エレカシ宮本、革靴で走り回った日々 悲しみの果てに掴んだ明日

「何があっても平気さ、全部乗り越えてきたんだって気分なんですよ」

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エレカシ宮本、革靴で走り回った日々 悲しみの果てに掴んだ明日

「何があっても平気さ、全部乗り越えてきたんだって気分なんですよ」

デビュー30周年で紅白歌合戦に初出場を果たしたエレファントカシマシ。3月にはスピッツやMr.Childrenとスペシャルライブを開くなど、50代にしてますます活動を充実させている。

しかし、ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかった。栄光と挫折に彩られたバンドの過去・現在・未来を、ボーカルの宮本浩次が語り尽くした。

「何か」に歌わされた紅白の舞台

年末の紅白では、代表曲「今宵の月のように」を切々と、一言一句を噛みしめるように歌った。

「あれほど高らかに『今宵の月のように』を歌えたことは、いままでなかった。紅白っていうのは、日本の最高の音楽の祭り。現場の何かに『歌わされている』感覚というか。伝統の力なのかな。俺はその歯車だったと思うんです」

途中からギターを手放し、歌に入魂した。

「ギターにこだわって弾くよりも、歌に集中しちゃいたい時がある。NHKホールのお客さん、その向こう側の人たちまで歌詞をしっかり届けたかった。キーボードとギターのサポートメンバーもいたので、そこは信頼関係で」

ベテランの「初出場」には意外感もあったが、「31歳ではなく、51歳のエレファントカシマシとして紅白の舞台に立てた。ようやくこの年代で出られたことが良かった」。

都内のプライベートスタジオでロングインタビューに応じた宮本は、夢の舞台をそう振り返った。

男泣きの理由

歌を届け、伝える。最近のエレカシは、以前にも増してそのことに注力しているように見える。

かつてライブのMCはそう多くなかったが、昨年1年かけて回った47都道府県ツアーでは、「総合司会」を名乗る宮本が1曲1曲丁寧に解説した。

最近エレカシを知った「一見さん」にも、曲の背景やバンドの歴史を知ってもらおうという配慮だ。

最終地となった富山での12月のライブでは、「悲しみの果て」の最中に感極まって男泣きした。

長く続いたツアーでメンバーやスタッフの疲労は極限に達し、必ずしも万全なコンディションではなかった。

「それでも満員のお客さんが割れんばかりの拍手で喜んでくれて。紅白が決まった後のライブで、ファンの人たちやスタッフ、会場みんなの思いを感じるわけですよ。それを全部引き受けて、俺が代表してね。根が感激屋なもんだから」

契約切られ「浪人」に

「悲しみの果て」を作曲した1995年当時は、最初のレコード会社から契約を切られて途方に暮れていた。

下北沢のライブハウスを精力的に回り、熱量の高いライブを繰り広げてはいたものの、ふとした日常に不安が忍び寄る。

「どこにも属していない浪人の状態。京浜東北線に乗ってる時、このなかで仕事がないの俺だけなんじゃないかなあ、なんて思ったりして」

「『珍奇男』っていう歌の『はたらいている皆さん 私はばかなのでしょうか』っていう歌詞を地でいってましたね」

夜中の赤羽でマラソン

巷ではスピッツの「ロビンソン」やミスチルの「Atomic Heart」が大ヒットしていた。赤羽の喫茶店でスポーツ新聞を読みながら、同世代や年下のアーティストたちの活躍に焦りを募らせた。

どうしたらヒット曲が出せるのか。スピッツやミスチル、桑田佳祐、小沢健二、奥田民生らの曲を片っ端から聴き込んで研究したという。

「悔しさもあったけど、全部聴きました。やることもないし、マラソンして気合い入れるしかない。ウォークマンで曲を流しながら、夜中に赤羽の団地を走ってましたね。ランニングシューズがないから革靴で(笑)」

記念ライブでスピッツ、ミスチルと競演

一方でスピッツの草野マサムネやミスチルの桜井和寿らが、契約の切れたエレカシを陰に陽に気にかけ、応援してくれていることも耳にしていた。「頼んでもいないのに。それはすごく嬉しかった」

「何年か後にフェスでスピッツの『涙がキラリ☆』を聴いた時なんか、こっちも涙がキラリっていうぐらい感動しましたよ。ミスチルの『深海』ってアルバムも最高だった」

そのスピッツ、ミスチルと3月にさいたまスーパーアリーナのステージに立つ。各バンドのファンにとっては、まさに夢の競演だ。

「仮想敵って言ったらアレだけど、俺は一方的にライバルだと思ってるし、刺激も受けてるし。彼らがいまだに最前線で活躍してることが本当に誇らしい。一緒に30周年最後の日を祝えるのを楽しみにしてます」

