇用されている」などと伝えた。

また、日当については市民団体「のりこえねっと」が払っていると指摘した。

2.「のりこえネット」が反論(1月5日)

名指しで批判されたのりこえネットは抗議声明を出した。

「ニュース女子」は、沖縄・高江のヘリパッド建設問題について、反対運動の參加者の多くに対して金銭による報酬が支払われているという虚偽報道を行い、さらに、「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉に対して人種差別にもとづく憎悪扇動表現をも行いました。

のりこえネットは現地の状況を報じてもらうために県外から沖縄に向かう人に「市民特派員手当」を支払っている。これを、まるで反対運動に参加している人の多くがもらっているかのように曲解している、と指摘した。

3. BuzzFeed Newsが番組の問題点を報じる(1月7日

BuzzFeed Newsはニュース女子が報じた内容を検証。取材を担当した井上氏は現地から40キロ離れた場所から「現場取材」をしていることや、「日当」について十分な根拠がないことなどを指摘した。

MXに上記の点などについて見解を問うと、以下の回答があった。

「この度、貴殿より頂いております1月2日放送の『ニュース女子』についてのご質問ですが、状況確認及びご回答の可否も含めて、結論が出ておりません事をお伝えいたします。お問い合わせありがとうございました」

4.「議論の一環として放送」初めての見解を示す(1月16日

「ニュース女子」は1月16日、番組内で初めて見解を示した。番組終了間際、以下のテロップがナレーションとともに約15秒流れた。

5.DHC側に見解を聞く(1月18日

先述のように番組制作はDHCグループ傘下「DHCシアター」が担っている。BuzzFeed Newsは一連の問題への見解をDHCにも問い合わせていた。

回答は「それにつきましては、当社としては回答しかねる」だった。回答できない理由を改めて問うと、広報担当者からは「できないのではなく、しないということです」と返答があった。

6.DHC側が初の見解を示す(1月20日

批判が続く中、制作を担当する「DHCシアター」が1月20日、初めて見解を示した。

批判・疑問にそれぞれ見解を示した上で、番組に対して「デマ」「ヘイト」などと批判が集まった点には、こう反論した。

これら言論活動を言論の場ではなく一方的に「デマ」「ヘイト」と断定することは、メディアの言論活動を封殺する、ある種の言論弾圧であると考えます。DHCシアターでは今後もこうした誹謗中傷に屈すること無く、日本の自由な言論空間を守るため、良質な番組を製作して参ります。

7.「のりこえねっと」などがBPOに人権侵害申し立て(1月27日

番組内で「日当を払っている」と名指しされた団体「のりこえねっと」などが1月27日、BPOに人権侵害を申し立て、会見を開いた。

共同代表の辛淑玉さんは「あのニュース女子は大変むごい番組です。彼らは笑いながら私を名指しし、笑いながら、沖縄の人たちを侮辱しました」などと訴えた。

8.BPO審議入りが決定(2月10日)

から提出された報告書をもとに討議した結果、放送倫理検証委員会は2月10日、「ニュース女子」について審議入りを決定した。

9.MXがあらためて見解を示す(2月27日)

BPO審議入りを受けて、MXがあらためて見解を公表した。

そこでは「番組内で使用した映像・画像の出典根拠は明確でした」「番組内で伝えた事象は、番組スタッフによる取材、各新聞社等による記事等の合理的根拠に基づく説明であったと判断しております」などと説明していた。

10.「ニュース女子」が検証動画を公開(3月13日

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「ニュース女子」は3月13日、自らの放送内容を検証する番組を公開。BPO審議入りしたことを受けて、MXでは放送されず、DHCシアターが独自に制作し、YouTube上で公開したものだ。

批判されていた事項に対して、反論する姿勢は崩さず、「基地反対派にはいろいろな主張がある人がいる」「ニュース女子が報じた内容はネットを通じて知っていたものだった。放送法がおかしい」などのトークが繰り広げられた。

11.MXが基地問題をテーマにした番組を放送(9月30日)

MXは9月30日、基地問題をテーマにした報道特別番組「沖縄からのメッセージ~基地・ウチナンチュの想い~」を放送した。

番組では、基地問題の背景には、沖縄戦や米軍統治などの歴史があると指摘。基地存続について賛成派と反対派双方に取材をし、問題解決の困難さなどをリポートした。

しかし、批判されている「ニュース女子」の内容を検証するものではなかった。

12.BPOが「重大な放送倫理違反があった」と判断(12月14日)

