「平和の少女像」撤去の可能性も 県や実行委と調整へ 津田氏「批判する人にこそ見てほしい」

    あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」で「平和の少女像」が展示され、議論となっています。8月2日には芸術監督の津田大介氏が会見を開きました。

    愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」で、第二次世界大戦中の慰安婦被害者を再現した「平和の少女像」が展示され、議論となっている。

    少女像の展示などをめぐり主催側には批判が殺到。それを受けて、同芸術祭の芸術監督であり、ジャーナリストの津田大介氏は8月2日、名古屋市で緊急会見を行った。

    少女像について実行委員会に対し、テロ予告や脅迫を含む抗議電話が鳴り止まない状況に言及し、「展示内容を変更も含め何らかの対応を行うことも考えている」とした。

    「像の撤去に関しても現在、検討しているのではっきりとは言えない。僕の一存で決められることでもなく、知事や県、表現の不自由展実行委員会とも調節をして検討していきたい」と述べた。

    「大村知事や県側にも説明していた」

    津田氏は、少女像の設置について、事前に県庁の関係部署や施設側に説明し、起こりうるリスクについても想定して調節してきたと説明。

    津田氏は「この企画の実現までは、懸念に対してどう対応していくかということを何十時間も議論を重ね、大村秀章・愛知県知事もこの企画をやるということを認めていただいていた」とし、しっかりと事前調整をした上での展示だっだと話した。

    大村知事は展示に関して「政治が行政が、内容に口出しをすることは好ましくない」と話し、知事の口癖という「金は出すが口はださない」を繰り返し、容認する姿勢をとっていたと津田氏は説明した。

    その中で2日昼、名古屋市の河村たかし市長が、同展を視察。「国などの公的資金を使った場で展示すべきではない」と、少女像の展示中止を実行委員長である大村秀章・愛知県知事に求める方針を明らかにした。

    それについて津田氏は、「河村さんが個人の所感を述べられたことも、表現の自由である。行政としての立場も分かる」といった見解を示した。

    「行政が展示内容に口を出す」という表現の不自由

    今回、「表現の不自由展」に展示されている作品は、公立の美術館などに一度展示され、撤去されたもの。

    津田氏は「なんでこの作品が撤去されたの?おかしくない?というような作品もある。そのような議論を行なっていくことが、健全な民主主義社会を作っていくうえで大切なこと」と展示開催の意義を語った。

    「表現の不自由展」は2015年に、民間で開催され、その展示にも津田氏は個人として訪れていたという。

    展示について抗議が殺到していることについては「分断が進んでいて、またひとつ表現の自由が後退したかもしれない。表現が自由にできないということが実証されてしまっているようにも感じる」とした。

    「2015年の展示も今回のものもですが、行政がどこまで企画の内容に関われるのかというラインのあいまいさが、表現の自由を考える上で重要。行政が、隅から隅まで口をだし、行政として認められない表現は展示できないということが仕組み化されるのであれば、それは憲法21条にある『検閲の禁止』に当たるという、別の問題が生じると考えます」

    「批判している人に少女像を見てほしい」

    津田氏は、ソウルの日本大使館前や韓国各地に設置されている「平和の少女像」に関し、「反日の像として捉えられているが、多くの人はバックグラウンドなどを理解していない」と指摘。

    実際に会場で少女像を見た来場者、または芸術祭関係者からは「実際に見てこんな作品だったのか」「イメージが変わった」という肯定的な意見が多かったという。

    津田氏は少女像の設置は「続けたい」と意思を示し、「批判している人にこそ見てほしい」と話した。

    展示の趣旨から離れて政治問題に

    津田氏は、展示に対する批判に対しては「たくさん批判の電話がくることは予想していたが、予想を超えていた部分があるということは事実」とした。

    展示が始まった8月1日の午後9時までだけで、電話での抗議が約200件、メールが約500件来ており、2日も1日と同数ほど来ている状態という。

    抗議の電話は1日の午前は少女像に関するものが大半だったが、その後、昭和天皇の写真を燃やしているような動画作品などに対する抗議と半々くらいになったと説明した。

    その中で津田氏は「自分が抗議の電話などに全て対応できれば良いのですが、事務局が対応しており、職員たちが精神的に耐えられないほどの状態になっている」と状況を話した。

    対応した職員に対し「お前は誰だ。名前を名乗れ」と罵るような抗議電話が多いという。「公務員には一般的に、名前を聞かれたら答えなければいけないことから名前を答えるが、職員の個人名がTwitterなどにあげられるなどの事態も起きている」と話し、懸念を示した。展示とは関係のない愛知県の他の美術館にも抗議の電話がいっているという。

    批判は予想していたとした一方で、「韓国のメディアでも報道され、菅官房長官や政治家も言及している。展示の趣旨から離れて政治問題になってきている」と、県や実行委員会側と対応を検討している理由を話した。

    報道陣の展示撮影NGに

    問題となっている少女像を含む「表現の不自由展」については、2日午後時点で、報道陣が撮影をすること自体が禁止された。

    そのことについて津田氏は「落ち着くまで、写真の撮影については遠慮してもらうということになったが、実際のところは運営側は終日電話対応に当たっており、なかなかそれを協議する時間もない」と説明。

    一方で、「僕もメディアの人間ですし、近いうちに変えたいと僕自身は思っている。暫定的な措置の予定です」と添えた。

    「表現の不自由」や「津田大介」というワードは、Twitterでもトレンドにもあがり、多くの人がインターネット上で活発に議論をしていた。

    そのことに対し津田氏は「Twitterをみていると冷静に議論をできる状態ではないが、是非みなさんに表現の自由について考えてほしい」と話した。

    会見場には、日本メディアの他に韓国のメディアも取材に訪れ、少女像の制作者であるキム・ソギョン氏も出席した。

    キム氏は1日にはメディアの取材に応じていたが、2日の会見では取材は断った。