再始動するMERYは「量より質」 山岸社長が目指す学生ライターと編集部の融合

    MERYの山岸博社長と江端浩人副社長がBuzzFeed Newsのインタビューに答えた。

    若い女性に圧倒的な人気を誇ったメディア「MERY」が再開する。著作権と正確性の問題で休止して1年。復活への戦略に注目が集まる。

    DeNAが掲げたキュレーションメディア戦略の中核だったMERYだが、DeNAは単独での再開を断念。8月に小学館と共同出資で「株式会社MERY」を設立し、再開に向けて準備を続けていた。

    BuzzFeed Newsは山岸博社長と江端浩人副社長にインタビューした。再開が決まってから、2人がメディアの取材に応じるのは初めて。

    要点をまとめた。

    • 編集部は大学生ら「公認ライター」50人を含めて100人規模
    • 公認ライターの記事を校閲と編集者でチェックして公開
    • 画像の著作権確認を徹底する
    • コンテンツの量よりも質で勝負する
    • 配信先はまずはアプリとサイトで
    • 動画コンテンツにも取り組む
    • 収益目標よりもまずはユーザー満足度を追求する


    山岸社長は小学館副社長で、「プチセブン」や「CanCam」を人気雑誌に育てた立役者でもある。MERYとは全く異なる編集体制について、こう語る。

    前のMERYと同じものを作ることはできない。今回は量より質を重視していかないとならないし、色々な出来事が起こった中で、すぐまたトラブルを起こすわけにもいかない。すごく慎重に立ち上がらないといけないなと考えています

    中身を具体的に見ていく。


    100人体制、プロが校閲

    記事を書く中核となるのはMERYが採用面接をし、研修を実施した「公認ライター」だ。女子大学生を中心にすでに約50人いるという。

    旧MERYのときも同様に女子大学生を中心とする「インターン」140人が記事を書いていた。呼び名は異なるが、アルバイトのライターと言える。

    旧体制と異なるのは、彼女たちが書いた記事を小学館で経験を積んだ校閲と編集者が2重チェックする点だ。また、著作権の侵害があると批判を受け、画像の利用については、権利者に逐一確認をとるチームを設ける。

    公認ライター50人を含めて、総勢100人規模。編集部も公認ライターも引き続き募集しているという。

    「読者に近い人」が作るリアリズム

    旧MERYでは、プロのライターではなく、女子大生の書いたコンテンツが、著作権や正確性の面で批判を呼んだ。なぜ、その体制を続けるのか。

    山岸社長は公認ライターを「読者に近い人たち」と呼び、こう話す。

    「僕らは雑誌を作るとき、読者のリアリズムを追求してきました。そのリアリズムをオープンにしていくことが楽しいことだと思っていて、公認ライターも年齢が(読者と)ぴったり合っている人が作る原稿は、読者のリアリズムと近いところに一番フィットするものになると思う」

    旧MERYが持っていた特徴の一つ。友達の間で知りたいこと・伝えたいことを共有すること。それ自体は新MERYにも残す形だ。

    「原稿自体がすごく完成されてるとか、写真が完成されているとかではないけれど、訴えるものが大きいと思います」

    コストは激増、「とにかくやっていこうぜ」

    「量よりも質」の方針は、140人のインターンが月約6000本の記事を書いていた旧MERYから大きな戦略転換となる。

    旧MERYはアプリ内で「欲しいものが見つかる」状態を作り上げ、読者がアプリに長時間とどまることが特徴の一つだった。

    2重チェックを入れ、画像の使用許諾を徹底することで、記事1本あたりのコストはどれだけ上がるのか。

    「すごく多いですよね。編集と校閲が赤を入れて戻して、それで書き直して、その間に画像の権利確認を一人ひとりしてとなると…。以前は(書き上げたら)すぐにアップしていたので、その時と比べるとかなりの時間がかかっています」

    昨年の問題発生後に、DeNAのメディア事業本部長に就任し、MERY事業を引き継いだ江端副社長はそう語る。

    記事1本あたりにかかる時間やコストが増えれば、当然、記事本数は減る。

    現状では、月に公開する記事の目標本数は定めず、11月21日の再始動に向けて準備が完了している記事も数十本程度だという。

    黒字化に向けた成長戦略をどう描いているのか。その質問に山岸社長は「あまり先のことは考えずに、読者と対峙して体質を変えていく」と話す。

    「基本的にはとにかく始めて、反応を見て、こうしていこう、ああしていこうと、可塑的な編集体制をとるんじゃないかなと思うんですね。小学館は伝統的に『とにかくやっていこうぜ』みたいな会社で」

