東京医科大を目指して、3年浪人した。「時間と努力が踏みにじられた」女子受験生ら、提訴へ

    「このまま黙ってしまったら忘れられるし、女性差別をしていいんだということになってしまう。この訴訟が医学部の問題に限らず、日本から差別をなくすための一歩になればいいなと思っています」

    東京医科大学が女子受験生に不利な得点操作をして、入試試験の合格者数を抑えていた問題で、「医学部入試における女性差別対策弁護団」は3月22日、同大に対して成績開示や慰謝料などを求める集団訴訟を起こす。

    原告となるのは、2006〜18年度に東京医科大を受験した女性約30人だ。弁護団は「点数や結果に関わらず、女性差別の被害を被った」としている。

    そのうち一人の女性は、BuzzFeed Newsの取材にこう胸の内を語る。

    「今回の不正は本当に許すことができない『詐欺』。同じことが絶対に繰り返されないよう、今声を上げる必要がある」

    問題の経緯を振り返る

    東京医科大の不正が報じられたのは、2018年8月。

    10月に公表された第三者委員会の調査報告書によると、同大では2006年から、一般入試とセンター利用入試の2次試験で出題される「小論文試験」で、受験者の属性に応じた得点操作をしていたという。

    2018年度の試験では、全受験者の小論文の得点に0.8をかけた上で、現役〜2浪男子には10点、3浪男子には5点を加点。

    女子受験生は20%減点されるだけで、加点されていなかった。

    こうした点数操作の背景には、女性医師はやがて出産や育児で、職場を離れたり、勤務時間を減らしたりせざるを得なくなるという考えがあったと、内部調査委員会は指摘している。

    文部科学省は問題を受けて、全国の医学部を対象にした調査を実施。複数の大学で、女性や多浪生に不利な入試が行われていた疑いがあることが明らかになっている。

    浪人を重ね、孤独の中に

    「不正に点数が操作されていたことを知った時は、自分が今まで費やしてきた時間や努力が全て踏みにじられたような気がしました」

    原告の一人の鈴木飛鳥さん(20代、仮名)は、取材にそう語る。

    鈴木さんは3年度にわたって、東京医科大を受験。いずれの年も一次試験を通過することができなかった。現在も医学部を目指す浪人生だ。

    医者になりたい。そう決めたきっかけは、幼稚園生の頃までさかのぼる。

    転んで額を深く切り、救急車で運ばれた。その先で、「傷が残らないように」と優しく治療をしてくれた医師の姿が脳裏に焼き付いた。

    受験勉強を始めたのは、高校2年生のころ。浪人1年目と2年目は週5〜6日で予備校に通い、授業後や休みの日も教室が閉まるまで自習室にこもった。

    浪人3年目からは予備校に通うお金がなかったことや、自分の長短に合わせて学ぶ必要があると感じたことから、たまに個人経営の塾へ出向くほかは、一人で勉強を続けた。

    壁も、机も、電気も、目がチカチカするほど真っ白な部屋。三方が壁に囲まれたブースで、黙々と参考書や赤本をめくる日々。

    人と話す時間はほとんどなく、強い孤独感の中に落ち込んでいく自分を感じていた。

    「どうして抗議しないのか」

    「浪人を重ねていると自信がなくなって、自己肯定感もどんどん下がり、人に会いたくない、話したくない、と感じるようになりました」

    「夜、暗い部屋で一人になると、足りないものばかりが見えてきて…。本当にいつか医学部に入ることができるのか不安で、考え始めると眠れませんでした」

    不正については、塾から帰宅した夜遅く、憤る母から聞かされて知った。受験勉強に集中するため、当時はテレビやインターネットはあまり見ていなかった。

    「聞いたときは、まず『嘘でしょ?』と思いました。浪人生が不利になる可能性があることは何となく知っていましたが、それでも試験は点数勝負だと思っていたんです」

    「ネットで『女子の方が不利になることは周知の事実でしょ』という書き込みも見ましたが、ならばどうして抗議しないのか。『詐欺』だとしか思えませんでした」

    「二度と同じことを繰り返さないために」

    原告の中には、鈴木さんのように一次試験しか受けていない人から、二次で落ちた人、第三者委員会らの調査の結果、不正がなければ合格していたことがわかっている人までいる。

    弁護団は「女子受験生を一律に差別する不正な入試を受けさせられた」としており、点数や結果に関わらず、女性差別の被害を被ったと言える、と主張している。

    現時点ではまだ詳細な成績や順位がわからない原告に関しては、訴訟の過程で開示を求め、合格ラインを超えていた場合は、追加で慰謝料を請求する方針だという。

    だが、鈴木さんは「慰謝料は手に入っても、入らなくても構わない」と話す。

    二度と同じような差別が繰り返されないようにすることが、何よりも大事だと考えているからだ。

    「なぜ人の人生を性別で品定めして、足切りみたいなことをするのか。今回の問題は、各大学を仕切る上の人たちに、男尊女卑的な古い考えを持っている人が残っていたから起きたのだと感じています」

    「少しでも黙ってしまったら忘れられるし、差別をしていいんだということになってしまう。この訴訟が、医学部の問題に限らず日本から差別をなくすための一歩になればいいな、と思っています」