人気YouTuber「世界一儲かる投資」「利回り80%超!?」 紹介動画が波紋

    「ラファエルさんの言葉を鵜呑みにせず、自己責任で判断を」

    200万人以上のチャンネル登録者を抱える人気YouTuber、ラファエルさんのある動画が波紋を呼んでいる。

    「成上りたきゃ見ろ!利回り80%超え!?世界一儲かる投資の現場に潜入」と題した動画は、11月29日の公開以降、再生数が35万回を超える。

    コメント欄には「これは凄い」「勉強になる」といった感想の一方、「怪しい」「信じられない」など信憑性を疑う声も多数寄せられている。

    BuzzFeedは、「東京投資被害弁護士研究会」役員の田上潤弁護士に取材。視聴者が注意すべき点などを聞いた。

    「絶対、俺自信あるんで」

    動画は「最も利回りの良い投資」として、埼玉・所沢で行われている水耕栽培の現場を紹介する30分弱のもの。

    ラファエルさんは冒頭で、次のように語っている。

    「いまやってる投資類全部やめて、こっちに入れたいってぐらいですね」

    「本当に冗談抜きで、見た後絶対、この投資やると思う! 絶対、俺自信あるんで」

    「補助金で84%に」

    顔にモザイクがかかった状態で動画に登場する「技術者」だという男性によれば、投資の利回りは葉物野菜で10.2%、高麗人参などの機能性野菜で42%

    「2年半とかでペイできちゃうんですか? 不動産投資もやってるんですけど、そんなものより全然良いですよね」と相槌を打つラファエルさん。

    これだけでも相当な高利回りだが、男性はさらに「今年の10月に農水省が発表している補助金も対象になります。それによって84%になります」と話す。

    説明を受けたラファエルさんは「84%本当に凄くないですか?」と驚きの声をあげる。

    「4倍のスピードで収穫」

    高利回りの理由について、動画では以下のように説明されている。

    「通常の農業より4倍のスピードで収穫出来る」

    「特殊技術により、本来100日かかる所を25日で完成するので、利回りが早くなる」

    「水耕栽培は通常、蛍光灯を6本から8本必要とされているが 3本でも育てれる技術が施されているのもコスト削減の理由」

    「蛍光灯の数が3本で行っている為 赤字の会社と圧倒的な差がつけられる」

    (いずれも原文ママ)

    「じゃあ完璧ですね」

    こうしてつくられた野菜は、どのようなルートで販売されるのか。ラファエルさんの質問に、男性はこう答える。

    「(高麗人参の場合)国内で3社、国外で3社。国内は大手製薬メーカー、海外はサプリメントメーカー。月に20トンのオーダーを頂いている」

    地震や落雷などのリスクも話題にはのぼるものの、

    「農業だから地震保険が適用されるんですよ」(ラファエルさん)

    「例えば落雷があって電気類が壊れた場合にも電子器具を保証する保険もございます」(男性)

    として、最終的には安全性が強調されている。

    説明を受けたラファエルさんは「保険入ってれば大丈夫なんだね」「すごいな。じゃあ、もう完璧ですね」とうなずく。

    LINE@に登録すると…

    ラファエルさんは動画の終盤、こんな風に語っている。

    「気になる方は、動画概要欄見てもらえれば連絡先あるんで。僕も多分、この投資普通に始めて、もしかしたら1年とか2年とか。こんな感じですっていうのを、今後やっていくかもしれないんで」

    概要欄には「今回の水耕栽培の場所はこちら↓」とLINE@のアドレスが記載されており、登録すると「Agras Japan【水耕栽培】」というアカウントから情報が流れてきた。

    友達の数は4400人超。ホームには12月6日午前10時現在で6本の投稿がアップされている。

    「登記前ゆえに信用が高くない」

    11月28日付の最初の投稿では「セブンが野菜専用工場 サラダ食材を安定調達」という共同通信の記事を紹介したうえで、水耕栽培のメリット・デメリットを次のように伝えている。

    メリット

    ・天候に左右されない

    ・季節に左右されない

    ・農薬を使用しない

    ・虫が発生しない

    ・香り以外の味を調整できる

    ・糖度を調整できる

    ・出荷までの日数が早い

    【弊社の水耕栽培が最速】

    デメリット

    ・事業コストが高い

    ・建屋を用意する必要がある

    12月2日付の投稿では、法人登記がまだなされていないことを明かしている。

    《投資の受付は12月の中旬を目処にスタートする予定ですが現状では、皆様から金銭を預かることはございません。早く投資したいとの声を多数頂いていることは大変喜ばしい限りですが弊社は登記前ゆえに信用が高くない状態ですのでしっかりと形にしてから詳しいご案内を差し上げます》