    「収益目標よりユーザー満足度」

    旧MERYをはじめとするDeNAのキュレーションメディアでは、上層部が掲げた高い数値目標から逆算する形で事業を作り上げた結果、記事制作やチェック体制に無理が生じた。

    その反省もあるのか。江端副社長は「まずはマイナスからのスタートを払拭したい」と言う。

    「黒字化はもちろん早ければ早い方がいいと思います。でも、収益目標に向かっていくというよりは、ユーザーの満足度やブランド価値を上げることに集約していけば、収益は後からついてくるんじゃないかなと」

    「まず、そこを確立しないと、収益構造を作っても意味がないと思うんですよね。マイナスからのスタートという部分もありますので、価値を認めていただくことにまずは注力したい」

    動画コンテンツにも注力

    MERY再開の発表の場となった10月27日の小学館の説明会では、新MERYの世界観を表したイメージ動画も公開された。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    この動画は、MERY編集部内に設けられた動画チーム約10人が制作したもので、今後も動画コンテンツは積極的に配信していきたいと語る。

    記事や動画の配信は、まずは自社サイトと公式アプリから始める。他のプラットフォームへの配信は、順次慎重に検討を進めていきたいとしている。

    “紙の老舗”がIT大手と組む意味

    問題発覚後、一時は自力で再建を目指したDeNA。だが自社のみでの再建は厳しいと判断し、小学館と組んで老舗出版社の編集ノウハウを取り入れることで、信頼性を担保しようと考えた。

    一方、“紙の老舗”でもある小学館にとっても、「多少赤字が出ても十分ペイできる技術的ノウハウが学べる」と山岸社長は言う。

    「古い会社だとなかなか体質改善できないんです。僕らはどうしても雑誌を中心に会社を作ってましたから、みんな心の中で紙が大切っていう人間が多いんで」

    「だから、やっぱり僕らはテクニックが何もないんです。サイト作りでも、たくさんの人に読まれるようなものにする技術ってないんですよ。だからそういう意味では、DeNAさんのスタッフに関わってびっくりしました」

    期待と批判の中での再スタート

    11月21日にMERYが再開するというニュースを受けて、ネット上では旧MERYファンだった人たちから歓迎の声が上がった。

    一方で、実際に自分の画像が無断で利用されていたと憤りの声を上げた人たちもいる。そういった声については、江端副社長は「旧MERYに関しては、これからも一人一人のご相談にDeNAとして真摯に対応していきます」と話す。

    批判の声がなくならない中で、あえてMERYの名前を引き継いでブランドを再開することについて、山岸社長はこう話す。

    「旧MERYにはミスもありましたけどもいいところもあって、多くの方に信頼され、多くのユーザーを持っていたメディアだったと思うんですよ」

    「それは大事にしてあげたいなと思うし、MERY再開してほしいなっていう読者のニーズにも応えてあげたいなっていう気持ちもあります。それでMERYっていう名前で行こうよという話にしました」

    旧MERYを超えられるのか

    旧MERYが築き上げたブランドと、対象はほぼ若い女性に限られるのに月間利用者数2000万人というユーザー数は巨大だ。

    だからこそ、女性向けメディアが乱立する中で1年という空白があったにも関わらず、注目が集まる。

    MERYの創業者で代表取締役だった中川綾太郎氏は、かつてこう言っていた。

    僕は自分がわからないサービスのほうがちゃんとヒアリングとかをして考えられると思ってるんですね。

    例えば、自分が男性ファッションがすごく好きだとすると、「これはダサいから、自分の感性的に載せられない」とか「もっとこうしたほうが絶対いい」とか、そっちに引っ張られやすいかなと思っていて。

    なので、あまり自分が男性だからとか気にせず、マーケットで見て。ヒアリングを重ねて、受け入れられるものを作る。スタンスとしては、「受け入れられるものを作る」というのが、サービスの基本的な作り方のポイントだと思ってやっていますね。(logmi

    若い経営陣がファッションに関する専門知識やセンスに頼らず、UU、滞在時間、直帰率、リターンレートなどデータを冷静に分析し、急成長を遂げたMERY。

    買収でその事業を引き継ぎ、小学館と組む道を選んだDeNA。

    山岸社長は公認ライターの記事をチェックする編集部に「あまり赤入れをするな」と指示しているという。

    同年代に刺さる「生き生きした言葉遣い」を活かすためだ。

    編集の舵取りを担う小学館は、MERYの世界観と伝統的なコンテンツづくりをどうバランスさせるのか。新MERYの始動は、11月21日だ。



    BuzzFeed JapanNews