• borderlessjp badge

言葉が不慣れな妊婦でも、安心して出産できるように。ある病院の取り組み

妊婦の10人に1人が外国籍で、うち3割がベトナム人という大和市立病院。ベトナム人妊婦に対する両親学級が始まりました。増える外国人に対し病院は「受け皿になりたい」

妊婦の10人に1人が外国籍、うち3割がベトナム人ーー。

多くの患者が外国籍という神奈川県の病院で今、新たな取り組みが行われている。

横浜市に隣接する大和市の大和市立病院では、やさしい日本語とベトナム語で行う「ベトナム人妊婦教室」を実施している。

言葉の問題だけでなく、妊娠中の健診回数が少ない国もあることから日本では「未受診妊婦」となってしまうなど、文化の違いや情報不足から来る問題を妊婦教室で解消する試みだ。

様々な理由で日本に居住し、バックグラウンドも異なる外国人に共通するのは、外国で出産する不安だ。一つ一つ、妊娠初期から分娩まで説明することで不安要素を取り除き、母国語で理解を深めることに妊婦教室が役立っている。

日々、日本人だけでなく多様な国籍の妊婦を診察する助産師の藤井律子さんはこう語る。

「診察室での言語の壁があるので、通訳がいる日に来院してもらうことが多いです。それよりも出身国と日本での、妊娠・出産の文化の違いが大きいです」

同院では週に2回ずつ、ベトナム語とスペイン語の通訳がおり、必要とする患者の診察などで通訳をしている。言語の問題は、通訳がいる特定の曜日に診察に来てもらうことでも解消できるが、文化やしきたりの違いまではなかなか解決できない。

外国籍の妊婦は多様な国籍だが、ベトナム人妊婦は一定数いることから、日本では病院や保健所で開催されている「両親学級」をベトナム人向けに昨年から開始した。ベトナム人参加者からの反応も良かったために継続実施しており、今年5月中旬に3回目を実施した。

健診、分娩予約、体重管理…多くの違い

取り組みは、同県に住む外国人の支援などを行う「かながわ国際交流財団」や大和市、大和市国際化協会などが連携して実施している。

国や地域によって類似点や相違点はあるものの、かながわ国際交流財団や同院によると、頻繁に外国籍の妊婦が驚くのは以下のような点という。

・海外では妊娠中の健診が少ない国が多いが、日本では妊婦健診が14回ある。よって妊婦もある程度お腹が大きくなってから初めて健診に行ったり、14回全ての健診に行かなかったりする。

・日本のように早期から分娩の予約などをしない。

・日本では妊婦の体重管理が重要だという病院もある。一方で海外では「子どもと自分の2人分食べるべき」とされる国も多い。

同教室では、ベトナム人妊婦や出産経験者から聞いたベトナムでの文化や習慣に合わせて、講習内容が作られている。

昨年12月に第一子を出産したベトナム人のホー・ティ・バンさん(28)は「ベトナムでは入院すると家族も一緒に泊まったりするけど、日本ではそれはできず、小さな子どももお見舞いで病室に入れなかったりするのも驚きました」と話す。

またダン・グェン・トゥ・ビェンさん(34)は出産後のバランス良い入院食や食事制限にも驚いたという。

「ベトナムでは豚足スープが母乳に良いとされているので、とにかく出産後は豚足スープを飲むことを勧められます。出産祝いとして入院中の母親にケーキなどご馳走を差し入れたりもします」

ベトナム人妊婦教室では、ベトナム人妊婦や出産を経験した女性などからベトナムでの文化やしきたりを聞き、相違点を熟知した上で、妊娠初期から分娩、産後の手続きまで1時間半にわたり説明された。

外国で、いざという時に対応する準備

妊婦教室に参加したベトナム人女性は、元留学生や日本へ働きに来ている人、夫が日本で働いており結婚して来日した人などバックグラウンドは様々だ。

人によって日本語レベルも違い、流暢に話し読み書きができる人もいれば、あいさつ程度の人もいる。

母国でも不安が多くある出産だが、言葉や文化が異なる外国で迎える陣痛にも対応できるよう、教室では、陣痛時にかける病院への電話や、陣痛タクシーを呼ぶ際に使えるフレーズの練習も行われた。

日本語での日常会話は流暢でも、医学の専門用語は知らなかったり、いざ陣痛が来た時に的確な情報を日本語で伝えるのは難しい。

「陣痛が始まりました。間隔は○分です」「破水しました」「病院まで○分です」

陣痛が始まった時、病院にかける電話で使えるフレーズを一人一人声に出して練習した。

助産師の藤井さんは話す。

「以前驚いたのは、陣痛が始まって自転車で病院に来ようとした外国人の妊婦さんがいたことです。日本では陣痛タクシーのサービスが整っているため、仕組みや登録の仕方も説明します」

多様化する患者に病院が合わせていく努力

助産師の藤井さんは語る。

「4月からの改正出入国管理法の施行で、今後どんどん外国人も増え、多様化していきます。病院もそれに合わせて通訳を入れたり、このように妊婦教室を開いたりと、合わせて受け皿となっていきたいと努めています」

大和市はもともと、1980年にインドシナ難民の受け入れで定住促進センターが設置されるなどと、ベトナム人ら外国人を多く受け入れてきた。しかし、ここ数年でまた工場などで働く外国人が増えている。

病院での資料も一部、大和国際化協会などの協力を得て、英語の他、スペイン語やベトナム語に翻訳され配布されている。

「定住する人が増えれば、家族を持つ人も増える。それぞれの国のコミュニティもあるが、皆がそれに入っているわけでもないため、妊婦教室などの実施で孤立を防げればと思っています」

先日は、イスラム教徒の妊婦が入院食がハラルでないために食べられなかったり、新生児のミルクもハラルミルクでないために、特例として全て母子の持ち込みで対応したケースもあったという。

「食事など宗教面でも、全てが全て私たちに対応できるわけではないです。しかしできるだけ柔軟に考え、各セクターで協力して受け入れ体制を整えていきたいと考えています」

今日も大和市立病院では、日本、そして各国にルーツを持つ新生児が元気に産声をあげている。