あの日、池袋で。高齢ドライバーの交通事故が奪ったものを知っていますか。

    「娘と孫が戻ってくるならどんなことでもしますよ。でもどうすることもできないし、どうしたらいいかもわかりません」

    池袋で今年4月、80代の男性が運転していた車が暴走した事故で、妻の真菜さんと3歳の長女・莉子さんを亡くした松永さんが、厳罰を求める署名活動を始めた。

    8月3日には、事故現場の近くで、松永さん一家が家族でよく訪れていたという南池袋公園で協力を呼びかけた。

    朝日新聞などによると、この事故では12人が死傷した。

    警視庁は、車を運転していた旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(88)がアクセルとブレーキを踏み間違えたとみて、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで捜査を進めているという。

    もしこの罪で有罪になれば、7年以下の懲役や禁錮などが科される。

    松永さんは「心情的に、7年は長いとは思えない」と語り、署名を通じて厳罰を求めている。その背景にあるのは、再発防止への願いだ。

    「ハンドルを握る時に、大変な罪になってしまうんだと考えていただくために、しかるべき処罰をしっかりと受けていただくことが、次の再発防止につながると私は思いました。再発防止が一番の思いです」

    「私は妻と娘という大事な命を同時に失ったので、危険な運転をすると、人の日常とか、生活、命を奪ってしまうんだということを少しでも世の中の方々に考えていただけたらな、と思っています」

    松永さんは7月中旬から、ブログを通じて署名への協力を呼びかけ始め、すでに5万筆以上の支援が集まっているという。

    この日の街頭活動でも、署名するために立ち寄った人の足が、朝から絶えなかった。

    街頭署名活動が行われた公園は、松永さんが家族でピクニックをするためによく訪れた思い出の場所だ。報道陣にこう語った。

    「最初はつらくて来れなかったんですけど、僕にとっては大切な思い出の場所で。娘が一番好きだった公園なので、(事故後も)たまにふらふらっときて、やっぱり懐かしさと辛さが込み上げてきて…」

    「休日になったらピクニックをして、すると娘が芝生の上を走り回るんですよ。休日はいっぱいピクニックしている方々がいるんですけど、その間を娘が縫って走って…」

    「『迷惑かけるからダメだよ』って言うんですけど…ここに来ると走り回っている、その姿が思い浮かびます」

    那覇市に暮らす真菜さんの父・上原義教さん(62)も、涙ながらに娘と孫への思いを語った。

    数年前に上原さんの妻が他界した際、真菜さんが「いつでもテレビ電話ができるように」と、上原さんの携帯電話をスマートフォンに変えてくれた。

    1日おきに電話をし、事故の前日にも、夏の沖縄帰省に向けて莉子さんに新しい水着を買った話などをして笑っていたという。

    「莉子は母親そっくりでテレビ電話でも恥ずかしがって…でも3歳になってお話も上手になってきて…。今でも事故が起きたのが夢みたいで、たまにメールを見ては連絡あるかなとか、電話してみようかなとか考えている自分がいます」

    「本当にただ悔しくて、悔しくて、事故があった時から休まる日はありません。娘と孫が戻ってくるならどんなことでもしますよ。署名が10万筆、20万筆集まれば帰ってくるというのなら、歩いてでも署名活動したいですよ」

    「でもどうすることもできないし、どうしたらいいかもわかりません」

    署名は今後、東京地検に提出する予定。郵送でも受け付けている。