「有罪」タトゥーと「無罪」のダンス 何が明暗を分けたのか?

    医師法裁判を傍聴した元クラブ経営者の思い

    タトゥーは医療かアートかをめぐって争われた医師法裁判。大阪地裁の判決はほぼ検察側の主張に沿った内容で、タトゥー施術を「医行為」と認定。彫り師の増田太輝被告(29)に対し、罰金15万円の有罪判決を言い渡した。

    この裁判を複雑な思いで見つめてきた人がいる。3年前に同じ大阪地裁で無罪判決を受けた、ダンスクラブ「NOON」の元経営者、金光正年さん(55)だ。

    金光さんは2012年、無許可で客を踊らせたとして風俗営業法違反の疑いで逮捕・起訴された。

    「『ダンスをさせた』として罪に問われることの意味がまだわかりません。私は人生の半分をダンスクラブという表現の場に費やしてきました。『ダンス』として規制することが正当なのか。判決で明らかにしてください」

    こうした法廷での訴えが実り、金光さんは2014年、大阪地裁で無罪判決を受けた。検察側は控訴・上告したが、昨年には最高裁で無罪が確定している。

    無罪判決の影響や、坂本龍一さんら著名人の呼びかけ、15万筆以上を集めた署名運動の広がりもあり、風営法は改正され、条文から「ダンス」の文字は消えた。

    「タトゥーはダンスよりマイノリティー」

    ダンスとタトゥーという分野の違いこそあれ、風営法裁判と医師法裁判には重なる部分も少なくない。

    大阪府警による取り締まりの強化が問題の発火点となったこと。表現の自由や職業選択の自由と法規制が衝突したこと。双方の弁護団に共通して参加する弁護士もいる。

    そうしたこともあって金光さんは増田被告と交流を持ち、医師法裁判を傍聴してきた。しかし、結果は厳しいものだった。

    「ダンスに比べても、タトゥーはマイノリティー。『アウトロー』というイメージが強く、日本ではまだ文化として認められていないんでしょうね」

    「日本から彫り師がいなくなる」

    閉廷後の記者会見。増田被告は即日控訴したことを明らかにし、時折声を詰まらせながら、「悔しい」「納得できない」と繰り返した。

    風営法裁判の弁護団の一員で、医師法裁判の主任弁護人を務める亀石倫子弁護士はこう語った。

    「医師でなければタトゥーを入れることができないとしたら、この国から彫り師という職業はなくなり、日本の文化・伝統が失われます」

    「彫り師という職業の人は日本に数千人しかいません。そしてタトゥーは日本の社会で嫌われがちな存在です。きょうの判決は『そんな人たちの権利や自由なんてどうでもいい』という社会を肯定するものです」

    「多くの人は自分には関係ないと思うかもしれません。しかし、彫り師の職業の自由、表現の自由をないがしろにする社会の冷たさは、いつか私たちに返ってきます」

    風営法改正の背景には、超党派の国会議員連盟の設立や業界団体の設立など、関係者による地道な合意形成の努力があった。

    医師法をめぐっても議員連盟設立を目指す動きはあるが、タトゥーが持つ負のイメージがあだとなり、停滞しているのが実情だ。増田被告の法廷闘争を心良く思っていない彫り師も多い。

    タトゥー裁判の弁護団長の三上岳弁護士は「風営法裁判の時にはすごい熱気を感じた。タトゥーを表現行為として認めない判決に対して、(彫り師の人たちは)もっと怒ってほしい」

    「あまり表立って動く文化ではないのかもしれないが、声をあげてムーブメントをつくっていってもらえたら」と会見で訴えた。

    「業界は一丸となって」

    金光さんには、クラブ業界からバッシングを受けた苦い経験がある。

    「警察とケンカするな、波風を立てるなと同業者に言われましたね。事業者やDJ 、お客さんも最初はバラバラだったけど、段々に意見をすり合わせていきました」

    「だからこそ、彫り師の人たちも足を引っ張り合うのではなく、法改正に向けて一丸となっていってほしい」

    BuzzFeed JapanNews