そして12月14日、放送倫理検証委員会は「重大な放送倫理違反があった」との意見書を公表した。指摘したのは以下の6点だ。

  1. 抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった
  2. 「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを確認しなかった
  3. 「日当」という表現の裏付けを確認しなかった
  4. 「基地の外の」とのスーパーを放置した
  5. 侮蔑的表現のチェックを怠った
  6. 完パケでの考査を行わなかった


検証委員会は会見内で、検証のために2回現地での調査をしたと述べた。その上でニュース女子で報じられた内容を次々と否定した。完全論破と言っていい。

「本件放送で示した茶封筒のカラーコピーや人権団体のチラシは、基地建設反対派は誰かの出す日当をもらって運動しているという疑惑を裏付けるものとは言いがたい」

「現地の消防本部の資料などによれば、救急車の現場到着が大幅に遅れたケース自体が見当たらない。反対運動による渋滞の列に救急車がいたという情報が仮にあっても、それは反対派が実力で救急車を止めたという本件放送の伝えた事実とは趣旨をまったく異にしており、到底その裏付けにならないことは明らか」

「のりこえねっと」は検証にも不満を表明

14日の発表を受け、「のりこえねっと」は声明を発表した。MXとDHCシアターだけでなく、検証委員会にも疑問と怒りを表明するものだった

「今後、東京MXと制作会社との関係が、改善され放送倫理に基づいて今回の報告で改善されるか、多いに疑問が残ります。今回、放送倫理委員会が、制作意図に言及していない事は、非常に残念と共に怒りを感じざるをえません」

放送倫理検証委員会 決定 第27号 「ニュース女子」沖縄基地問題の特集に関する意見に関して

会見中、沖縄の地元紙「琉球新報」の記者からも今後の対応を懸念する質問が出た。琉球新報は放送以降、同番組を「沖縄ヘイト」と批判をしてきた。

「(検証委員会が)意見書を提出しても放置されるのではないかが懸念される。チェックする気もないような局の最大の問題点はどこなのか」

川端委員長が答えた。

「委員会はMXに対し、考査の体制を7月1日まで再構築するよう要請している。また、考査の基準も再構築したと聞いている。内容についてはまだ知らされていないので見守りたい」

MX「全社を挙げて再発防止に努めてまいります」

同委員会が「重大な放送倫理違反」と判断するのは、フジテレビ「ほこ×たて」、NHK総合「クローズアップ現代」に続き3件目で、極めて重い判断が下された。

これを受け、MXは以下のコメントを発表している。

本日、BPO放送倫理検証委員会より、当社が本年1月2日に放送した情報バラエティ番組「ニュース女子」沖縄基地問題の特集について、審議の結果、重大な放送倫理違反があったとの意見を受けました。

当社は、本件に関し、審議が開始されて以降、社内の考査体制の見直しを含め、改善に着手しております。改めて、今回の意見を真摯に受け止め、全社を挙げて再発防止に努めてまいります。

2月27日に発表した「番組内で使用した映像・画像の出典根拠は明確でした」「番組内で伝えた事象は、番組スタッフによる取材、各新聞社等による記事等の合理的根拠に基づく説明であったと判断しております」という見解とは全く異なる内容だ。

そもそも、MXは持ち込み番組の完パケの内容を放送前に確認していなかったということも、今回の調査で明らかになった。

「砦は崩された」 テレビ局の責任を改めて指摘

検証委員会は意見書の終わりで、放送局の考査は「砦」の役割があると述べた上で、インターネットとテレビの関係性について触れている。

インターネットは、圧倒的な情報量と速度をもつメディアである。しかしその一方で、インターネット空間では、事実とは異なる情報や根拠のあいまいな情報も瞬時に拡散され、事実に基づかない論評と侮蔑的表現とが結びつき誹謗中傷へと堕していくこともある。

そして「本件放送において、砦は崩された」と厳しく指摘した。

これに対して、放送では、番組制作にあたり、取材による裏付けを欠かさないこと、節度ある表現を保つことなどが求められているうえ、放送倫理を守っているかどうかを放送局自身がチェックする仕組みもある。

その仕組みの要といえる考査が機能しなければ、民主主義社会における放送の占める位置を脅かすことにつながる。本件放送において、砦は崩れた。修復を急がなければならない。

一方、朝日新聞によると、DHCシアターは14日、「1月に出した見解と相違ございません」と回答。「中傷に屈しない」との見解を変えなかった。

ネット上に動画は残っている

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com

問題の放送を含む、「ニュース女子」の動画はYouTube上にアップされたままである。検証委員会はネット上の動画については「対象外」としている。

管理するDHCはなにかしらの対応を取るのか。BuzzFeed Newsは引き続き、取材を進める。

BuzzFeed JapanNews