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キャンパスで命を落とした後輩は「まさに私」だった。卒業生が大学に“居場所”をつくる理由

「大学は、同じキャンパス内でも安全な時間・場所と、安全じゃないところが同居しているような状態。そこに来れば、誰かに対応してもらえると思える場所があることが大事なんです」

ゲイだということを同級生に暴露された一橋大ロースクールの学生(当時25)が、キャンパス内の建物から転落死した「一橋大アウティング事件」から、まもなく4年が経とうとしている。

事件の記憶を忘れず、いま一橋大学で学ぶ学生たちが安心できる場所をつくるために、同大の卒業生が任意団体「プライドブリッジ」を設立した。

一橋大ジェンダー社会科学研究センターと共同で、ジェンダーやセクシュアリティに焦点を当てた寄付講座や、LGBTQ当事者やその友人たちが集えるコミュニティスペースなどを運用する予定だ。

「おまえがゲイであることを隠しておくのムリだ」

一橋大アウティング事件が起きたのは、2015年8月。

亡くなった学生は自分のセクシュアリティを隠して生活していたが、ある同級生が、友人約10人が参加するLINEグループに、「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」などと投稿。

ゲイだということを暴露した。

その日を境に、学生は心身に不調を来たし、心療内科に通うように。大学のハラスメント相談室などにも相談したが、8月24日、キャンパス内の建物から転落し、命を落とした。

事件をめぐっては、安全配慮義務を怠ったなどとして、遺族が大学側を提訴。

一審の東京地裁(鈴木正紀裁判長)は今年2月、原告側の請求を棄却したが、遺族は控訴し、係争が続いている。

「まさに私だった」

「あの事件が起きたとき、自分が記憶のどこかにしまい込んで、忘れてしまっていたものがわっと全部蘇ってきました」

「やはり学校の中には安心できる場所が必要だし、生徒の中にも、教職員の中にも、LGBTの人がいて当たり前だという認識を共有できているキャンパスを作っていく必要があると、強く思いました」

そう語るのは、今回「プライドブリッジ」を立ち上げた松中権さん。2000年に一橋大学を卒業し、電通を経て、LGBT当事者を支援するNPOなどで活動している。

自身もゲイで、「カミングアウトすることが選択肢にもなかったような時代」に同大法学部に通っていた松中さんにとって、事件で亡くなった学生は「まさに、私でした」という。

どう答えれば、一瞬の笑いで終わって、これまで通りの仲間たちに戻れるんだ。

ゲイってことが、なかったことになるんだ。

(中略)みんなとの関係が崩れる。

どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。

亡くなった彼の、心の声が聞こえてくるようでした。大切にしたい仲間たちとの関係と、自分らしく生きたいけど生きられない葛藤との間で、なんとか辻褄を合わせ、帳尻を合わせ、ごまかし、嘘をつき、一緒に笑い、笑ったふりをし、楽しんでいるふりをする。

それは、私自身が一橋大学での4年間、毎日、経験していたこと。私自身の心の声でもありました。

(松中さんがハフポストに寄稿した記事「『彼は私』でした。一橋大アウティング事件で、電通を辞めて向き合ったひとつの感情。」より引用)

「そこに行けば、誰かがいる」

松中さんは、事件の一審判決の日に「プライドブリッジ」設立を表明。同大の在学生と卒業生に参加を呼びかけたところ、8月8日までに、129人の賛同が得られたという。

寄付講座(全13回)は9月から開講され、在学生が対象になる。

東京レインボープライド代表の杉山文野さんや、LGBTQに特化したキャリアフォーラムなどを開催している「NPO法人ReBit」の薬師実芳さんのほか、行政の職員や政治家などが、講師を務める予定だ。

コミュニティスペースは、学内の一室を確保し、LGBTQに関する資料を閲覧したり、当事者やアライが安心して交流したりできる場を目指すという。

プライドブリッジ副会長の川口遼さん(首都大学東京子ども・若者貧困研究センター特任研究員)は、「事件を受けて、自分たちは守られないのかと不安に思った学生さんは少なからずいる。まずは彼らが集まれる場所になればいいなと思っています」と話す。

同じく副会長の神谷悠一さん(LGBT法連合会事務局長)も、キャンパス内に安心できる場所がある重要性を強調する。

「大学は、同じキャンパス内でも安全な時間・場所と、安全じゃないところが同居しているような状態。そこに来れば、誰かに対応してもらえると思える場所があることが大事なんです」

9月18日にはキックオフイベントが開かれ、プライドブリッジと一橋大学社会学研究センターの協定調印式も執り行われる。

プライドブリッジに関する問い合わせは、hit.pride.bridge@gmail.com へ。