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亀石倫子弁護士が「人生のリセットボタン」を押した理由

何者にもなれず、もがき続けた日々

令状なしのGPS捜査を違法とする最高裁判決を勝ち取り、ダンスクラブの風営法違反事件などで無罪判決を得てきた気鋭の弁護士、亀石倫子さん(43)。大学の英文科を卒業後、OLから転身した異色の経歴の持ち主だ。集団になじめず、「何者にもなれない」自分に苦悩した日々を振り返り、「一人を恐れず、自由に生きよう」と語る。

――医師免許なしにタトゥーを入れたとして、彫り師が医師法違反の罪に問われた裁判で主任弁護人を務めています。大阪地裁で有罪判決が下された日の夜、彫り師らとの懇親会の席で涙を拭っていましたね。

おしぼりを顔に当てて、思いっきり泣きました。無罪判決を得て、彫り師さんたちの喜ぶ顔、安心する顔が見たかった。

弁護士になってから、あんな風に人前で泣いたのは初めてかも。一番泣きたいのは彫り師の人たちなのに、お前が泣いてどうするんだって感じですよね。

人前で泣く女の人のこと、普段けちょんけちょんに言ってるんです、私。人前で泣く女とおっぱい見せる女が嫌いで。

いるじゃないですか、おっぱいを2分の1ないし3分の1見せる人。

――2分の1ないし3分の1(笑)

いるんですよ。計算高く2分の1とか3分の1ぐらい出す人が。色気や涙を利用するのとか、本当に嫌なんです。

なんて思ってたクセに、自分が泣いちゃって。人に厳しく自分に甘い。酷いですよね。

ただ歩いているだけで涙が

――それだけ悔しかったと。

悔しかったです。クラブ裁判やGPS裁判に比べても、勝ち筋だと思ってたのに。判決の翌日・翌々日も、ただ歩いてるだけでツーって涙が流れて。

でも落ち込んで泣いていても何も生まれない。弁護団のメンバーとは、これから1週間に1回、必ず集まって話し合おうって決めました。

逆境の時ほどいかに早く切り替えて、立ち直るかが大事。そういう風に思えるようになったのは、夫の影響が大きいですね。

亀石なので「亀ちゃん」と呼んでいるのですが、喜怒哀楽の激しい私に比べて、機嫌のいい悪いがない。家に帰るといつも笑顔にしてくれるんです。それにどれだけ救われたか。

亀ちゃんはずっとラグビーをやってきたからか、口癖のように「メンタル、メンタル」って言うんです。私は元々メンタル弱いし、そういう体育会系な感じって苦手だったんですけど、だんだん影響されて。

刑事弁護って大体の主張は通らないし、大変なことも多い。いまは事務所で人を雇用する立場でもあるので、なおさらメンタルが大事。オタオタしたり、イライラしたりしたらダメだなって。

出会って2日でプロポーズ

――「亀ちゃん」との出会いは。

札幌の情報通信企業で働いていた頃、入社3年目に東京で2泊3日の研修があって、その時ですね。3日目に結婚してくださいって告白したら、「無理!」って断られました(笑)

でも、直感でこの人となら家族になれるって思ったんです。

――出会って2日でプロポーズって大胆過ぎませんか。

私、男を見る目がないんですよ。それまで恋愛でロクな目に遭ったことがなくて。お金を巻き上げられたり、二股・三股かけられたり。

若い頃は、貧乏な劇団員とか売れないバンドマンとか、破滅に向かっていくタイプの人に惹かれていました。

だから恋愛は自分をダメにするものっていう意識があったし、恋愛の延長線上に結婚を思い描けなかった。

だけど亀ちゃんは、おおらかで思いやりがあって、器が大きくて。当時、自分の人生に笑いが足りないと思ってたんですけど、この人とならきっと笑って暮らせるだろうなって。

――でも、断られたんですよね。

そんなの全然気にしない。「自分の人生にとって大事なことだから、ちゃんと考えた方がいい」と言ってくれて。むしろ、なんてしっかりした人なんだ、私の目に狂いはなかったと。

