「表現の不自由展」が中止に。平和資料館長「お金をもらったら言われた通りの表現しかダメなのか」

    愛知県の大村秀章知事は、あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」を3日限りで中止すると発表しました。

    愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で「平和の少女像」が展示され、抗議が殺到していた企画展「表現の不自由展・その後」について、大村秀章・愛知県知事は8月3日午後、「表現の不自由展」自体を3日限りで中止すると発表した。

    NHKが中継した会見で知事は、知事宛てに2日朝、「ガソリン携行缶をもってお邪魔します」というFAXが届き、警察に被害届を出したことも明らかにした。

    中止の理由については「諸般の状況とも総合的に判断した。お客様にあいちトリエンナーレを安心、安全に楽しんでいただきたいため」と話した。

    展示自体を中止するという判断は、議論を呼んでいる。

    慰安婦問題など、戦争と女性に関する展示をする「女たちの戦争と平和資料館」(東京都新宿区)の渡辺美奈館長は、展示自体の中止という判断に対し「展示に税金を使っていたとしても、行政は展示内容に口出しをすべきでない」とBuzzFeed Newsの取材に話した。

    中止は安全上の問題と強調

    あいちトリエンナーレは8月1日に開幕し、「表現の不自由展」はまだ公開されて3日目だが、この日の展覧会営業時間である午後6時限りで中止されると発表された。

    大村知事は3日の会見で、芸術監督の津田大介氏と2日午後10時すぎに直接会い、今後の方針について協議したと話した。運営委員会に殺到した抗議は「卑劣で非人道的なFAX 、メール、恫喝、脅迫といった電話」などで、「安全に展覧会をすることが危惧されるので、このような判断をした」と説明した。

    展示を中止するという判断を下した一方で、「行政が展覧会の中身についてコミットしてしまうということは変えなければならない。芸術祭自体が変わってしまう」と話し、あくまで中止は安全上の問題であったと強調。行政が芸術祭などの展示内容について指摘や要求をすることに対しては反対の姿勢を取った。

    また、「表現の自由について話し合う契機を作りたいという思いは多くの方々に届いたのではないかと思う」と述べた。

    展示中止「見る権利奪う」

    名古屋市の河村たかし市長が2日昼、同展を視察。「国などの公的資金を使った場で展示すべきではない」と、少女像の展示中止を実行委員長である大村知事に求める方針を明らかにしていた。

    報道によると、菅義偉官房長官は2日に、今後の補助金交付の可否決定に対し「事実関係を確認・精査した上で適切に対応していきたい」と述べていた。

    官房長官の発言を受けて、渡辺館長はBuzzFeed Newsに対し「政府は補助金凍結をちらつかせていましたが、そもそもお金をもらったら政府の言う通りの表現しかダメというのでは、国策アートになってしまう。自由な表現の場を確保するためにこそ、税金は使われるべきです」と話した。

    大村知事が少女像を含む表現の不自由展の展示に「金は出すけど口は出さない」と話していたことなどを受け、「それは欧州などのアート界では常識。その常識が、中央政府によって覆されるとは、地方自治体の独立性を考えても残念です」とした。

    また、資料館館長という立場からは、展示する場所を確保することについて以下のように述べた。

    「多様な価値観を表現する場所を確保していく必要がある。作品を見て感じたいと思っている人もたくさんいる状況で、展示の中止はその権利を奪うことになるのではないでしょうか。感情的な分断を縮め、多様な表現を通じて冷静に考える機会にもなりえたのに、踏ん張りきれなかったのかと残念な思いを拭えません」

    (サムネイル:時事通信、表現の不自由展)