あいちトリエンナーレに出展していた海外作家11組の作品が、「表現の不自由展・その後」の中止に抗議の意を示すため、展示辞退・一時中止となった。トリエンナーレの広報が8月20日、明らかにした。
新たに20日から作品展示が一時中止となったのは、オープンレターで「表現の不自由展が再開されるまで展示を一時的に停止するよう求めます」と意思表示をしていた作家8組の作品。
申し出をしていたうち、トリエンナーレのポスター写真に作品が使われているウーゴ・ロンディノーネ氏以外は全員、展示が一時中止となった。
あいちトリエンナーレは8月20日付けで「【続報】本来の状態で見られなくなった作品について」とのお知らせをウェブサイトに掲載し、辞退・一時中止になった作品の状態について説明した。
展示を辞退したのは、米国の非営利報道機関「CIR」(調査報道センター)で、一時中止となったのが、韓国人作家2組と、オープンレターを発表していた作家8組。
うち作家4組は、作品の展示室を閉鎖してステートメントを貼り出した。他の作家は、自身の作品の一部を破いたり、新聞やゴミ袋で覆ったり、作品の上にステートメントを貼ったりして抗議の姿勢を示している。
あいちトリエンナーレの芸術監督の津田大介氏が20日午後にTwitterに掲載した写真には、作品の上にステートメントが貼られた状態のドラ・ガルシア氏の作品、照明が落とされ映像作品の上映が中止されたクラウディア・マルティネス・ガライ氏の作品の様子が写っている。
また、名古屋在住でラテンのルーツを持つ外国人労働者がパーティーをする様子を記録し、日本に住む外国人の存在やアイデンティティーなどについて問いかけたレジーナ・ホセ・ガリンド氏による映像作品「LA FIESTA #latinosinjapan」は、上映が中止になり、撮影時に使用した小道具が散りばめられた。
破られ散りばめられた未記入のカード
来場者参加型のアートプロジェクトで、Twitter上でも話題となっていた、モニカ・メイヤー氏の作品も、表現の不自由展が再開するまで展示が一時中止となった。
メイヤー氏はメキシコのフェミニスト・アートのパイオニア的存在で、この作品は、来場者が日常生活で感じたハラスメントや抑圧をピンク色の紙に書いたものを貼り出していた。来場者は自身が受けた性暴力の経験などを綴っていた。
展示の一時中止により、来場者から寄せられた回答は取り外され、未記入のカードは破られて床に散りばめられた。
名古屋市美術館に展示されていたこの作品の題名は“The Clothesline”だったが、一時中止後は「沈黙のClothesline」に変わった。
貼り出されたステートメントでメイヤー氏は「表現の不自由展・その後が再び開かれるまで、沈黙を続けます」とし、あいちトリエンナーレや不自由展についてはこのように思いを述べた。
「この展示は、テロの脅威と脅迫によって閉ざされました。トリエンナーレの参加者として、人々が彼らの体験を共有し声を上げるための場所を開くアーティストとして、私は作品が検閲されている仲間のそばにいます。そしてこの困難な状況に直面しているトリエンナーレで働く人々と連帯します」
不自由展中止を報じる新聞で作品覆う
豊田市美術館に展示されていた、レニエール・レイバ・ノボ氏の絵画は、「表現の不自由展・その後」の中止や一連の騒動を報じた新聞紙で覆われた。
また、絵画と同じ部屋に展示されていた彫刻に関しては、一部をゴミ袋で覆った。
「表現の自由は不可侵の権利」
20日から展示が一時中止となった海外作家らは、8月12日付けの米美術雑誌ARTNEWSのウェブ版記事で、抗議の声明をオープンレターとして発表していた。
声明は"IN DEFENCE OF FREEDOM OF EXPRESSION"(表現の自由を守るために)と題され、出展作家らとよく話し合わずに展示中止したことや、作家の表現の自由を守らなかったことなどを強く批判している。
声明の中で作家らは「表現の自由は、どのような文脈からも独立して擁護される必要のある、不可侵の権利です」と強く主張。「私たちが検閲を受けた作家と共にあることを公に示すために、表現の不自由展が中止されている間は、私たちの作品もトリエンナーレで展示しないことを運営に要求します」と一時中止の理由を述べていた。
トリエンナーレは、20日にウェブサイトに掲載されたお知らせの中で、「表現の不自由展・その後」については、「企画展の実行委員会と事務局が今後も協議していく方針が確認されています」と説明した。