3日間で終わった「表現の不自由展」、中止された展示内容とは

    平和の少女像などが展示されて抗議が殺到し、3日のみで中止となった「表現の不自由展・その後」。展示内容を振り返ります。

    8月1日に愛知県で開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」で、展示作品への抗議を理由に「表現の不自由展・その後」が開幕からたったの3日で中止となった。

    同展示は、これまでに公的な美術館などに展示され、抗議などを理由に撤去された作品ばかりを集めており、平和の少女像や、昭和天皇とみられる写真を燃やす作品なども展示され、テロ予告や脅迫を含む抗議の電話が殺到した。

    3日午前には同展示を一目見ようと多くの人が列をなし、入場は1時間待ちまでになったという。

    BuzzFeed Newsは2日午後に展示を訪れた。3日間だけ公開された、同展の内容を振り返る。

    報道陣の撮影を禁止

    あいちトリエンナーレは2日午後、抗議の殺到を受け、敏感な問題であるゆえに、報道陣が「表現の不自由・その後」展の写真や映像を撮ることを禁止した。

    Twitter上では「報道による余計な炎上を防ぐためで妥当な措置」と理解を示す声もある一方で、「報道する自由、伝える自由の侵害では」などと、報道規制を疑問視する声も出ていた。

    運営側は「暫定的な措置」としていたが、3日夕の会見で展示の中止が発表された。

    BuzzFeed Newsは2日午後に名古屋市に到着し、展示の写真を撮影することができなかったため、同展以外の場所で撮影した少女像の写真などを交えて展示を報じる。

    一般来場者もSNSへの写真掲載は禁止

    まず同展の入り口で目に入るのが「撮影写真・動画のSNS投稿禁止」のお知らせだ。

    InstagramやTwitter、Facebookなどのアイコンに、バツマークをつけて、日本語と英語で、SNSへの写真・動画掲載ができない旨を伝えている。お知らせの張り紙にあった掲載禁止のルールや理由は以下の通り。

    ・展示室内の作品や資料は撮影可能ですが、私的使用に限ります。

    ・実物を見て判断してほしいという企画趣旨から、会期中の作品や資料の写真・動画の投稿を禁止とします。

    ・作品や資料の写真・動画をSNSに投稿すると、私的使用の範囲を超えての利用となり、著作権法に触れる可能性があります。

    ・文章での投稿は自由にしていただいて結構です。

    作品には「撤去された理由」が書かれている

    平日の展示時間は午後6時までだが、8月2日は金曜日だったため、午後8時まで展示時間が延長されていた。2日夜に同展示を訪れると、閉館時間ギリギリになっても、人々は熱心に展示に見入っていた。

    展示は16人の作家による作品で構成されており、中でも昭和天皇や慰安婦問題など第二次世界大戦に関連する歴史をテーマにした作品が、注目を集めた。

    7月31日に、少女像などが展示されるという報道を受け、8月1日からすでに実行委員会には抗議の電話などが殺到していた。そのため、同展示室内は多くのスタッフやボランティアスタッフが警備にあたっており、会場内は緊迫した空気さえ感じられた。

    一つ一つの作品の側には、作品の紹介文が書かれている。他の美術展と違う点は、その紹介文に「その作品が展示された美術館から撤去された理由」がそれぞれ書かれていることだ。人々は説明書きの前で立ち止まり、詳細に書かれた経緯を熱心に読んでいた。

    作品の多くは、一つの大きな部屋に展示されている。来場者が作品の間を縫って歩き回ることもあり、作品と作品の間にそこまで広いスペースはない。話題となった少女像は、部屋の入り口から反対側の角に、ぽつんと展示されている。

    「あなたも作品に参加できます」

    この写真は、8月1日に時事通信が同展で撮影した写真だ。

    椅子に座った少女の隣に空席が残されており、その隣には銅板で、ソウルの日本大使館前に設置された少女像と同じ文言が書かれている。

    空席となっている少女像の右側の席に座る男性が、キム・ウンソン氏で、その後ろに立つ女性がキム・ソギョン氏。2人は彫刻家で、この少女像だけでなく、各地に設置されている少女像の制作者だ。

