私が「保守速報」を支援する理由 ブロガー市議の主張を聞く

    サイトの広告が消滅した後、福岡県行橋市の市議が支援の声を上げ、物販が始まった。

    まとめサイト「保守速報」は裁判で名誉毀損や差別などが認定され、収入源の広告はサイトから消えた。「存続危機」と言われる中、ある市議から「保守速報を支援する」との声が上がった。

    なぜ、支援するのか。名誉毀損や差別を問題とは思っていないのか。BuzzFeed Newsは本人に話を聞いた。

    保守速報をめぐる経緯

    まず、保守速報に何が起きたかを整理しよう。

    保守速報は「政治、東亜ニュースを中心にまとめています」とTwitterのアカウントで説明している、いわゆる「まとめサイト」の中でも影響力が大きいことで知られ、フォロワーも6万人近い。

    一方で、差別的な投稿や誤情報の配信も多く、たびたび問題視されてきた。

    そんな中、在日朝鮮人のフリーライター李信恵(リ・シネ)さんが、ネット上の差別的な投稿を集めて編集した保守速報の記事で名誉を傷つけられたと、保守速報を運営する男性を相手に、2200万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。

    2017年11月16日、大阪地裁は、名誉毀損や差別あったと認定し、運営者の男性に200万円の支払いを命じた。運営者側は控訴したが、大阪高裁は2018年6月28日、地裁判決を支持した。

    高裁は「人種差別、女性差別に当たる内容を含む記事が多数存在している。不法行為は複合差別に根差すもので非常に悪質」と断じ、「記事掲載が執拗に繰り返され、多大な精神的苦痛を被ったと認められる」と指摘した。

    判決と共に、サイトに掲載されていた広告の出稿主へ通報する「広告剥がし」の動きも広まった。広告は無くなり、保守速報は収入源を失った。

    保守速報の支援に市議が声を上げる

    福岡県行橋市の小坪慎也市議が、保守速報を支援すると自身のブログで表明したのは、地裁の賠償命令が出たとき。「保守速報に200万円の賠償命令〜管理人、控訴を検討【言論の自由を守る人はシェア】」と題した記事で、こう書いた。

    まずもって「保守速報」を支援する立場であることを、ここに表明させて頂きます。

    それは”差別を応援する”意味ではない。また、冒頭で述べさせて頂きますが【差別とは何か】を、特定の勢力のみが決定できる立場こそがおかしい。

    なぜ、裁判で差別を認定された保守速報を支援するのか。

    取材を申し込むと、小坪議員から条件が出た。小坪議員が取材の模様をビデオで撮影し、記事よりも前に公開することや、取材者の名前を公開することなどだ。

    小坪議員はその理由として、過去に捏造被害にあったというメディアへの不信感と、BuzzFeedがこれまで保守速報に対して批判的な記事を公開していることなどをあげた。議員としての自衛、という趣旨だった。

    BuzzFeed Newsはこれらの条件を受け入れて取材をした。小坪議員は記事の事前確認は求めなかった。取材の動画はこちらで小坪議員が公開しており、取材の経緯は小坪議員がブログにも公開している。

    以下が取材でのやりとりを元にした記事だ。

    なぜ、保守速報を支援するのか

    小坪議員は行橋市の庁舎で取材に応じた。支援する理由を聞くと、こう答えた。

    「第一義として、『言論の自由』を政治家は尊重するべきです。言論の新たなツールとしてネットというプラットフォームがあり、それを守ることはすべての政治家の義務であると考えます」

    「特に主張しておきたい点として、これは単に保守速報のみを対象したものではなく、また保守的な思想だからという理由ではありません。思想に関わらず、言論のプラットフォームは守られるべきです」