    5つの不明点

    視聴者はこの投資について、どのように判断すべきなのか。田上弁護士にラファエルさんの動画を見てもらったうえで、注意点を聞いた。

    田上弁護士は、動画には「不明な点」が5点あると指摘する。順を追って解説してもらおう。

    1.高利回りの理由

    「非常に高い利回りをうたっていますが、動画からは投資のスキームも、高い利回りをあげられる理由も不明です

    「『通常の4倍のスピードで収穫できる』『蛍光灯の数が半分で済む』といった趣旨の説明はあるものの、それでなぜ葉物野菜10.2%、高麗人参42%といった利回りを実現できるのかがわかりません」

    2.補助金の詳細は

    「補助金の詳細が不明。投資人数・投資金額に比例して補助金額が増えるとは考えづらいです」

    「国の補助金にも限度があり、普通は投資する人が増えれば増えるほど、一人あたりの補助金分のリターンは減るのではないでしょうか。補助金がついた場合に利回りが84%になる仕組みがよくわかりません」

    3.リスクは

    「リスクの説明が不十分です。動画では、地震や落雷があっても保険があるので大丈夫だという結論になっていました」

    「しかし、たとえば野菜の値段が下がった場合にはどうなるのか。そもそも投資をする人が増えれば野菜の供給が増え、野菜が増えれば値段は下がるはずです」

    値段が下がった時にどのように高い利回りを継続するのか、動画だけではわかりません」

    4.なぜ法人化していないのか

    「現時点で会社として登記していないそうですが、いまだに法人化していない理由も、法人化していない企業が大手製薬会社やサプリメント企業と取引できる理由もよくわかりません

    5.銀行から借りない理由は

    「通常、高い利回りの投資には高いリスクが伴います。仮にリスクが低く、利回りが高い事業があるとしたら、銀行やベンチャーキャピタルが放っておくはずがありません

    「銀行などから低利で資金調達できるはずなのに、なぜ一般公開して資金を集めるのでしょうか」

    ラファエルさんが訴えられる可能性

    こうした事業を紹介するラファエルさん自身の責任については、どう考えれば良いのだろう。

    田上弁護士は言う。

    「ラファエルさんは投資のメリットを強調する一方、『保険入ってれば大丈夫なんだね』『すごいな。じゃあ、もう完璧ですね』など、リスクがないかのように説明しており、推奨・勧誘しているとも評価できます

    「仮に投資をした人が損をした場合、ラファエルさん自身も民法の信義則上の説明義務違反などを理由に、損害賠償請求訴訟を提起される可能性があります」

    「ラファエルさん側が動画を製作・編集しているとすれば、単にタレントが広告塔を務める以上の積極的な役割を果たしていると考えられます」

    『ラファエルさんを信じて投資をしたら損をしてしまった』と訴える人が出てくるおそれがある。影響力の大きい方なので、トラブルに巻き込まれないよう、多くの人のお金が動くことに関しては慎重になった方が良いと思われます」

    鵜呑みにせず、自己責任で

    動画の視聴者に対しては、以下のように注意を呼びかけた。

    「もし投資を検討している人がいたら、本当に特許を持っているのか、実際に高麗人参などを栽培しているのかどうかなどについて、業者に質問した方が良いと思います」

    「動画では大手製薬メーカーと取引があるような説明もありましたが、どこのメーカーなのかなど具体的に尋ねてみてはいかがでしょうか」

    「ラファエルさんの言葉を鵜呑みにして信じるのではなく、上記のような不明点を業者にきちんと問い合わせたうえで、自己責任で判断すべきです」

    「特許の核は伏せてある」

    Agras Japanに対し、特許の内容や特許番号、取引先企業の具体名、元本保証の有無などを質問したところ、次のような回答があった。

    「特許の詳細、受注先はホームページ公開の際に掲載致します」

    「出資法に抵触致しますので元本保証はございません」

    ホームページは12月中旬に公開予定だという。5日夜の最新投稿にはこう記載されていた。

    「まだまだ伝えきれていないことがございます。当然、特許の核になる部分は伏せてあります」

    「ファームの建設費は3億円」

    想定リターンについて尋ねると「弊社は利益を再投資しファームを増やしていく計画ですので、出資者様への配当は月2%、年間24%となっております」との答えが返ってきた。

    ラファエルさんの動画で紹介されていた「84%」という数字と食い違いがあるのはなぜなのか。

    「ファームの建設から受注先の確保、運営、管理等全てをご自身で行われた場合にそのようになってくるということです。ファームの建設費は3億円かかってくるため個人の方ですとハードルが高いです」ということだった。

    他社の社員「聞いたことがない」

    多数の植物工場が加盟する一般社団法人「日本植物工場産業協会」とNPO法人「植物工場研究会」にも問い合わせたが、「Agras Japan」という事業者は加盟していなかった。

    水耕栽培にかかわる別の企業の社員は「Agras Japanという名前はまったく聞いたことがない。84%もの高利回りは難しいのではないか」と疑問を呈した。

    BuzzFeedはラファエルさんに対してもメールで取材を申し込んだが、期限までに返信はなかった。回答があり次第、追記する。