大統領選勝利後、ザッカーバーグはトランプに祝福の電話をかけていた

    Facebookの広告事業にとって、米国大統領になったドナルド・トランプ氏陣営の選挙キャンペーンは上得意先だった。Facebookのマーケティング戦略が、このキャンペーンから多くの“学び”を得ていたと、社内文書で明らかになった。

    2016年11月に、ドナルド・トランプ氏がヒラリー・クリントン氏を破って米国の大統領に選ばれた。これまで知られていなかったが、その数日後、FacebookのCEOを務めるマーク・ザッカーバーグ氏は、密かにトランプ氏へ電話をかけたそうだ。BuzzFeed Newsが複数の情報源から得た話によると、トランプ氏陣営の勝利とキャンペーンの成功を祝ったらしい。トランプ氏の選挙チームは、Facebook上で数百万ドル(数億円)規模の広告キャンペーンを展開したのだった。

    ザッカーバーグ氏とトランプ氏が電話で個人的に話したことは、この通話をよく知る3人が事実だと認めた。ドナルド氏陣営のFacebook向け広告を担当した同社社員たちからの確認も取れている。Facebookは、この件に関してコメントすることを拒否した。ホワイトハウスの広報室は、コメントの求めに反応しなかった。

    トランプ氏は、有権者に働きかける手段としてFacebookを巧みに活用したのだが、Facebookはこの事実を公表したがらない。ところが、Facebook社内では、強力なFacebook広告プラットフォームのもっとも創意工夫に富んだ利用事例の1つだとして、共和党の大統領候補だったトランプ氏の選挙キャンペーンを称賛している。BuzzFeed Newsは、トランプ氏の選挙戦スタッフとFacebookの元社員に取材したほか、Facebookの社内向けプレゼン資料とメモを入手。メモなどによると、Facebookはトランプ氏のキャンペーンを、素早く行動し、テスト結果重視のマーケティング手法をFacebook上で実施した「イノベーター」であると見なしていた。

    メモとプレゼン資料からは、Facebookはトランプ氏のキャンペーンで学んだ手法を、「テスト、学習、適用(TLA:Test, Learn, Adapt)」と呼ぶ同社のマーケティング・モデルの改善に利用した、ということも読み取れる。Facebookはこうした内部文書のなかで、トランプ氏の広告戦略が成功だったと率直に認めている。そして、トランプ氏が規制担当者や偽情報の源になる可能性を持つ人物であるという以上に、上得意の顧客であると見なしていた程度が分かる。


    広告で左右された投票動向

    Facebookのマーケティング部門が2017年終わりに作成したTLA関連ノートによると、トランプ氏の陣営は、Facebook上で展開する広告に素早いテストを適用する方法で投票動向を左右できたそうだ。ノートでは、同陣営の広告戦略が献金を増やし投票率を高めた、という例が紹介されている。

    Facebookは、トランプ氏のキャンペーンから学んだ成果を、数百万ドルかけて展開中の自社広告活動「Here Now」へ熱心に適用した。この活動でFacebookは、プライバシーに対するユーザーの懸念を和らげ、偽情報まみれのFacebookという悪評を改善しようとしている。Here Nowでは、テレビのゴールデンタイムに流すCMと、あちこちのバス停で表示している「フェイクニュースは友達なんかじゃない」と告げる広告に加え、Facebook上でもマーケティング活動を実施し、20億人以上いるユーザーにメッセージを届けた。その際の広告は、TLAの広告テスト手法にもとづいて内容が調整された。

    トランプ氏の2016年選挙キャンペーンでデジタル広告&資金調達ディレクターを務め、共和党全国委員会の広告担当ディレクターでもあるゲイリー・コビー氏は、BuzzFeed Newsに対し、「本当のところ、Facebookはキャンペーン期間中、我々にべったりだった」と話した。「トランプ氏の陣営を担当したFacebookのチームは、学べるものが多いとして深くかかわっていた。クリントン氏陣営の担当チームは、それほどでなかった」(同氏)

    トランプ氏陣営のスタッフだった別の人物は、舞台裏について話し、Facebookがトランプ氏のキャンペーンにとても注目していたと断言した。「Facebookは、褒めたたえていた」(その人物)

    BuzzFeed NewsがFacebookに問い合わせたところ、ザッカーバーグ氏が4月に米連邦議会の上院と下院で証言したときと同様、両陣営に同等のサポートを提供した、との回答があった。

    Facebookグローバル政策&政府渉外ディレクターのケイティ・ハーバス氏は、BuzzFeed News宛ての書簡で、「我々は、当社の商品がどのように機能するのかについての知見と、技術サポートを提供し、ツール群の使い方はキャンペーン運営者が決めている」と記した。

    これに対し、トランプ氏陣営のスタッフとFacebookの社内メモから、Facebookの広告ツールをはるかに有効活用したのはトランプ氏陣営のキャンペーンだった、ということがはっきりしている。BuzzFeed Newsが入手した2017年付けの社内プレゼン資料のなかで、Facebookのあるマーケティング・グループは、自社の広告戦略を改善する方策のブレインストーミングを実施するため、トランプ氏陣営のキャンペーンを名指しして「イノベーターを招く」よう提案していた。

    Facebookの広報担当者は、Facebook活用事例を紹介してもらう目的でトランプ氏およびクリントン氏の関係者を呼ぶことは最終的になかった、としている。「トランプ氏陣営への対応は、当社がほかの大口顧客に提供するものと変わらない」(広報担当者)

