これであなたもミュージシャン? パソコンのキーボードのような楽器「TYPE PLAYER」がネット上で話題を呼んでいます。
開発した「世界ゆるミュージック協会」は4月17日、東京・銀座の「Ginza Sony Park」でTYPE PLAYERをはじめとする「ゆる楽器」のお披露目イベントを開催します。
演奏動画が38万再生
《タイピングって、ピアニストの手つきに似てる…!と思って新しい楽器をつくりました。毎日資料つくったりメール打ったりしてるビジネスマンをミュージシャンに変えてくれる楽器》
澤田智洋さん(37)が先月、「TYPE PLAYER」を演奏する動画をTwitterに投稿したところ、6200回以上リツイートされ、1万7千を超える「いいね」が集まりました。再生回数は38万回に達しています。
澤田さんは「世界ゆるスポーツ協会」の代表。
「世界からスポーツ弱者をなくす」ことを掲げ、ハンドソープボールやイモムシラグビーなど、ユニークなスポーツの数々を考案してきました。
スポーツから音楽へ。まったく畑違いにも思える挑戦の理由は、どこにあるのでしょうか。BuzzFeedは澤田さんに取材しました。
ビジネスマンがミュージシャンに
――TYPE PLAYERの反響はいかがですか。
「これだったら自分もミュージシャンになれるかも」「ほしい」「体験したい」といった感想をいただいています。嬉しいですね。
――打ち込んだ言葉の意味と音色は連動しているのでしょうか。
いえ、ひとつひとつのキーボードに、ピアノの白鍵・黒鍵のように音を割り当てる仕組みになっています。
「ビジネス文書を打つとそれがメロディーになる」といった方向性も考えたのですが、それだと音楽の幅に限界が出てきてしまうので。
ビジネスマンの方は日常的にタイピングをしていて、手元を見ずに打つことも、速弾きも得意です。
コツさえ掴んでしまえば、窓際のビジネスマンも素敵なミュージシャンになれるんじゃないかなと。
「ッターン!」もパフォーマンス
――ある意味、日頃から練習しているようなものですもんね。
あまり練習する時間のないビジネスマンも、日ごろ行っているタイピングの動作をそのまま生かすことができます。
たとえば、エンターキーをすごく大きな音で「ッターン!」って叩く人、いますよね。
うるさいなと思うんですけど、楽器のパフォーマンスとして考えると、迫力があってカッコイイかも、みたいな(笑)
楽器には官能性が必要
――パソコンにソフトを入れるのではダメなんですか。
そういう意見もありましたが、楽器ってやっぱり触れる喜びがあると思うんです。機能性だけでなく、官能的なプロダクトとしてのセクシーさがほしい。
そこで企画制作会社のトンガルマンさんにお願いして、独立したハードウェアとしてつくっていただきました。
「世界ゆるミュージック協会」では、すベての人をミュージシャンにしたいと考えています。
楽器を演奏する習慣のない人たちにも弾けるように、コンセプトの異なる楽器をいくつかつくっています。
ポーズでコードを鳴らす
――ほかにはどんな楽器を?