    小坪議員は保守速報が立ち上がった頃から読んでおり、管理人とも「回数や頻度は言えないが、会ったことはある」という。

    小坪議員は「保守」を自認し、ブログで積極的に情報発信をしている。保守速報がその内容を好意的に紹介し、アクセスが急増したという。

    「苦しんでいるのだから義理人情で動くが当然だという個人的な理由もあります。しかし、第一にあるのは『言論空間を守るため』です」

    判決をどう考えるのか

    大阪地裁の判決によると、裁判で争われた保守速報の記事は、運営者の男性が、2ちゃんねるに投稿されていた李さんに関するコメントを引用して作成していた。

    その中には、李さんを「まじこいつゴミ」「ボケ」「寄生虫」「ゴキブリ」などと評する言葉が含まれていた。

    保守速報は裁判で、これらを「社会通念上、許される」と主張していた。

    「日本が嫌いなら出ていけ」「自分の国に帰りましょう」「違法移民」「居座っている」などの言葉もあった。

    これについても、保守速報は「帰国の提案をしているだけであり差別には当たらない」と主張していた。

    裁判はこれらの保守速報の主張をいずれも否定し、保守速報の記事は「社会通念上許される限度を超えた侮辱にあたる」と認定。さらに「日本から叩き出せ」などの記述も人種差別にあたると判断。容姿を揶揄した点などを含め、「名誉感情や女性としての尊厳を害した程度は甚だしく、複合差別だ」としている。

    このような判決を受けているサイトを支援することに、迷いはないのか。小坪議員は以下のように答えた。

    「まず一人の政治家として、司法判断は当然、重視します。ただ、現状はあくまで一審二審であって上告中であり、最終的な判決は確定していません」

    「最高裁で判決がひっくり返ることは往々にしてあります。そこで『問題なかった』となった場合、そのとき報道はBuzzFeedさん含め、どうするのだろうかと思っています。訴訟が継続している以上、現時点で判決について言及するのは、無責任だろうと考えます」

    「ゴミ」「ボケ」「ゴキブリ」などの言葉は許されるのか

    判決について言及しないとしても、保守速報が記事中で用いた「ゴミ」「ボケ」「ゴキブリ」などの罵倒や「日本から叩き出せ」などの人種差別的な言葉は許されるのだろうか。小坪議員に重ねて聞いた。

    「そのコメントは、保守速報の管理人が書いたわけではない。コメントを紹介しただけで『ヘイト』となると、寿司屋が包丁を持っていて、それを誰かが奪い、それで人が刺されたら寿司屋の責任になるという論法も成り立つと思います」

    判決では、保守速報の各記事は、運営者が一定の意図に基づいて新たに作成したものであり、引用元の2ちゃんねるのスレッドなどからは独立した表現行為であると認定された。

    つまり、表題(見出し)を作成し、その見出しのもとに一部のコメントを選択し、並び替え、表記文字を拡大、色付けをするなど加工、編集すれば、それは一つの新たな記事であり、責任は、これをまとめた側にあるとされた。

    「ネット上の発言をまとめただけ」という保守速報側の主張は、これまでの判決では否定されている。

    その点を指摘すると、小坪議員はこう答えた。

    「そこが、私が最高裁の判断を待ちたい最大の理由です。まとめサイトの記事を著作物として認めるのかと」

    「これは保守速報だけではなく、ほかのまとめサイトのあり方にも影響すると思っています。正直、ヘイト云々の部分は、あまり見てないです。著作物についての表現行為は、もっと大きなフィールドで議論されるべきだと思います」

    保守速報をどう支援していくのか

    小坪議員が提唱するのは、保守速報支援で提唱するのが、広告収入に頼るのではなく、ECサイトを作ることだ。

    「保守系の著名人のファングッズなどを取り扱うECサイトを作ろうと思っています。議員としてはできないので、民間の法人としてやろうと。保守速報だけを対象にしたものだけではなく、PV(ページビュー)に依存したアフェリエイトはいろいろな形態あるだろうと考えていて、昔から考えていた企画なんです。将来的には講師などの派遣サービスも取り扱いなと思っています」

    9月20日、保守速報で「しおり販売開始のお知らせ」との告知があった。

    運営者の「まさかアフィリエイトが剥がされるとは想像もしていなかったのですが。応募されたデザイナーさん、企画、販売サイト制作をして頂いた小坪市議及びスタッフの方々、読者様のおかげで無事、販売サイトを開設することができました。この場を借りてお礼させて頂きます」とのコメントが添えられた。

