タトゥーを入れた精神科医 遠迫憲英が語る「46歳の決断」と法規制への思い

    「タトゥーは医療ではありません」

    40歳を過ぎてタトゥーを入れた精神科医がいる。岡山市内の精神・心療内科「HICARI CLINIC」の院長、遠迫憲英医師(47)だ。遠迫さんは12月10日、那覇市内で開かれたシンポジウムで、決断の理由や医師法による彫り師の摘発について語った。

    「入れてもいい?」子どもに聞いた

    遠迫さんが登壇したのは、展覧会「自営と共在」の関連シンポジウム「『タトゥー裁判』から考える、表現と自由の現在地」。今年2月にタトゥーを入れた経緯を、こう振り返った。

    「もともと刺青をカッコイイと思って生きてきました。ただ、入れてしまうと、子どもと一緒に公衆浴場や健康ランドに行けなくなってしまう、というのが大きかった」

    「子どもも大きくなって一緒に入ることもなくなったし、『入れてもいい?』と聞いたら、『全然構わないよ。カッコ良くやってね』と言われて。よし、やろうと」

    そのころ個人的に「つらい体験」が重なったこともあり、「このつらさを絶対に忘れたくない。体に刻んでおこう」とタトゥーを入れることを決意したという。

    想定外だった痛み

    20代のころから「トライバル」と呼ばれる部族的な文様のタトゥーに関心を抱いてきたが、自分自身が入れることの必然性を見出せなかった。

    そんな遠迫さんが惹かれたのが、縄文土器や土偶の文様に着想を得た「縄文タトゥー」だった。

    縄文タトゥーを手がける彫り師の大島托さんに依頼し、1回2〜4時間、計3、4回かけて右肩から腕にタトゥーを入れた。いまも右足に彫り込んでいる最中だ。

    想定外なのは痛みだった。

    「筋彫り(縁取り)だけでメチャクチャ痛くて。タトゥーを入れている人たちはこんな痛みに耐えてきたのか、とビックリしたんですよ」

    「なんでこんなことをしているのかと自問自答して。ネガティブな気持ちを昇華して、苦しさに対して落とし前をつける感覚。リストカットをしている患者さんの気持ちがわかりましたね」

    判決に違和感「他人事と思えない

    医師免許なしにタトゥーを入れることは医師法違反にあたるとして、近年、彫り師の摘発が相次いだ。大阪地裁は9月、彫り師の男性に対して罰金15万円の有罪判決を言い渡した。

    「『タトゥーは医療ではありません。医師でなければタトゥーを入れてはいけない』という判決には、非常に違和感を覚えます」

    「タトゥーは非常に根源的な文化で、ある種の『衝動』として古くから存在してきました。自分自身が入れていることもあり、他人事とは思えませんでした」

    衛生面の制度設計を

    難関の医師免許取得を彫り師に義務付ければ、事実上の「タトゥー禁止令」にもなりかねない。彫り師たちからは、タトゥーに特化したライセンス制度を求める声も上がる。

    「医師としても顧客としても、衛生面は気になるところです。問題になるのは、感染症の防止や創傷治癒のケア。ホームページなどで対策を説明している店もあるが、よくわからない店もあります」

    「この店は器具の滅菌や使い捨てなどの処置をちゃんとやっている、と制度化することで、お客さんも安心して行くことができる。タトゥーを入れる層も広がると思います」

    クリニックでフェス開催

    昨年12月と今年7月には、クリニックを開放して「HIKARI FESTIVAL」を開催。患者らに楽しんでもらおうとDJやアーティストを招き、彫り師によるタトゥーの実演も行った。

    普段の診察時はタトゥーが見えないように長袖で隠しているが、7月のフェスでは「カミングアウト」した。「まったく反発はなく、皆さん好意的な反応でした」

    「自由になれず、抑圧されている患者さんは多い。『医者がこれだけ自由にやっているんだから、あなたたちも好き勝手やっていいんだよ』と伝えたかったんです」

    医師として異色の活動を続ける根底には、マイノリティーへの眼差しがある。

    「もしタイミングが違っていたら、自分が診察を受ける側になっていたかもしれない。絶えず自分と誰かの『入れ替え可能性』を考えることが、住みやすい社会につながっていくのではないでしょうか」

    (えんさこ・のりひで) 精神保健指定医、日本精神神経学会認定専門医。医療法人「啓光会」理事長。1970年、岡山市生まれ。1998年に医師国家試験に合格。川崎医科大学精神科学教室に入局後、財団法人河田病院での勤務を経て、2009年に「HICARI CLINIC」開院。

    BuzzFeed JapanNews