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マスコミ各社は社員をセクハラ被害から守れるのか。報道15社にアンケート

報道部門がある全国紙、テレビ局、ウェブメディアの15社にアンケート。財務省セクハラ問題への対応、ハラスメントへの姿勢、録音データの提供などについて12の設問を聞いた。

財務省の福田淳一・元事務次官が女性記者にセクハラ発言を繰り返していたと報じられ、テレビ朝日が自社の女性社員が被害を受けたと発表。福田次官は辞任し、処分を受けた。

日本でくすぶっていた「#MeToo」が大きな広がりを見せるきっかけともなったこの問題は、報道の現場で日常的に起きているハラスメントや性差別に光を当てた。

では、記者たちが勤める報道各社は今回の問題をどう受け止め、社員をセクハラ被害から守るためにどのような対策を講じているのか。

BuzzFeed Japanは報道部門がある全国紙、テレビ局、ウェブメディアの15社を対象にアンケート調査を実施。ハラスメントに対する姿勢や取り組み、財務省の問題を受けた対応に関する12の設問を聞いた。

報道各社はセクハラにどう対応しているのか

調査は以下の15社を対象に、4月20〜25日にかけてメールとファクスで実施。BuzzFeed Japanには広報を通して質問を送り、編集長および人事部、社内弁護士などが回答した。この記事は、編集部で独立して執筆・構成している。

  • 読売新聞
  • 朝日新聞
  • 毎日新聞
  • 産経新聞
  • 日経新聞
  • 共同通信
  • 時事通信
  • NHK
  • 日本テレビ
  • テレビ朝日
  • フジテレビ
  • TBS
  • テレビ東京
  • ハフポスト
  • BuzzFeed Japan


全15社から返答があったが、産経新聞(広報部)は「お答えすべきことはありません」と設問に答えなかった。また、日経新聞やフジテレビも詳細な回答を控えた。

日経新聞(広報室):セクハラの状況や対応策などについてはお答えしておりません。ハラスメントには厳正・適切に対処する体制を整えております。

フジテレビ(企業広報室):社としてセクハラなどの通報窓口を設けており、各種研修の際に周知、啓蒙を行なっておりますが、詳細については回答を控えさせていただきます。

女性社員が被害者の一人であると公表したテレビ朝日(広報部)は「当社は当事者につき、回答は控えさせていただきたいと思います」とした。

財務省のセクハラ問題で対応した社は?

財務省の問題を受けて、取材活動中のセクハラ被害に関する実態調査をしたり、全社的な通知を出したりした社はあったのか。

時事通信は、テレビ朝日が未明に会見した4月19日付で、編集局の全部長と国内外の総支社総支局長に、編集局長名の通達を出した。20日付の社内報でも「女性記者に忍耐を強いるような指示や黙殺」をしないよう要請したという。

時事通信(社長室):19日付で境編集局長名の通達を、編集局全部長と国内外の支社総支局長に周知。内容は①取材先によるセクハラ被害から自社の記者を守るため、毅然とした対応をする、②女性記者が取材先からセクハラ被害を受け、相談を持ち掛けてきたら、部内であいまいに処理せず、必ず局の上層部に報告し指示を仰ぐの2点。

また、20日付の社内報で「女性記者に忍耐を強いるような指示や、相談の黙殺をせず、傍観者的な態度を取らない」よう要請。この件に関して社内調査をする予定はありません。

共同通信も23日に社員向けのサイトで呼びかけた。ハラスメントに関する調査は、定期的に実施しているという。

共同通信(総務室):①重要な取材先であってもハラスメントがあった場合には、一人で抱え込まず相談してほしい、②被害が確認されれば毅然とした対応をとる…が基本的考え方です。こうした趣旨を23日にも職員向けサイトで呼びかけました。

ハラスメントについては全職員を対象にしたアンケートを定期的に実施し、個別に対処するとともに社内施策に反映させています。「二次被害」防止策の具体化は課題と認識しています。

毎日新聞は、聞き取り調査の実施を検討していると答えた。

毎日新聞(社長室):新たな聞き取り調査などによる実態把握も検討しています。(ハラスメント対策パンフレットに「取材先やクライアントからハラスメントを受けた場合も、会社として対処しますので相談窓口へ。被害を相談したことによって、不利な立場になることは決してありません」と記載されていることなどを)改めて社内に周知徹底しました。