    「保守基金」というECサイトが立ち上がり、旭日模様の「保守速報しおり(A)旭日桜」(1,000円)や国史研究家の小名木善行氏の講演依頼が30万円で販売されている。

    保守速報とライセンス契約を結び、ここで得た収入は、ライセンス料または販売奨励金というかたちで保守速報に渡されるという。

    売上見込みについては、「初めての試みだからまったく予想がつかない」と小坪議員は語る。

    保守とは、保守速報とは何か

    小坪議員は保守政治家を自認し、保守速報はサイト名に掲げている。「保守」とは一体なんなのか。

    取材で質問したところ、小坪議員は「国家観」と述べた上で、今のネット世論については本質的な意味での保守ではなく、「(ポリコレを含むリベラルな社会観による)『抑圧』に対する反動ではないか」と指摘した。

    また、保守速報については「サイト名に保守が冠されているのみであり、私の認識としてはコメント欄も含め言論プラットフォームの一つ」と述べた。

    一方、保守速報への支援を訴えたブログ記事「【非常事態宣言】保守速報など、まとめサイト閉鎖の危機【支える人はシェア】」では、次のように書いている。

    新潟県知事選において、また名護市長選において絶大な破壊力を発揮したまとめサイト群であるが、機能としては空母艦隊に等しい位置付けで認識している。いまは、ミッドウェーで正規空母が、すでに被弾してしまった状況と言っていい。最大手サイトが収益ゼロ状態となっているのだ。

    つまり、新潟県知事選と名護市長選で、共に自民が支援する候補が勝つことに貢献したサイトとしての保守速報の意義を強調している。

    小坪議員は「言論プラットフォーム」と評しているが、それは「客観的・中立なプラットフォーム」ではなく、自民に有利、もしくは反自民に不利な言論の場と認識をしているのは間違いない。

    差別的な言動への対応は広がっている

    差別的な言動へ厳しく対応する動きは、行政でも始まっている。

    大阪市のヘイトスピーチ審査会は10月5日、市の「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」に基づき、まとめサイト2件が在日韓国・朝鮮人へのヘイトスピーチに当たると認定した(サイト名は非公表)。

    吉村洋文市長は、インターネットのプロバイダーに今後、削除を要請する考えを示した。市によれば、まとめサイトをヘイトスピーチと認定するのは初めて。

    大阪市の対処条例は2016年7月に施行された。2017年3月、ネット上で公開されていたデモや街宣活動を撮影した動画4件を、ヘイトスピーチにあたると認定した。すでに削除されていた1件を除く3件は、大阪市からの要請を受け、動画投稿サイト側が削除した。

    世界のネットの流れ

    保守速報に限らず、ネット上でもYouTubeやTwitter、Facebookでも差別的な発言が多いアカウントの閉鎖が広がる。

    「ゴミ」「ゴキブリ」「日本から出て行け」などの言葉は、裁判所も指摘した通り、差別的で人を傷つける。保守派であれ、誰であれ、問題視される言動だ。

    「引用しただけ」という主張も、それらの差別的で誰かを攻撃する言葉を意図的に収集し、目立たせ、一つの記事にまとめて拡散させれば、裁判所がたんなる引用に止まらない表現行為と認定するのも自然と思われる。少なくとも、倫理的に責任を問われるのは、当然の展開だ。

    小坪議員の言う「言論のプラットフォーム」として成立するためには、差別的な心情を煽る表現が使用されることには、抑制的であるべきではないだろうか。それが世界のネットの流れとも一致する。

    保守速報支援に関して、小坪議員の呼びかけに賛同する人たちもいるが、どこまで広がるかは、まだわからない。


    記事中の小坪議員の発言は、動画内での発言と、語順や語尾などが一部異なっていますが、文章として読みやすくするために修正する範囲に留めており、発言の主旨は変えていません。