北海道に戻ってからも「やっぱり結婚してもらえませんか」ってメールして、熱心に説得しました。

で、研修から半年で結婚。亀ちゃんは「魔が差して結婚しちゃった。お前に騙された」って言ってます(笑)

亀ちゃんは大阪在住なので、結婚したら私は会社を辞めて、北海道を離れて、縁もゆかりもない土地で暮らすことになる。

当時はとにかく人生をリセットしたい、自分を変えたいということばかり考えていたので、そうなることを望んでいたんでしょうね。

学校が息苦しくて、保健室に逃げた

――いまの亀石さんを見ていると、「人生をリセット」という言葉はちょっと意外ですが…。

子どもの頃から集団になじめませんでした。保育園に行くのが嫌すぎて吐いちゃう。園でも友達と遊ばず1人きり。母親によく心配されました。

とにかく一刻も早くウチに帰りたい。家では『長くつ下のピッピ』とか『ピノキオ』とか本ばかり読んでました。

小学校に入ってからも、「なんで昼休みに校庭で遊ばなきゃいけないの?」と不思議でした。「子どもは元気に外で遊べ」的な空気が息苦しくて。

学校で一番好きな場所は保健室。息苦しさから逃れたかったんです。無機質な空間で、真っ白なシーツと布団にくるまれて…。

子どもたちの遊ぶ声を聞きながら保健室で寝てる時が、心安らぐっていうか。自分も子どもなんですけど(笑)

――学校の同調圧力が嫌だった?

画一的なものを押し付けられるのが、直感的に嫌だと思っちゃう。協調性のない子どもでした。

集団のなかにいると、疲れてきて一人になりたくなる。友達といても、空気を読んで多数派に合わせることがありますよね。

そんな風に流されるのが嫌で、一人で考えを整理したくなるんです。

高校は私服OKだったのですが、黒地に真っ赤なイチゴがたくさんプリントされたシャツを着て行ったら、職員室に呼び出されて注意されました。

「高校生らしくしなさい」って。でも、私がイチゴのシャツを着たって誰も困らないじゃないですか。

――理由のないルールに従いたくないと。

日本社会って、〇〇らしくしなさいっていう圧力がすごく強い。この間も裁判の時の映像がテレビで報じられて、「主任弁護人なんだから服装に気をつけた方がいい」っていう匿名の苦情メールが来ました。

恐ろしいですよね。大体、私がもし「主任弁護人だから紺色のスーツを着よう」と思うような人間だったら、タトゥーの裁判なんて担当してないですから。

何をやっても「ザコレベル」

――大学で東京に出てきてから、変化はありましたか。

高校生の時はすべてに反発してたけど、世間を知らずにただイキっていただけ。勘違いして調子に乗ってました。大学に進学してからは、「東京」に対してすっかり怖気づいてしまった。

高校生の時は成績も良かったけど、大学に来たら全然。

雑誌の読者モデルをしていたこともあったのですが、びっくりするぐらい綺麗な人が大勢いて、私なんて完全にザコレベル。

新聞記者になりたくてマスコミ予備校に通えば、周りは賢い人ばかりでついていけず…。

どこに行っても私はザコレベルで、人より秀でたところが何一つない。アイデンティティーを見失ってしまったんです。

ピザ屋さんのバイトは2週間でクビになるし、コンビニも面接で落ちました。やる気はあるのですが、傍目には動きがダラダラして見えるみたいです。

――結構、社会不適合者ですよね。

完全に不適合者ですね(笑)

「東京に負けた」傷心の帰郷

――新聞記者になりたかったのですか。

書くことが好きで、社会に関わる仕事がしたかったので、就活では新聞社を受けました。

1社だけ筆記試験を通ったものの、面接が圧迫気味で。「新聞記者って地を這うような仕事だよ。君は地を這えるの?」と聞かれました。

いまなら「はい、這えます!」って即答しますけど、当時はビックリして言葉に詰まってしまった。「マスコミなら広告代理店とかの方が向いているのでは」とも言われて。

面接官は反論を期待してあえてそう言ったのかもしれない。でもその時は素直に「私、向いてないんだ…」と受け止めてしまったんです。

最後の望みだった新聞記者の夢も絶たれ、札幌の情報通信会社に就職しました。当時は「東京に負けた」という思いでしたね。

――初めての社会人生活はどうでしたか。

入社してすぐ「これは無理だ」と悟りました。

労働組合の勧誘があり、「全員入らないとダメなんですか?」と聞いたら場の空気が凍って。

女性社員にだけ制服があったのですが、私はそれも着ませんでした。大人になってまで、人に着るものを決められるのが嫌だったんです。

上司に対しても「そんなことやって意味あるんですか? 時間の無駄じゃないですか」とかズケズケ言っちゃって。この会議長いな〜と口に出さないまでも、態度には出てたと思います。

職場のラジオ体操を拒否

――上司もヤバイ新入社員が来た、と思ったでしょうね。

職場でラジオ体操があって、就業5分前に始まるんですね。でも私はやりませんでした。

上司が「職場の和が乱れる」「みんなやってるんだから」と言ってくるから、「だったら業務時間内にやってください。それなら命令だと思ってやりますよ」と答えました。理屈っぽいですよね。

それでも「君はラジオ体操がどれだけ体にいいのか、わかっているのか」と言われて、全然話が噛み合わない(笑)

私はどうせやるなら、ラジオ体操も全力でしたいんですよ。スーツにヒールじゃなくて、ジャージにスニーカーとかで。

――学校でも会社でも、まったく集団になじめない。

当時、小樽の実家から札幌の会社まで高速バスで通勤していて。朝方バスに揺られながら、「私の人生、こんなハズじゃなかった」「どうしたら変えられるんだろう」「何者かになりたい」って、毎日そればっかり考えてました。

海岸沿いを走るバスなんですけど、日本海だから演歌みたいな厳しい感じの海なんですよ。ドラゴン・アッシュの「陽はまたのぼりくりかえす」を聴きながら、涙を流してましたね。

好きな服を着て、好きな音楽を聴きたい

――「人生リセット」の意味がわかった気がします。そこから結婚して、弁護士を目指して。

弁護士の道を選んだのは、文科系で一番難しい資格だし、一生仕事ができるだろうと考えたから。組織に属さないで働けるのと、「何者かになりたい」という思いにもフィットしたんだと思います。

子どもの頃から社会不適合者で、画一的なものを押し付けられることに反発して。よく「反権力」みたいなイメージで見られるけど、そんなことない。全部に対して反抗的なだけなんです。

弁護士になるまで、それは私のダメなところだって言われ続けて来ました。でも、そういう性格じゃなかったら、タトゥーの裁判を闘おうとは思わなかったんじゃないかな。

だからこそ、偏見にさらされて世の中から排除されそうな人たちが我が事のように感じるし、寄り添いたいって思うんです。

私は好きな服を着て、好きな音楽を聴きたい。クラブでもタトゥーでも、人に迷惑を掛けない限りは自由じゃないですか。

――昔の亀石さんのように集団になじめずに鬱々としている人や、「何者か」になりたくて悶々としている人たちへメッセージをお願いします。

私はずっと「今いる場所が世界のすべてではない」と自分に言い聞かせてきました。ここで正しいとされていることが、本当に正しいとは限らない。

たとえ一人になったとしても、ちっぽけな世界で魂を売らない。

自分の好きな場所、好きな音楽、好きな言葉を信じる。どこかにあるはずの自分の居場所を探す。そんな風に生きてきた気がします。

大切なのは、自分がどういう人間なのか、よく考えること。一人になることを恐れず、自分らしくいるための勇気を持ってください。

(かめいし・みちこ) 1974年生まれ。北海道・小樽出身。1997年に東京女子大を卒業後、札幌の情報通信企業に就職 。2000年に退職し、大阪へ移る。2005年、大阪市立大法科大学院入学。2009年、大阪弁護士会に登録。2016年に法律事務所「エクラうめだ」を開設。


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