    制作者の2人の名前入りで、以下のようなメッセージが書かれた小さなプレートを、少女像の足元に設置した。

    あなたも作品に参加できます
    隣に座ってみてください 
    手で触れてみてください
    一緒に写真も撮ってみてください
    平和への意思を広めることを願います

    メッセージを受けて、会場には、少女像の隣の空席の椅子に座った写真や、自撮り写真を撮る来場者の姿もあった。

    少女像は、ソウルの日本大使館前に設置されたものの他に、各地に設置されている。日本の報道などでは「慰安婦像」などと呼ばれており、韓国国内では「平和の少女像」などと呼ばれることが多い。

    表現の不自由展のウェブサイトにある作品紹介では「本作の作品名は《平和の少女像》(正式名称「平和の碑」。「慰安婦像」ではない)」と但し書き入りで書かれている。

    (BuzzFeed Newsは一連の「表現の不自由展」の報道では、出展作品名が「平和の少女像」となっているため、作品名通り、もしくは略して「少女像」と表記しています)

    展示には2つの少女像

    今回、同展をめぐって報道で大きく取り上げられたのは、この等身大の大きな少女像だ。しかしその隣には、実はもう一つ、ミニチュアの少女像が展示されている。

    同展のウェブサイトでは、少女像の撤去の経緯についてこのように説明がある。

    「2012年、東京都美術館でのJAALA国際交流展でミニチュアが展示されたが、同館運営要綱に抵触するとして作家が知らないまま4日目に撤去された」

    上の写真は、BuzzFeed Newsが都内で撮影した、展示作品とは異なる少女像のミニチュア版だ。

    同展で展示されたミニチュアとは、異なる点もあるがほぼ同じデザインのもので、縮小版でありながらも、説明書きから少女の影、少女の肩に乗った小鳥など、細部まで再現されている。

    中止になった写真展の写真も

    今回はあまり話題にはならなかったが、2つの少女像の隣には、2012年に「ニコン慰安婦写真展中止事件」として問題となった写真が複数点、展示されていた。

    韓国人写真家、安世鴻(アン・セホン)さんが、中国に置き去りにされた朝鮮人の日本軍慰安婦たちを撮影した写真だ。

    2012年、ニコンが運営する新宿ニコンサロンでの写真展が決定していたが、開催1カ月前にニコンが「諸般の事情」で中止を通告し、裁判となっていたものだ。

    その隣に設置されているのは、造形作品「群馬県朝鮮人強制連行追悼碑」だ。

    2017年4月に、群馬県立近代美術館の企画展に展示されるはずだったが、開会当日の朝になって撤去された、前橋市のアーティスト・白川昌生さんの作品だ。

    作品は、県立公園「群馬の森」に実際にある、「記憶反省そして友好」と名づけられた朝鮮・韓国人の強制連行犠牲者の追悼碑をモチーフにしたもの。

    県が立ち退きを求め、設置者と裁判中だ。美術館側はこれを理由に、「中立ではない」と判断した。

    BuzzFeed Newsは2017年に作品が撤去された後、白川さんに取材をしており、白川さんは「作品には、県の言うような『追悼碑の撤去に反対』というメッセージを込めているわけではありません。公共の彫刻が抱えている課題を伝えたかった」と話している。


    愛知県の大村秀章知事は3日午後、抗議殺到による同展の中止を発表した。

    その後開かれた会見で、芸術監督・津田大介氏は「展示を中止しなくてはならなくなったことは、断腸の思い」と話し、「参加作家の皆様方、表現の不自由展実行委員会に大変申し訳ないという気持ちであります。お詫びしないといけない」とした。

    津田氏は「公立美術館で一度は展示されたものの撤去された、あるいは展示を拒否されたものを集めて、再展示するという企画の性質上、途中での展示の中止も、当然念頭には置いていた」と説明した。

    一方で、2日の会見から繰り返している「表現の自由について考える契機になってほしい」という姿勢は変えず、「ここで今湧き上がる賛同、反感を可視化することにも意味を持たせた展示になっている」と述べた。