朝日新聞日本テレビTBSハフポストBuzzFeed Japanは、通知時期などの詳細を明かさなかったが、対応はしていると答えた。

朝日新聞(広報部):被害があれば社内の相談窓口などに遠慮なく相談するよう、改めて社員に呼びかけています。

日本テレビ(広報部):報道局では、記者が取材対象者からセクハラを受けるなどした場合には、速やかに上司に報告するよう指導していて、会社として適切に対処することを心がけています。今回、報道局では、改めて取材の基本ルールを確認するとともに、ハラスメント被害が生じた場合の被害者保護の徹底を周知しました。

TBS(広報部):今回の事態を受け、取材現場でセクハラなどの被害を受けた場合には、直属の上司に報告、相談するように改めて指示を出しました。そのような事案が認められた場合には、記者・ディレクターの保護を優先することにしております。

ハフポスト:編集会議や個別面談を通して、被害の把握を進めるとともに、被害があれば速やかに上長や相談窓口に連絡するよう、繰り返し社員にメッセージを出しました。取材のためにハラスメントに耐える必要はないと、周知徹底しています。

取材活動のあり方は、必要に応じて、常に柔軟に見直しています。

BuzzFeed Japan:被害があればすぐに相談できるように改めて呼びかけていきます。取材手法のガイドラインなどを改めて整備することを検討しています。

セクハラ相談窓口の体制は

「過去5年間で社として認知したセクハラ事案の件数」を問われて「ない」と答えたのは、ハフポストのみだった。その他の社は、プライバシー保護などを理由に明言しなかった。

セクハラ相談・通報窓口の有無については、アンケートへの詳細な回答を控えた社を除いて、ほぼ全社が何らかの体制を整えていると答えた。

なかでも、朝日新聞読売新聞毎日新聞共同通信NHK日テレテレビ東京の7社は、相談者の匿名性や、窓口の独立性を担保するために外部の相談窓口も設けていると回答。カウンセラーなどの専門家に委託している社もあった。

読売新聞(広報部):社員に限らず、取引先の従業員なども含め、匿名での相談も受け付ける社外の窓口を複数設け、独立性も担保しつつ、適切な対応に努めています。窓口の中には、女性記者や社員が相談しやすいような、民間事業者の女性専門カウンセラーが対応するものもあります。

毎日新聞:社内に「ハラスメント相談窓口」を設け、各本支社に担当者を置いています。ヘルスケア企業と提携し、社外の相談窓口も整備しています。

社外の相談窓口については、相談者本人の同意がない限り、プライバシーに関わる報告は会社にもしない決まりになっています。

NHK(広報局):ハラスメントの相談窓口として、上司や総務担当管理職による「社内窓口」と、社外の専門家に匿名でも相談できる「社外窓口」の2つを設け、相談や通報の受付を行っています。

「ハラスメント防止規程」に、秘密保持義務の条項を設けているほか、「社内窓口」の担当管理職に対して、研修等を通じて適切な対応ができるよう努めています。「社外窓口」とは秘密保持契約を取り交わして運用しています。

一方、時事通信は人事部長を相談窓口に指定し、「内容聴取は女性の人事部員に委任する運用」をしていると答えた。

ハフポストは顧問弁護士事務所や「代表取締役やCEOで構成される相談窓口」、編集長を相談先に挙げた。BuzzFeed Japanは「相談窓口を設置し、直属の上司や他部門の上司、社内弁護士も相談に応じます」と回答した。

セクハラ問題に詳しい角田由紀子弁護士は、各社が最低限用意すべき相談窓口の体制について、BuzzFeed Newsの取材に次の項目を挙げている。

  • 相談窓口には、男性と女性両方の相談員を配置する
  • 相談員はハラスメント問題や被害者へのケアについて、ある程度専門的な知識を持っている人物が望ましい。
  • 専門的な訓練を受けた外部のカウンセラーに委託する方法もある
  • 相談窓口は徹底して被害者に寄り添う体制を整えるべき。その後の事実関係の調査や加害者・被害者間の調停は別の部署や第三者委員会などで担い、当事者たちと全く利害関係にない人物が担当するべき