「新人」として再デビュー

雌伏の時を経て、1996年に新たなレコード会社から再デビューを果たす。「悲しみの果て」はグリコのCMに使われてヒットした。

契約解除前は、事務所の方針でメディアへの露出を極力控え、テレビの歌番組やCMを断ることもあったが、再デビューにあたってプロモーション戦略を一新した。

「新人としての再スタートという思いでした。『エレファントカシマシの新曲です、聞いてください』って、明け方3時まで地方のラジオ局のコメント録りをしましたね」

ギリギリで生まれた「今宵の月のように」

最大のヒット曲「今宵の月のように」が生まれたのもこのころだ。先にドラマのタイアップが決まったものの、つくった曲はことごとく没にされた。

「ドラマのプロデューサーと曲のプロデューサーと、合わせて4曲ぐらい没にされて。ドラマに合わないっていう判断だったんでしょうね。ビックリしたけど、自分でもどっかで薄々『やっぱりな』という思いはありました」

完成したのは、レコーディングの1週間前というギリギリのタイミング。

「エゴを削りとって、削りとって、最後の最後にようやくできた。エゴを出せない真剣勝負の場に置かれたことで、いままでのスタイルにこだわらない、バンドの神髄とメッセージが込められた『今宵の月のように』が輝いたんだと思います」

「デーデ」「ファイティングマン」「奴隷天国」...。社会批評を織り込んだ攻撃的なギターロックを持ち味にしてきたエレカシにとって、叙情性を前面に出した「今宵の月のように」は挑戦だった。

「それまでの曲には全然ないスタイル。プロデュースによって表舞台向けに引っ張り上げてもらった。自分たちの力だけでは破れなかった殻を、破ることができました」

弱みも情けなさも、全部引き連れて

3社のレコード会社を渡り歩いた末、2007年にいまのユニバーサルミュージックへ移った。

移籍後最初のシングルが、「さあ がんばろうぜ!」の力強い歌詞が印象的な「俺たちの明日」だ。

10代憎しみと愛入り交じった目で世間を罵り

20代悲しみを知って 目を背けたくって 町を彷徨い歩き

30代愛する人のためのこの命だってことに あぁ 気付いたな

自らの来し方を振り返りつつ、てらいなく、ストレートに、大人のロックを歌い上げた。

「40代でそれまでの自分を受け入れた。50代からは、弱みも情けないところも全部引き連れて、もう1回冒険してみたいんです」

「30代で愛する人のための命だと知って、50代でやっぱり俺のための人生だってことに気がついた。諦めることも、何だよと思うこともいっぱいあるけど、ちょっとワガママに生きてみたいなって」

聞こえない恐怖

2012年には外リンパ瘻を患って左耳が一時的に聞こえなくなり、ライブ活動の休止を余儀なくされた。

「聞こえなくなった時は怖かった。病院の裏の神社に毎日通って、『治りますように』とお参りしてました。近所の蕎麦屋で会社員が一杯やってるのを見た時は、本当にうらやましかった」

「40代後半、レコーディングで1週間ほとんど寝なかったり、闇雲に走ったり、メチャクチャやってましたからね。いま思えば最後の無茶だったのかな。病気をやって、健康のありがたさ、休むことの大切さがよくわかりました」

契約解除やメンバーの病いなど、幾度もの試練を乗り越えて迎えた30周年。体の無理はきかなくなったが、そのぶん気力はみなぎっている。

50代は青春時代

「2018年もドーンと行こうぜ、エビバデ!」

1月7日、大阪のフェスティバルホールで開かれた新春ライブ。大股開きでおなじみの大の字ポーズをつくった宮本は、観客からのエネルギーを全身で受け止めているかのようだった。

「30年を通じて、ファンの人たちの信頼を勝ち得てきた。自分たちの思いと、お客さんたちの思いがいい具合に混じり合って、地に足のついたエレファントカシマシがしっかりそこにいる感じです」

ライブのMCでは、「中年」「初老」を自称して、笑いをとる一幕もあった。

「誰の言葉か知らないんだけど、40代は若者の老人時代で、50代は老人の青春時代なんだって。初老って言ったって、まだまだ元気。『何があっても平気さ、全部乗り越えてきたんだ』って気分なんですよ」

「スピッツ、ミスチルとのライブは絶対に成功させたいし、年内にアルバムも出したい。61歳に向けた10年間の大事な一歩なんで、欲張って、ワガママに音楽をやっていきたいですね」

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〈エレファントカシマシ〉 1981 年結成。86年には宮本浩次(ボーカル・ギター)、石森敏行(ギター)、冨永義之(ドラム)、高緑成治(ベース)という現在のメンバーに。88年、アルバム「THE ELEPHANT KASHIMASHI」とシングル「デーデ」でデビュー。ベストアルバム「THE FIGHTING MAN」が発売中。

※この記事は、Yahoo! JAPAN限定先行配信記事を再編集したものです。

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