議論が巡っている、海賊版サイトへのブロッキングの是非。
【関連記事:政府の事実上要請「海賊版サイトブロッキング」 なにが問題なのか】
今回、政府が名指しした3サイトの中には、漫画海賊版「漫画村」(事実上閉鎖中)がある。
漫画村が閉鎖する直前の月間アクセス数は、約1億6000回だったとされている。
漫画家らで結成する日本漫画家協会は2月、「創作の努力に加わっていない海賊版サイトなどが利益をむさぼっている」との声明を出していた。
「出版社は対策をしていなかった」と批判の声も上がる中、BuzzFeed Newsは国内大手出版社のひとつ、集英社にこれまでの対策などを聞いた。
今回は、講談社にこれまでの対策や、これからの方針を聞く。
「ブロッキングが唯一の手段ではない」
同社広報室室長の乾智之さんが取材に答えた。
――政府のブロッキング事実上の要請、率直な感想は。
サイトブロッキングについては、さまざまな危惧や懸念、ご批判があるかと思う。10年以上、海賊版に悩まされ、追い詰められてきた国内の出版社の立場としては、いろいろな手段を視野に入れていかなければならない状況である。
その選択肢のひとつとしてブロッキングは排除できない。ブロッキングは手段のひとつとして存在する。しかし、ブロッキングが唯一の手段、決定的な手段とは考えていない。刑事告訴や民事での提訴、海賊版の収入源である広告問題の解決、啓蒙活動などもその中の手段だ。
ーーこれまで海賊版に対し、どのような対策をしてきたか。
「出版社はこれまで対策をしていない」と言われるが、そんなことはない。漫画村に関しては刑事告訴の手続きは完了している。時期や告訴先等の詳細については明かせない。
漫画村とは別の海賊版案件では海外の司法と連携した刑事手続を進めたこともある。漫画村の場合は、海外での材料が整わず刑事への動きにもっていけていない。
漫画村とユーザーをつなぐ階層には、配信代行と言われるクラウドフレア社、中間層のサーバー会社、防弾ホスティング、プロバイダーなどがある。漫画村のサイトそのものに限らず、サーバーやプロバイダーなどにも開示請求、警告書を出すなどの対策をしてきた。
しかし、現実ではクラウドフレアをはじめ警告等に関しては無視されてきた。別の海賊版案件では、国内の裁判所にもサイトの発信者情報開示請求やサイト閉鎖の仮処分申請への手続き等をしているが、それらの手続きが完了するまでにサイトがなくなったり、URLが変わったりなどで実効性はない。
ノーティスアンドテイクダウン、いわゆる削除要請に関しては、講談社はこの1年で17万件以上出している。
ーー漫画村の収入源とされているのは広告収入。広告側への対策は。
広告の部分はその収入源を止められなかった。我々も1年半前や2年前にこのように複雑に海賊版の広告のしくみが動いていることは知らなかった。能力不足、勉強不足という批判は受け止める。
これから広告側のプレイヤーである広告代理店や広告主の問題を追及する。2つの手段として、1つは広告主へのプレッシャー。また代理店には刑事、民事での動きに加えてさまざまな警告をしていくことが考えられる。
削除要請と関連して違法コンテンツのパトロールに関しては大きな費用や人手もかかるが、外部の企業と連携したりしている。
「表現の自由」とブロッキング
ーーブロッキングは「表現の自由」を侵害するともされている。出版界、言論界として自殺行為ではないか。
当然、批判はあると思う。出版もメディアであり、「表現の自由」を重んじなければいけない。表現の自由とブロッキングが相反しているということは認識している。もちろん通信の秘密についても出版社として重く認識すべきことだ。
ただ出版社として生きていく中で、業界としては現時点で生き残りを懸けた最終局面に近いと感じている。そこで出てきたサイトブロッキング。この方策に全面的に依存して頼ろうということは、これまでもないし、今もない。この先もそう。
出版社の厳しい現実を理解していただくことは難しいかもしれない。それらの課題を乗り越えてこの先の権利侵害対策が、なんとか進んでくれるように願っている。
結果として、現在、漫画村も事実上閉鎖されており、ブロッキングはまだ実行されていない(編注・漫画村は4月から閲覧できなくなった。それが運営者の自主的な閉鎖によるものかどうかは不明のままだ)。
その間にやれることはある。第二、第三の法整備含め、司法では刑事告訴や民事での提訴だけでなく、発信者開示請求であったり、サイト閉鎖の仮処分申請であったり、これまで起こしてきたアクションに対して、司法の側ももっと実効性のある対処をお願いしたい。
ーー具体的にはどのような法整備を望むか。
今後行われていくだろう法整備にあたり、ポイントは以下の3つあると考える。
- サイトブロッキングの法整備
- リーチサイトを規制できる法整備
- DL違法化を漫画(静止)画像にも適用する法整備
ブロッキングはすでに憲法論争になっている。これがスムーズに進むかは不透明だ。
私見だが、たとえば著作権法113条に基づいてリーチサイトを規制する方が、可能性は高いのではないか。113条のいわゆる「みなし侵害」の考え方に関連付けていけば、いくらリンクを貼っただけ、誘導しただけとはいえ、そもそも権利を侵害する目的で貼ったものは、アウトにできるのではないか。
またダウンロード違法化の漫画への適用についても同法30条や119条の改正を当局には視野に入れていただき、一刻も早く進めてもらいたい。
コミックのサブスク、なぜ進まない?
