「苦学生を助けたい」という思いから企業が始めた、一風変わった学生の支援制度がある。
焼肉店などの飲食店を経営するファクト(東京都新宿区)が始めた「奨学肉制度」だ。奨学生に選ばれると、この会社が経営する東京・新宿の焼き肉店など4店舗で1日1回、食べ放題で肉を食べることができる。
「飲食業だからこそできる支援を」
今年1月から始め、第1期生の5人が選ばれた。7月からの第2期生を募集している。応募締め切りは3月31日。主な募集要項は以下の通り。
・2019年4月〜2020年3月に大学に在籍する学生であること
・夢や目標に向かって努力し、結果も残している人で、家庭事情や経済的理由により修学に困難のある人
・経済的に苦しい人(保護者の世帯所得400万円以下)を優遇するため、保護者の所得を示す必要
・大学の成績表を付ける。新年度に大学生になる高校3年生は、全国模試の成績表を添付
・他の奨学金制度との併用は可能
奨学肉制度を企画した同社取締役の久保智さんは「今月ピンチだという時にまず抑えるのが食費。学費の支払いのために奨学金を借りていても、食費の心配をしなくて良いようにと始めた」と説明する。
実際にいま制度を利用している5人の奨学生も、大半がひとり親家庭で、地方出身者も多いという。
ひとり親の家庭では奨学金を借りていることも多く、地方から東京の大学に進学すると生活費や家賃もかかる。
奨学生からは「食費が本当に助かる」「なかなか食べられない肉を食べ放題というのが良い、幸せを感じる」という声が出ているという。
背景には日本の奨学金破産などへの問題意識
久保さんが強調したのは、貸与型奨学金の問題だ。「日本は借金をする形の奨学金しかないのが現状。返さなくてもいい奨学金制度を増やしたいと考えている」
同社は「給付型奨学金を増やし、教育格差・貧困連差を是正すること」を目標に給付型奨学金や奨学肉制度などを紹介する「奨学サイトBekkaku」も運営している。
独立行政法人日本学生支援機構の統計では、2017年度に同機構の奨学金の貸与を受けた学生は、129万2203人。
大学、短大、大学院、高等専門学校や専修学校(専門課程)に通う学生の37%にあたる数で、学生2.7人に1人は奨学金を借りている計算だ。
一方で、卒業後に就職がうまくできなかったり失職したりして返済困難な状態に陥るケースもあり、2016年に2009件の新たな自己破産があった。
不動産業界とも連携し、家賃ゼロ支援も開始
同社は「奨学肉」に加え、返済不要で生活費の助けになる奨学金として、家賃が1年間無料となる「奨学ハウス」の取り組みも始めた。
賃貸物件管理などを行う日本システム管理(東京都新宿区)と連携し、苦学の助けになるようにと、首都圏の大学から通学1時間以内の賃貸物件を1年間、無料で提供する。
2019年4月から、その第1期生の5人が、奨学ハウスに暮らして大学に通う予定だ。
「様々な業界で給付型奨学金や奨学金に代わった奨学制度の取り組みが増えるよう提携を広げている」と久保さんは言う。
根底にあるのは「若者を支援する団体が増えていってほしい」という思いだ。