「POSE GUITAR」はリストバンド型のデバイス。ソニーさんの技術を使っています。
腕を右に動かすとCのコードが鳴り、上に伸ばすとFが鳴る、という風に設定でききる。腕をどこに伸ばすか、どういうポーズをとるかによって響くコードが変わってくるわけです。
ギターってコードを押さえられない人が多い。昔はできたのに、筋力が弱って押さえられなくなった高齢者もいると聞きます。でもこの楽器なら、ポーズさえ取れればコードを鳴らすことができる。
踊りの要素が入ってくるので、パフォーマンス性が高い。演奏しながら、スポーツに近い心地よさも味わえます。
重度の障害がある子どもたちが、介助者や親御さんと一緒に体を動かし、音を鳴らすようなことも考えられますね。
乾杯でハーモニー
「和音 GLASS」は乾杯をして和音をつくるワイングラスです。落としても割れなにくい、かなり強度のあるものを使っています。
人って乾杯すると仲良くなりますよね。だったら楽器演奏のなかに乾杯という動作を入れられないかと。
1曲のなかでグラスを持ち替えて、何回も乾杯するんです。3〜4分の曲だと、多ければ50回ぐらい。
乾杯という日常の動作が入る分、ハンドベルに比べてもとっつきやすいかなと思います。
楽チンすぎるサックス
「ウルトラライトサックス」は、手のひらサイズのサックス。
「BLUE GIANT」という漫画の影響で、サックスの人気が高まっています。ただ、サックスは難しいし、サイズも音量も大きい。ハードルの高い楽器でもあります。
ウルトラライトサックスは、カズーという楽器が元になっていて、どこかを押さえたりしなくても弾くことができる。自分の発する声で音の高低をとるので、直観的に演奏できます。
リアルタイムでオートチューンするから、多少音程がズレても大丈夫。サックスのハードルを全部取り去った楽器です。
小さくて軽いので、筋力の弱い子や寝たきりの人たちで、バンドを組むこともできるかもしれません。
楽器弱者はスポーツ弱者より多い
――そもそもなぜ、スポーツの協会が音楽に取り組むことになったのでしょう。
世界ゆるスポーツ協会のミッションは、スポーツ弱者をなくすこと。最新の統計によると、日本でスポーツをしていない人は45%弱います。
(※スポーツ庁による2018年度の調査では、 週に1 日以上運動・スポーツをする成人は55.1%)
一方、日本人の楽器演奏者は極めて少ない。
様々なデータの取り方があるので一概には言えませんが、日常的に楽器を演奏している人は5〜10%ほどしかいないと言われています。
裏返すと、9割の人たちは楽器を演奏していない。スポーツ弱者以上に「楽器弱者」「音楽弱者」は多いわけです。
(※2016年の社会生活基本調査では、楽器の演奏を趣味・娯楽とする人は10.9%)
いま僕は広告代理店で働いているのですが、もともと音楽がすごく好きで、バンドをやっていました。
ゆるスポーツでずっと取り組んできたことを、音楽でもできないか。そう考えたことが、世界ゆるミュージック協会設立のきっかけです。
多種多様な「ゆるスポーツ」
――ゆるスポーツでの知見は生かせそうですか。
これまで40種類以上のゆるスポーツをつくってきましたが、それぞれにコアターゲットが違っていて。
高齢者とつくったものもあれば、未就学児の親子向けのもの、視覚障害者や身体障害者の方とつくったものもある。共通するのは、みなさんスポーツが苦手ということです。
当事者と一緒につくるノウハウは、ゆるスポーツでめちゃくちゃたまっているので、ゆるミュージックにも横展開していきたいですね。
ゆるスポーツでは、ほかにも「いちアスリートに、いちスポーツをつくる」という試みをしてきました。
ゆるミュージックでも「いちアーティストに、いち楽器をつくる」というようなことができると、アーティストさんが差別化を図れるのではないかと思います。
ゆるライゼーションを世界へ
――普通の楽器に比べると、「ゆる楽器」は敷居が低いですね。
恐怖心をどう拭うかって大事。コンプレックスをコンテンツで解消したいんです。
僕は「ゆる」っていう日本語が世界一好きで。その素晴らしいコンセプトを日本社会にちゃんと生かしたいし、世界にも広めていきたい。
人間の営みって放っておくと硬直化していくし、敷居が高くなっていく。それを戦略的にほぐすことを「YURULIZATION(ゆるライゼーション)」と呼んでいるんですけど。
スポーツも楽器も、もともとはみんなのものだった。あらゆるクリエイティビティーを使って、もう一度みんなのものに戻すのが、ゆるライゼーションです。
ゆくゆくはスポーツや音楽も含めた「ゆるカルチャー」として世界に発信していけたら、と思っています。