ーー海賊版の被害規模、どのようなものか。
CODA(コンテンツ海外流通促進機構)が今回、漫画村を含めた海賊版3サイトの被害について4000億円以上という数字を出している。
これについてはまず、漫画村がなくなったら3000億円が戻るとは当然思っていない。売上と被害規模の試算については別の話と考えている。どれだけ盗まれたかということを、ひとつの物差しで示すために、算出する数式はいくつかあると思う。
ーー漫画村は、なぜここまで成長したと考えるか。
主たるユーザー層のひとつである子どもたちは決済の手段を持っていない。出版界として電子書籍のサービスやマーケットを整備してきたつもりではあった。
しかし、子どもにとって使いやすかったというと、決済などの面で整っていなかったかもしれない。
その中で無料で「進撃の巨人」が読めるとなれば、子どもが当然そっちを読むことは考えられる。倫理観、モラル以前に利便性の問題があると思う。国内の電子書籍市場は本格化してせいぜい5年の世界。まだまだ未整備なところはある。大きな課題である。
ーー出版社が手を組んだサブスクリプション型ビジネスは進まないのか。
出版社が横断したコミックのサイトはない。講談社としてはやりたいという幹部もいるが、現時点で出版社の足並みが揃っていない。各社100%足並み揃わなくてもやらないといけないのかもしれない。
ーーコミック界を支える巨大版元のひとつとして、コミック産業の生態系を維持し、或いはより発展させていくために、どのような構造改善を目指すのか。
これまでのように原稿を持ち込んで、編集者がみて、見込みのある作品を連載させてみたり、賞に応募させたりといったことから、もっと間口を広げないといけない。新人の発掘をはじめ、積極的に新しい才能を見出していく努力をこれまでの10倍、20倍しないといけない。
出版社や編集者の介在が不要になるコンテンツも出てくるかと思う。これまでやってきた編集の仕事だけではなくて、もっと違った手助けなりをやらないと、コミック産業の生態系は維持できない。目配りを何段にも拡大していかないと市場を維持することはできない。
「漫画村の運営者は立件できた」大手出版社幹部が証言
ほかの大手出版社幹部は、BuzzFeed Newsにこう話す。
「自分たち(出版社)がいつ検閲される側に置かれるかもわからない。ブロッキングに諸手を挙げて賛成することはあり得ないですよ。100歩譲って海賊版を絶対に止められるのであればいいが、そうではない。サイトブロッキングの話が1人歩きしているのは困っています。東京大学の宍戸常寿教授や京都大の曽我部真裕教授が、ブロッキングを批判しておられるが、内容は正論だと思っています」
「漫画村」については、福岡県警などが著作権法違反容疑で捜査に着手したと毎日新聞などが報じた。
しかし、この出版社幹部はこう証言する。
「刑事告訴は漫画村に限らずしている。警視庁の時もあれば、それ以外の各道府県警のときもある」
「警察関係者は昨年秋から冬の段階で、漫画村を年末年始には、立件すると言っていた。しかし、ブロッキングの話が出始めた2〜3月頃から、連絡が途絶えた」という。
幹部はそのうえで、「これは私の推測ですが」としたうえで、こう付け加えた。
「経済成長戦略のひとつは、漫画などのコンテンツを活かしたクールジャパンです。だから今回、政治側が、ブロッキングを政治的なパフォーマンスとして利用している部分もあるのではないでしょうか」