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「一人でする」のは男性だけじゃない。TENGA女性ブランドの広報担当が言いたいこと

「女性がまっすぐ自分の喜びや快感に対して肯定的になれたら」ーー。女性用セルフプレジャー・アイテムの広報担当者はそう話します。

しっとりモチモチした手触り、まるで和菓子のようなデザインから、口紅の形をしたものまでーーー。

これはセルフプレジャー(マスタベーション)アイテムなどを取り扱うTENGA(東京都港区)が展開する女性向けブランド「iroha(いろは)」の女性用商品だ。

男性に比べ、女性が性について話したりすることはタブーとされやすい世の中で「女性がまっすぐ自分の喜びや快感に対して肯定的になれたら」。

このような思いで、irohaは女性に寄り添うセルフプレジャー・アイテムを世に送り出している、と広報宣伝部の西野芙美さんは話す。

セルフプレジャーは自然なこと

今まで、セルフプレジャー・アイテムについて「恥ずかしい」「一部の人が使うもの」という意識が女性たちには強かったが、そのような考えも変わってきているという。

「従来の、男性から与えられて女性は初めて快楽を得るというような受動的なものでなく、女性にとってもマスタベーションやセルフプレジャーは自然なことと捉えています」

「全ての女性、人間が欲求を持っていて、自分で自分を喜ばせるということはとてもいいこと」

一方で、「女性はやはりオープンにできない雰囲気もある。しかし、したくなければオープンにする必要もないと思っています」とも西野さん。

「日本の女性が多くもつ感性に寄り添ったものはなんだろうと考えて商品開発をしています」

その結果たどり着いたのが、日常生活にも溶け込む、コスメや雑貨のようなデザインや色味だった。

女性ラインirohaの設立は、TENGAが創業した8年後の2013年。

「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」

同社のコンセプトにある「誰もが」という部分には、もちろん男性だけでなく、女性やセクシュアルマイノリティ、または障害がある人々も含まれている。

創業当初から女性用商品の開発も視野に入れていたが、2013年、女性社員も多く入社したしたところでようやく、女性用ブランドを立ち上げることができた。

女性による女性のためのプロダクト

TENGAの中でも女性用商品のみを取り扱うirohaでは、デザインから広報まで、スタッフは全員女性。

「男性が入ることで、女性が何を喜ぶかを男性の目線からみてしまう。女性だけでミーティングをやっていると、あるあるが出てきたり話しやすい雰囲気も出てくる」と西野さんは話す。

あくまで、女性の視点によって、どのような商品が女性にとって使いやすいのか、求められているのかを模索しているという。

例えば、日本人女性は爪を長く伸ばし、ネイルをしている人が多い。電源や操作ボタンは、爪が長くても押しやすい形にデザインされている。

美容と同じ。セルフケアの一つとして

赤など原色のビビッドなイメージのTENGAとは違い、irohaは白やピンクなど「和モダン」なデザインがテーマ。

「マスタベーション」や「オナニー」という言葉には抵抗がある女性も多くいるため、積極的に「セルフプレジャー」という言葉を使う。

「セルフプレジャーには顔をパックしたり、トリートメントをしたりのと同様に、セルフケアの一つとして感じてもらいたいという思いがある」と、広報宣伝部の本井はるさん。

irohaが誕生して6年、現在は商品は7シリーズ19種にもなった。

クジラやハリネズミ、りんごなど、文房具や雑貨のような可愛らしい形や色にもこだわって展開している。

充電して使うタイプは9000円台や1万円を超えるものもあるが、乾電池で動くタイプは安いもので1200円と、若年層や初心者にも手が出しやすい価格帯になっている。

ブランドのメインターゲットは20、30代。しかし、昨年8月に百貨店の大丸梅田店に2ヶ月の期間限定の店舗を設置した際には、購入客は40、50代も多く、中には80代までいたという。

「出産後や年齢を経ることで体が変わった」。店舗では、販売スタッフが相談を受けることも多くあった。

「皆、体に関する悩みがあっても、相談する人がいないことが見えてきました」

百貨店で手に取れる時代へ

商品の購入はirohaのウェブサイトやネット通販など、オンラインでの購入が8割。

ドン・キホーテやアダルトショップなどの小売店では販売しているが、男女隔たりなく客が行き来する店舗では「買いにくい」という声が女性客から上がっていたという。

昨年夏から今年にかけ、百貨店の大丸梅田、大丸札幌店でポップアップストアを設置。店舗の設置もプライバシーに気を使った設計にした。

大丸での出店については、大丸側から男性のバイヤー2人が「女性が(セルフプレジャー・アイテムについて)言いづらい雰囲気、百貨店として何かできないか」と打診があり実現した。

また、男性用のTENGAも阪急メンズ東京に初の直営店をオープンさせるなど、百貨店のような老若男女が行き交う店でも、セルフプレジャー・アイテムを置けるようになった。

「女性と性」に対する男性からの偏見

今でこそ美容やファッションを多く取り扱うような女性向けの媒体にも取り上げられ、認知度も上がった。

しかしirohaが立ち上がりまだすぐの頃には「性に関する仕事」という仕事だけで、取引先やマスコミ関係者にセクハラ発言を受けた女性広報もいるという。

男性向け週刊誌の取材に応じた女性広報は、取材者から「君は脱いでくれないの」と言われた。

「性に関する職業だから、そういうサービスをして当たり前というようなバイアスが男性側にはありました」(西野さん)

現在もiroha広報として設置するのtwitter上の「質問箱」で、嫌がらせやセクハラ発言がなされるという。

性をもっと身近に

若い世代への発信でTwitterやFacebookなどSNSに力を入れる一方で、「マスタベーションのことだったので、性の話をしない人など、今までRTなどは少なかったんです」

しかし「メディアが女性の性と自立とは、などの切り口で取り上げたこと」からも、少しずつではあるが状況は変わってきた。リツイートなどの反応も増え、SNSを見て、irohaが主催するイベントに訪れる女性も出てきたという。

2018年には、アーティストのたなかみさきさんとのコラボレーションも実現。

irohaの商品を手にした女性やパートナーの姿が絵が描かれた。たなかみさきさんのインスタでirohaを知った人もいたという。

現在は海外への展開も強化しており、海外拠点も中国、韓国、台湾、米国、ドイツの5拠点に増えた。西野さんはこう話す。

「セルフプレジャー・アイテムはテクノロジーではあるが、背景には人の気持ちがあります。プロダクトに込めた思いや、こういう社会であってほしいという思いがうまく電波しているのかなと思います」