    トランプ氏陣営のFacebook広告プラットフォーム活用に対する関与を公にしたがらないFacebookの態度は、当時の選挙キャンペーン関係者をいら立たせた。トランプ氏の2016年キャンペーンでデジタル担当ディレクターを務め、現在同氏の2020年大統領選挙キャンペーン・マネージャーであるブラッド・パースケール氏は、BuzzFeed Newsに対し、「トランプ大統領にとって、Facebookは素晴らしいプラットフォームだったと確信している」と述べた。「我々がFacebookをどれだけ有効利用したかと、我々がFacebook広告の使い方に変化をもたらしたことについて、なぜ堂々と世間に公表しないのだろうか」(同氏)

    今のところ、トランプ氏陣営がキャンペーンでFacebookを活用したことに対して贈られた賛辞は、秘密裏になされたものばかりだ。ブルームバーグは2018年4月、Facebook社内で大統領選挙の直後に回覧された報告書を引き合いに出し、クリントン氏陣営は2016年6月から11月まででFacebookに2800万ドル(約31億円)支払い、6万6000種類の広告を試した、と報じた。そして、トランプ氏陣営の支出額は4400万ドル(約49億円)で、試した広告は590万種類だったという。このデータから、トランプ氏陣営のFacebook戦略は「クリントン氏陣営より複雑で、成果をより引き出すFacebookの機能を上手に活用していた」と考えられる。

    パースケール氏は、2017年に放送されたCBSのドキュメンタリー番組「60 Minutes」で述べた、Facebook上で大量の広告クリエイティブとメッセージを何度もテストし、1日に10万種類も異なる広告を試したこともある、という説明を繰り返した。異なる広告は「言語、単語、色を変え、さまざまなクリエイティブを変えて作った。青いボタンより緑のボタンを好む人がいたりしたからだ」(同氏)と60 Minutesで解説し、1つの広告から多種多様なものを吐き出すための自動化システムの概要を話した。「『寄付』という言葉が好きな人もいれば、『貢献』という言葉が好きな人もいた」(同氏)

    Facebookは、ブルームバーグの記事で言及された報告書について、コメントを拒んだ。


    「Facebookは、意図していたとおりの使われ方をした」

    トランプ氏の選挙キャンペーンに精通している人たちは、Facebookがキャンペーン期間中トランプ氏陣営と緊密に連携していた、と話す。これに対し、FacebookはBuzzFeed Newsに、「どの広告フォーマットが最大の結果を出したかや、最良の戦略を選ぶのに役立つ知見の活用方法といった情報など、ベスト・プラクティスに関するアドバイスをした」と説明。さらにFacebookは、広告キャンペーンの構築と規模拡大にかかわる作業は、ほとんど「外部ベンダー」が実行していた、という指摘もした。

    Facebookは、トランプ氏のキャンペーン以前からTLAマーケティング・モデルをほかの顧客に適用していた。ただし、さまざまな文書から見てとれるのは、トランプ氏の勝利以降、TLAが効率的であることを示す重要な事例の1つとして、この大統領選挙キャンペーンを取り上げるようになったことだ。元社員はTLAを、ある1つの要素だけ変更して実験を進めるよく知られた手法になぞらえ、「美化されたABテスト」と称した。

    Facebookで2017年後半に行われた社内向けプレゼンによると、そんなTLAには、異なる「メッセージ」「クリエイティブ」「フォーマット」「配信方法」の「組み合わせを変えた大量の広告」を展開する作業が含まれるそうだ。TLAを利用する顧客は、Facebook上で「広告リーチ対象と考えられる最小限のユーザーに対して」組み合わせを試験し、もっとも効果の高かった広告を全体に向けて配信することになる。

    このプレゼン資料によると、これまでTLAは、Facebook内部のマーケティング活動で3回採用されている。たとえば、オンライン・フリーマーケット・サービスCraigslistと似たFacebookのフリマ機能「MarketPlace」を宣伝する活動や、ブラジルおよびインドネシアで配信した「『ニュースフィード』の情報整合性に対する認識改善」用の広告を試験する活動に適用された。

    元社員によると、Facebookは同様の広告戦略を、現在実施中のHere Nowキャンペーンの一n環として、米国向けニュースフィードに関する広告テストでも採用したそうだ。その結果、数百万人のユーザーが、Facebookのアプリやウェブサイトを開くと「クリックベイト(クリック数稼ぎが狙いの投稿)は友達なんかじゃない」「データの悪用は友達なんかじゃない」などと宣言する広告を眼にするようになったのだ。この情報は、Facebookの広報担当者も事実と認めている。

    この元社員は、匿名を条件に「こうした学びは、トランプ氏のキャンペーンから直接得たものだ。トランプ氏の陣営は、意図していたとおりのやり方でFacebookを利用した」と話してくれた。

    多くの情報からFacebookのとった行動は明らかになっているものの、現役のFacebook幹部が公の場で語ることはないだろう。

    コビー氏はBuzzFeed Newsに対して、「バーニー(民主党の大統領候補の座を狙っていたバーニー・サンダース氏)やオバマ(前大統領のバラク・オバマ氏)に協力したときのように、Facebookは我々の活動を大いに称賛すべきだった。Facebookから提供されたツールに変わりはなかったが、我々がそのレベルを高め、商売や政治の分野で活動するマーケティング担当者の知らなかった方法でFacebookを活用できると教えたのだ」と話した。 ●

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan