就活生がOB訪問で、性的暴行される事件。「就活ハラスメント」をなくすためのプロジェクトが始まった

    企業の経営トップから「就活ハラスメントゼロ宣言」への賛同者を募り、匿名で相談できるオンラインサービスで被害の可視化を目指す。

    就活生に対するハラスメント事件が相次いだことを受け、性暴力やセクハラに対して声を上げた人を支援するプラットフォーム「#WeToo Japan」が5月24日、「『就活ハラスメント』ゼロ!プロジェクト」を始めた。

    プロジェクトでは、企業の経営トップから「就活ハラスメントゼロ宣言」への賛同者を募り、その第一号としてドワンゴ株式会社の代表取締役社長、夏野剛さんが名を連ねた。

    また、代弁者を通じて匿名で相談できるオンラインサービス「QCCCA(キュカ)」と連携し、被害者が安心して声を上げられる環境づくりを目指す。

    相次ぐ性的暴行事件

    就活ハラスメントは今年2月、大手ゼネコン「大林組」の社員が、就職活動でOB訪問に来た女子学生にわいせつな行為をしたとして、強制わいせつの疑いで逮捕された事件で大きく注目を集めた(のちに不起訴処分)。

    また、3月には住友商事の社員が、同じくOB訪問に来た女子学生に性的暴行を加えたとして、準強制性交などの容疑で逮捕された。

    4月には、職場のパワハラ防止義務を設けた「女性活躍推進法」の改正案が可決され、「フリーランス、就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメントなどの被害を防止するため、必要な対策を講じる」よう求めた付帯決議も採択された。

    プロジェクト呼びかけ人の一人で、相模女子大学客員教授の白河桃子さんは「ハラスメントは企業の病。法改正によって、企業にはさらに社員を守る義務と責任が発生する。就活ハラスメントも仕事領域の問題であり、個人の問題に矮小化してはいけない」と指摘する。 

    就活ハラスメントゼロ宣言は「私たちは経営者として、組織の長として、すべての就職活動におけるハラスメントをゼロにすることに賛成します」と掲げている。

    第一号の賛同者として加わった夏野社長は「就活に関しては、被害を受ける方が社内の人間じゃないので、通報窓口などに相談が来ることが少なく、経営側としても非常に見えにくい領域。だからこそ、トップが強いメッセージを出す必要がある」と語る。

    「ハラスメント案件は正直どこの会社でもありますが、それにどう経営幹部が対応するかが、社員に対して大きなメッセージになる。経営層はハラスメントゼロ宣言をするべきだと思います」

    相談者がバッシングを受けない場所を

    一方、「QCCCA(キュカ)」は、元Yahoo! JAPAN社員で知恵袋のサービス立ち上げに関わったウ・ナリさんと、片山玲文さんが今年2月に本格的に運用を始めたオンラインサービス。

    これまでに300人近くが登録し、300~400件の相談が寄せられているという。

    キュカの特徴は、悩みを打ち明けた相談者がバッシングなどの二次被害に遭うことがないよう、運営側が事前に認証した「キュカッチ」と呼ばれる代弁者を通じて、相談内容を投稿したり、コメントを読んだりすることができる点だ。

    代弁者にはWeToo Japanも団体として加わり、他にもLGBTに特化したメディアの運営者や、福祉関連の相談窓口の経験がある人などが参加している。

    投稿された相談内容やコメントは全て、こうした「代弁者」が目を通し、承認して初めてサイト上で公開されるため、二次被害を防ぐことができるとウさんは話す。

    「日本のIT業界で長年、数少ない女性管理職として仕事をしていたら、本当にたくさんの相談を受けるようになり、特にセクハラ相談が多くありました」とウさんは言う。

    「そうした声に対して、声を上げてもらっても組織が動かなかったり、自分が求める解決方法を見出せなかったりする事例を多く見てきて、なんとかテクノロジーの力で解決したいと思ってきました」

    「Yahoo!で知恵袋を立ち上げた経験から、ヘイトやバッシングがないコミュニティを作ることができれば、今までは誰にも言えなくて、抱え込んでしまった人が救われる場所になるんじゃないかなと思いました」

    また、サービスを始めた背景には、ウさんの娘が中学の同級生に無理やり体を触られる被害にあった経験もあるという。

    「娘が先生に被害を打ち明けた時、先生がまず言ってくれたのが『あなたは何も悪くない』ということだったんですね」

    「だから娘も、今この被害について後ろめたさを感じずにいます。そうやって誰かが声を上げた時に、周りの人がきちんと対応できることによって、声を上げやすい環境を作ることができると思うんです」

    WeToo Japanと共同で実施する今回のプロジェクトでは、就活ハラスメントに関する相談を募集し、被害を可視化。集まった情報をもとに行政などに向けた提言としてまとめる予定だという。

    これまでに「面接の時にニヤニヤと水商売をすすめられた」「面接官に『結婚の予定は?』『出産の予定は?』と細かに聞かれた」などの相談が寄せられている。

    キュカのプロデューサーの片山さんは、就活生に向けてこう呼びかける。

    「就活中のセクハラだけでなく、プライベートのことを聞かれたとか、飲み屋さんに誘われたとか、さりげないものでも不快だと感じたなら教えてほしい、その声を届けられるよう働きかけたいと思っています」

    「こうした積み重ねが、次の被害者を生まないことに繋がると思うので、みんなで声を上げていきたいです」


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