また、ほぼ全ての社がハラスメントに関する規定やガイドラインを設けているとした。中でも毎日新聞と日本テレビは、具体的な内容を次のように答えた。

日本テレビ:当社は「セクシャルハラスメントガイドライン」を設けています。この中で、許されない行為として、「性的な冗談、からかい、質問」「他人に不快感を与える性的な言動」「身体への不必要な接触」など9項目を具体的に示しています。

また、相談者や事実関係の確認に協力した人への不利益な扱いは一切行わないことや、対象者を社員に限定せず、当社で働いているすべての人、さらに顧客や取引先の社員の方も含まれていることなども明示しています。

毎日新聞:企業理念に「あらゆる事業活動において、ひとりひとりの人権とプライバシーを尊重し、性別、年齢、国籍、人種、民族、出身、思想、信条、宗教、疾病、障がいの有無、性的指向、性自認等による差別を行わない」と明記しています。

また従業員就業規則には「健全な職場環境を実現するために、いかなる形でもセクシュアルハラスメントをはじめ他の従業員の尊厳を傷つける行為を行わないこと」と記しています。

音声データの流出は問題か

今回の問題では、被害者であるテレビ朝日の女性社員が福田元次官との会話を無断で録音した音声データを、週刊新潮の取材に提供したことにも注目が集まった。

テレビ朝日の篠塚浩報道局長は4月19日に開いた会見で、「取材活動で得た情報が第三者に渡ったことは、報道機関として不適切で遺憾だ」と述べている。

この点について各社に見解を聞いたところ、何らかの回答を示したのは、毎日新聞ハフポストBuzzFeed Japanの3社のみだった。その他は「他社に関することなので」「詳しい経緯を把握していないため」「取材活動に関わる」などの理由から回答しなかった。

毎日新聞:報道目的で知り得たデータを外部に渡したり、他の目的に使うことは報道倫理上、原則として許されないと考えますが、今回の事案については、財務次官という公人のセクハラを伝えるという公益性もあると考えます。

ハフポスト:一般論として、取材中に取得した録音データを社外に持ち出すことは不適切だと考えます。ただし、これまで弊社が取材した限りでは、今回のテレビ朝日の女性社員の場合は、やむをえない事情があったと考えております。

BuzzFeed Japan:この問題について上谷さくら弁護士に取材した記事の中で「セクハラ告発のための緊急避難的措置」であるとの弁護士の意見を紹介しております。セクハラへの対応という面だけでなく、報道倫理にも関わる複雑なテーマですので、一般論化せず、個別に対応することが必要だと考えています。

“男性社会”の報道の現場で

今回のアンケート調査では、各社に所属している記者の総数と、そのうち女性記者が占める人数も聞いた。

だが、明確に回答したのは15社中、朝日新聞毎日新聞共同通信ハフポストBuzzFeed Japanの5社のみだ。テレビ東京は記者の総数、NHKは女性記者の人数について回答しなかった。

ウェブメディア2社では女性記者が半数を占めるなか、新聞社やテレビ局では2〜3割にとどまった。

朝日新聞:記者2254人中、女性484人(21.5%、2017年4月1日現在)

毎日新聞:記者約1510人中、女性約330人(21.8%)

共同通信:記者約1150人中、女性280人(24.3%。ただし、取材や記事執筆をしない業務の記者も含む。管理職の記者は含まない)

ハフポスト:編集部員15人、女性8人

BuzzFeed Japan:編集部員約40人、約半数が女性

テレビ東京:人数は控えさせていただきます。女性が約3割です

NHK:記者約1200人(男女別についてはお答えしていません)

新聞労連は4月18日に出した財務省への抗議声明で、「多くの女性記者は、取材先と自社との関係悪化を恐れ、セクハラ発言を受け流したり、腰や肩に回された手を黙って本人の膝に戻したりすることを余儀なくされてきた。屈辱的で悔しい思いをしながら、声を上げられず我慢を強いられてきた」と訴えた。

角田弁護士は報道現場における「セクハラ容認」の文化は、マスコミに女性記者の割合が依然として低いことにも起因しているのではないかと指摘した。


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