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「隣にいるはずのパートナーが、ここにはいない」彼が匿名で裁判を起こす理由

「でもこの裁判で勝って、最後には顔を出して、笑って終わりたいと思います」

「隣にいるはずの僕のパートナーが、この記者会見にはいません。彼は会社や家族にカミングアウトしていないからです」

2月14日、全国13組の同性カップルが、結婚する自由や権利を求めて、国を相手取り一斉に提訴した。

原告に立つ13組26人のうち、約半数が実名を公表していない。東京地裁に訴状を提出した佐藤郁夫さん(59)のパートナーよしさん(50代)も、その一人だ。

「本当はここにいたかったと思う」

佐藤さんとよしさんが一緒に暮らし始めたのは、2003年の冬に遡る。

佐藤さんは30代前半の頃にゲイであることをカミングアウト。よしさんは現在も「クローズド」のままだ。

同性のパートナーがいることを伝えたら、会社や家族はどう反応するだろうか。もし転職しなければいけなくなったら。もう歳も50を超えているーー。

「悪いことは何もしてないんだから、本当はよしも顔を出して会見に出たかったと思います」

「でも、カミングアウトした時にどんな差別や不利益を受けるかわからない。よしの場合は一番、その不安があるのだと思います」と佐藤さんは言う。

佐藤さん自身も、30代前半まで、自分のセクシュアリティを否定して生きてきた。ゲイであることはおかしいこと、いけないことだと思い込んでいたからだ。

「学校や会社では本当の自分のことを話せなくて、苦しかった。生きていく上で、居場所がなくなること、つながりが失われることが一番きついです」

「自分たちのためじゃない」と、原告に

よしさんのように、自分のセクシュアリティを公にすることに不安を抱く当事者は少なくない。

電通ダイバーシティ・ラボが今年発表した「LGBT調査2018」によると、職場でカミングアウトすることに不安があると答えたLGBT層は、半数を超えている

今回の訴訟は、数年間続くことが予想される。日本で初めて同性婚をめぐって、国と当事者が争う訴訟として、メディアの注目も非常に大きい。

よしさんは当初は、原告に加わることにも否定的だった。

だが、「自分たちのためだけじゃない」「同じ痛みをを若い世代の人たちに感じて欲しくない」という佐藤さんの言葉で、一緒に裁判に臨むことを決めた。

前に出られる自分たちが頑張るから

佐藤さんは9年前、HIVに感染していることを公表した。パートナーと法的な婚姻関係を結ぶことができるかどうかは、彼がどうやって生涯を終えるかに密接に関わってくる。

「服薬をすることで長生きができる時代になりましたが、それでも死が近くにあると感じながら生きています」

「僕が天国に行く最後のお別れを、最愛の人と手を繋いで迎えたい。臨終の場には家族しか入れないので、その願いは今のままでは叶えられないかもしれません」

14日の会見では、佐藤さんがよしさんのメッセージを代読した。

「原告のよしです。顔出ししないで原告になっています。本当はパートナーと一緒にいつも通り並んでいたいのですが、それができないのが現状です」

「でもこの裁判で勝って、最後には顔を出して、笑って終わりたいと思います」

佐藤さんはよしさんと同じように、クローズドのまま訴訟を見守る当事者に向けて「今は無理に出なくていいよ、と伝えたい」と語る。

「自分がカミングアウトしたいと思うまでは、急がなくていい。それまでは私たち『出られる人』が頑張ります。だから、それまではそっと心の中で応援してくれたら、と伝えたいです」