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日本は異国。私は外国人。ヒジャブが、着物にこんなに似合うなんて。

「イスラムは本来、美しく、人生を豊かにする教えです。私たちムスリムのヒジャブをまとったファッションスタイルも、実は宗教の枠を超えて、全ての美しくありたい女性が共感して、楽しめるものです」

イスラム圏の女性が身につける「ヒジャブ」と、東京のファッションを組み合わせた新しいスタイルを発信している女性がいる。

ラハマリア・アウファ・ヤジッドさん、24歳。インドネシア人の両親を持つ、東京生まれ、東京育ちのフリーランスクリエイターだ。

どこか他人事だった「ヒジャブ」

ヒジャブとは、「美しいところは人に見せないように」と説いたイスラム教の教えに基づき、ムスリム女性の多くが公の場で被るスカーフ。髪の毛を覆い隠すものだ。

イスラム圏では、イランやサウジアラビアのように、法的、あるいは社会的に女性に対して着用が義務づけられている地域や、そうではない地域、さらに政治と宗教の分離を図ることを名目に、公の場での着用が禁止されていた国もある。

ヒジャブが義務ではない国では、着用する、しないは基本的に本人の意思の問題だ。身につけない人も、人生のある時点で自らの意思で身につける人も、親や夫の求めで着用するようになる人もいる。

アウファさんがヒジャブを身につけるようになったのは、大学に進学した18歳の頃だ。

「親からはヒジャブを身につけるよう強制されたことはなく、自分の好きなタイミングでつければ良いと言われて育ちました」と、アウファさんはBuzzFeed Newsの取材に話す。

「私自身、高校生の頃まではイスラム教を信仰している意識もあまりなく、親がやっているので、自分も追従しているような感覚でした」

「だから、ヒジャブも『自分もいずれはかぶるんだろうな』と、どこか他人事のように感じていました」

ヒジャブと服を「着させられている」感覚

最初にヒジャブを身につけ始めた頃、身近にあったのは、母親から譲ってもらったお下がりや、インドネシアのお店で購入したもの。

「ヒジャブ=東南アジアの宗教着」というイメージも強かったため、合わせる服も、日本のトレンドからはかけ離れた配色や、デザインのものを選んでしまう自分がいた。

「ヒジャブを身につけた学生は、大学の学部内で私一人だけでした。ただでさえ(海外にルーツがあることで)目立つ存在なのに、お下がりのヒジャブやそれに合わせた服で過ごすことで、心が落ち着かずにいました」

「自分で選んで身につけたヒジャブでしたが、内心は、ヒジャブと服を『着させられている』感覚が否定できませんでした」

そんなアウファさんの考えを変えたのは、日本人とイギリス人の両親を持ち、10代でイスラム教に改宗したデザイナー、ハナ・タジマさんの作品だ。

ユニクロで、ムスリムファッションを取り入れたコレクションも手がけるタジマさんのスタイルは、アウファさんの目には「等身大」に写った。

「彼女のファッションは、ゴージャスでも、ビビッドでも、トラディショナルなものでもなくて。言ってしまえば、東京の街ににいても違和感のない『普通のファッション』でした」

「それが私にとっては、何よりの衝撃でした。『東南アジアの宗教着』だったヒジャブファッションが、『等身大の私』に変わった瞬間でした」

この「冷たくせわしない街」で

アウファさんは、彼女が生まれ育った東京を「冷たくせわしない街」と呼ぶ。

その街並みに馴染むヒジャブファッションを作り上げるために、まず始めたことは、日本の文化をよく知ることだ。

「日本のファッションの特徴としてあげられるのは、配色が白、黒、ベージュ、カーキなどといった落ち着いたものが多く、ビビットなカラーや奇抜な模様ものはあまりないことです」

「また、日本人の髪は茶髪や黒髪が主で、ストレート、ボブ、パーマ、ショートなど、その日の服や気分によって髪型を自由に変えています。ヘアスタイルは日本のファッションを構成する重要な要素の一つといっても過言ではありません」

アウファさんはヒジャブを「髪」と見立てて、スタイリングする。配色、素材、巻き方。ヘアスタイルと同じように、布にも流れが生まれるように巻く。

「例えば、顔の軸に対して左右非対称に布の流れを作ることによって、アップバングをしたような印象にすることができます。

「他にも、アクセサリーを用いてメリハリを効かせたり、私は帽子が好きなので、ヒジャブとベレー帽を組み合わせたりしています」

イスラム教では女性の肌の露出が制限されていることも、アウファさんにとってはファッションを楽しむ理由となっている。

「ヒジャブファッションは、首筋やふくらはぎなど、いわゆるスタイルを良く見せるための『肌チラゾーン』取り入れることが出来ません。その結果、全体のバランスを考えることが難しくなります」

「でも私にとっては、これもパズルのようで楽しい。醍醐味だと思っています」

日本という「異国」に住む外国人として

アウファさんが自身のスタイルを発信するInstagramは、1万3千人にフォローされている(3月12日現在)。

また日々、講師として服や体型、顔に合わせたヒジャブの生地の選び方や巻き方をレクチャーしたり、アドバイザーとして商品開発に携わったりしている。

ヒジャブが、ファッションが、楽しくなったことで、同時にムスリムとしての誇りも強くなったとアウファさんは言う。

「私は日本という『異国』に住む外国人であり、イスラム教徒という日本では超マイノリティの宗教を信仰しています。でも、人間として何ら特別なことはなく、普通に生活しています」

「ヒジャブを身につけていても、街に自然と溶け込み、普通に過ごせるという生き方を、普段の人々との交流や、そしてネットの世界を通して伝えたいと感じました」

アウファさんの作品をきっかけに、「ヒジャブをつけ始めた」「イスラムを勉強してみたくなった」などといった声が届くこともある。

しかし、多くの人々が未だにイスラム教に対して「暗く偏ったイメージ」を持っているとも感じる。アウファさんは言う。

「イスラムは本来、美しく、人生を豊かにする教えです。私たちムスリムのヒジャブをまとったファッションスタイルは、実は宗教の枠を超えて、全ての美しくありたい女性が共感して、楽しめるものです」

「だから私は私なりのやり方で、少しでも多くの人々がムスリムのことを知り、偏ったイメージを払拭したり、多様性溢れる社会の豊かさを認識したりするきっかけになれればと思っています」