この人の父親が誰かなんて、正直どうでもよくないですか?

    NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』のヤスハル役で鮮烈な印象を残した古舘佑太郎。主演映画『いちごの唄』や、父親の古舘伊知郎について語った。

    「実は、古舘さんの息子さんなんです」

    映画関係者にそう聞かされた時、古舘寛治さんですか?と思わず聞き返した。ミュージシャンで俳優の古舘佑太郎のことだ。

    「いやいや、古舘伊知郎さんです」

    NHKの朝ドラ『ひよっこ』で柏木ヤスハル役がやけにハマっていたから、父親が個性派俳優でもおかしくないと早合点してしまったが、「パパはニュースキャスター」の方だった。

    それぐらい、「二世」のイメージは希薄。親の七光りに頼らず、実力でキャリアを築き上げてきたということだろう。

    最近公開された主演映画『いちごの唄』を見て、確信した。古舘佑太郎の芝居は本物だ。

    父とのキャッチボール

    「1回、キャッチボールしたことがありますね。小学3年生ぐらいじゃないかな。それは覚えてます」

    父親との思い出を尋ねると、しばらく考えこんだ後に、こう答えた。多忙で不在がちな父は、ブラウン管の向こう側で眺める存在だった。

    「反発するほど接点もなくて…。多分、僕がいま何をやっているかも知らないと思います。携帯で調べたりとかできない人なんで(笑)」

    それでも、慶應義塾高校の同級生と結成したロックバンド「The SALOVERS」で、2010年にメジャーデビューした時には「大変だぞ」と言葉をかけられた。

    取材で聞かれるけれど…

    俳優としてのデビューは、2014年の映画『日々ロック』。

    古舘伊知郎といえば、トークライブ『トーキングブルース』での立て板に水のような話術で知られる。セリフ覚えのことで助言をもらったりはしなかったのだろうか?

    「父親がそういうことをやってたのは、僕の小学生時代。思春期に入ったぐらいからはニュースの仕事をしてたので、ちょっと時期がズレちゃってるんですよね」

    父親の存在を隠してきたわけではまったくないが、積極的に話す機会もなかった。俳優業が本格化し、テレビに出始めた最近になって、取材で父について聞かれることが増えたという。

    「面白おかしく話せることがあればいいんですけど、エピソードが薄いものばっかりで…」と苦笑する。

    「何度も絶交した」

    主演映画『いちごの唄』の原作は、『ひよっこ』『ちゅらさん』の脚本家・岡田惠和が、ロックバンド「銀杏BOYZ」の楽曲から着想を得た青春小説だ。

    中学生の笹沢コウタと親友の伸二は、同級生の天野千日を「天の川の女神」と崇めていた。ところが雨の降りしきる七夕の日、伸二は千日をかばって交通事故で命を落としてしまう。

    10年後の七夕、コウタと千日は東京・高円寺で偶然再会する。1年に1度、七夕に同じ場所で会おう。そう約束した2人だが…。

    「マジで変な言い方ですけど、コウタとはケンカしまくりました。自分のなかで、何度もコウタに絶交宣言した」

    なかなかコウタのキャラクターがつかめず、役づくりに悪戦苦闘した。口調や声のトーン、所作を少しずつ変えながら、「正解」のイメージを探る日々。

    つかみかけては、振り出しに戻る。その繰り返し。撮影の3日前、とうとう限界を超えて、ぷつんと糸が切れたようになってしまった。

    まさかの監督ストップ

    「古くん、どうした?」「体調悪いの」

    様子がおかしい古舘を心配して、周囲も声をかける。ついには、菅原伸太郎監督から「今日は一旦やめよう。全部忘れて友達と飲みに行ってきなよ」と告げられた。

    「そう言わせちゃった自分もヤバイなと。結局、忘れられなくて、友達と飲みにもいけないし、反省しちゃうし」

    「僕はクセとして芝居が大きいタイプなので、今回は抑えた芝居をするのがテーマでした。でも、慣れないことをしたって、うまくいかないですよね。違う自分になろうとし過ぎていたんだと思います」

    石橋と峯田に背中押され

    転機になったのは、ヒロインの千日を演じる石橋静河との出会い。出演者同士が脚本を読み合う「本読み」で初めて石橋と向かい合った時、何かが「ガラッと変わった」のを感じた。

    「最初は自分がコウタに近づこうとして、今度はコウタを自分に近づけようとして…。でも石橋さんのおかげで、最終的にはそれすら気にしないゾーンに入れた。頭を使わず、素直に自分の気持ちで演じようと。初めて楽しいと思えたんです」

    銀杏BOYZ峯田和伸の「原作も楽曲も気にしなくていい。お前はお前のやりたいように、自由にやった方が絶対いいから」という言葉にも背中を押された。

    いつも挙動不審で、むやみやたらに声がデカい。まっすぐで、純粋な、愛すべき馬鹿――。天真爛漫なコウタのキャラクターは、こうして完成した。

    自分の意志を大事に

    古舘自身は芯の強そうなイメージだが、意外に「人の意見に振り回されちゃうタイプ」だという。「だからこそ、自分の意志を大事にしたい」

    取材の終わり、これから演じてみたい役柄を尋ねると、ニヤッと笑った。

    「すげー嫌なヤツをやってみたいですね。しょっちゅう言われるんですよ、目が死んでるとか、人を刺しそうな目だって」

    〈ふるたち・ゆうたろう〉 1991年、4月5日生まれ。東京都世田谷区出身。2008年、慶應義塾高校の同級生と「The SALOVERS」を結成。2010年にメジャーデビューし、2015年に無期限活動停止。2017年に新たなバンド「2」(ツー)を始動、アルバム「VIRGIN」を発表した。俳優としては、2014年の映画『日々ロック』を皮切りに、ドラマ『ひよっ子』や映画『ナラタージュ』などの話題作に出演、存在感を発揮している。